「戻って来たコロナ」
祖国の未来をかけた医療者たちのCDM

  • 2021/6/14

【編集部注:】

クーデターの発生以降、市民の抗議行動や、軍による発砲と弾圧により、コロナどころではなかったミャンマーで、最近、感染者が再び急増しているといいます。市民的不服従運動(CDM)が医療分野でも今なお続く現地から人々の様子を伝えるFacebook投稿を紹介します。

~ 以下、Facebook投稿より ~

チン州で亡くなった、コロナ感染患者。 棺を包むのは、チン族の布。クリスチャンの十字架が添えられている (c) The irrawaddy / web

渦中のミャンマーに、コロナが戻ってきた。
クーデター後も毎日、数人〜20人くらいの感染者が出ていたのだけれど
5月末、それが突然90人台に跳ね上がった。
そして、6月3日は122人(陽性率 8.4%)
昨日は、6月4日は212人(陽性率 12%)
と、一気に増えつつある。
多くはチン州の辺境(ほぼインド)の町での感染とのことだが、
すでに3日前には、ヤンゴンでも19人の感染者が出たらしく
今後きっと都市部でも広がっていくだろう。
いつかくると、誰もがわかっていた。
クーデター後も、時々思い出したように「今コロナきたらヤバイね」という会話を、何度もしてきたのだ。
でもこの現状で、打つ手がない。
どうする、ミャンマー。
___
2月1日以降、ミャンマーはコロナを忘れた。
ウィルスとクーデターでは、危機感のレベルは桁違いだったのだ。
コロナ感染を誰よりも恐れ、在宅ワークを続けていたスタッフですら
デモが始まると、迷うことなく群衆の中に飛び込んでいった。
1日2万件ほどあったコロナの検査件数は、クーデター後、1日1000件程度にまで減った。ざっと20分の1だ。
というのも、コロナの検体を取り扱うラボの検査技師ももれなくCDM(公務員の職場ボイコット)に入ったし、
1月までコロナの検査をしていた公立病院は、軍に占領されて、人々が近づかなくなったからだ。
私は以前、友達に「もし今コロナの症状が出たらどうする?」と聞いたことがある。
彼女はキッパリと「検査は受けない」と言った。
そうだろうな、と思った。
陽性が出て、軍占領下の病院に入院、なんてことになるのも嫌だろうし。
でも、彼女が話してくれた理由は、私の想像とは違っていた。
彼女はこう言った。
「CDMを続けている医療者に迷惑をかけるから。
 検査してもし陽性が出たら、きっとお医者さんたちには、職場に戻るようにさらにプレッシャーがかかってしまう。
 みんなのためにCDMをやっているのに、それは申し訳ないよ」
市民はこんな形でもCDMを支えていたのだ。
軍は、陽性者数が減ったのをみて「コロナは抑えた」とアナウンスし、規制を緩めた。
(検査数が減っただけなんだけどね)
もちろん、それがただの「軍政下のミャンマーはうまくいってる」アピールだということは、誰もがわかっている。
____
では、現在の感染増加に対して、何かコロナ対応プランはあるのだろうか。
軍はひとまず感染の多い地域をロックダウンし、感染者が出た地域の空港を閉鎖した。
そのほかには、特にこれといったアナウンスは出していない。
コロナ対応のシステムは、クーデター前はかなりシステマチックだったけど(※)、それも今はまったく機能していない。
(※)以前は、地域ごとに「発熱外来」がつくられ、コロナ疑いの患者さんたちはまずそこを受診することになっていた。
この発熱外来でコロナ検査を勧められると、公立病院で検査を受け、
陽性の場合は重症度によって、病院やCOVID隔離センターなどに振り分けられていた。
(ちなみにこれを支えたのは、多くの住民ボランティアや、篤志家や財団などからの数億円!単位の寄附だ。
 残念ながらその篤志家の一部も、今は拘束されている)
4日には、国際赤十字委員会の代表者がミンアウンフラインに会って、医療体制などについて話したそうだが
軍営新聞には予想通り「軍最高司令官が赤十字の訪問を受けた」という、やたらと華々しい写真が載っただけで、何の中身も書かれていなかった。
___
軍政が頼りにならないのなら、民間の医療者はどうだろう。
知り合いの医師たち数名に聞いてみたが
残念ながらみんな「どうすることもできない」と首を横に振る。
なぜなら、医療者たちが自主的にコロナ対応システムを立ち上げたりすれば
軍からの攻撃を受けることが目に見えているからだ。
例えば、ヤンゴンではクーデター後、公立病院にかかれなくなってしまった住民のための無料クリニックが、各地域に10施設ほど立ち上がっていた。
そこでは地域の医師が、日替わりのボランティアで診療していた。
しかしこれらはほぼ全て、軍からの襲撃を受けた。
そこで働く医療者たちも(たとえCDMの医療者でなくても)次々に逮捕され、結局クローズせざるを得なかった。
え、なんで襲撃されるの?と、医師に聞くと、彼らはこう答えた。
「僕たちにもわからないけど・・・
 たぶん、本来公立病院を受診するはずの患者が無料クリニックに流れてしまうから、
 きちんと医療システムが機能していることをアピールしたい軍政としては無料クリニックを潰したいんじゃないかな」
・・・なんてこった。
本当に、国民のことは何も考えていない。(わかってたけど再確認)
そんな状況なので、医療者たちもなかなか動けない。
今ある民間病院や個人クリニックが、発熱外来のかわりになるしかないけれど
物資も人員も決して十分ではないし、感染爆発が起きれば抑えきれないだろう。
知り合いの医師の一人がかろうじて
「発熱外来のかわりに発熱ホットライン(電話)をつくったよ」と話してくれたけれど、
私の周囲のミャンマー人たちに聞くと「そんなホットライン聞いたことない」と口をそろえるので、あまり周知されていないのだろう。
(軍にまで周知されてしまえば危険なのかもしれない)
___
それでも、CDMは続く。
これには日本人からの批判的な意見を聞くこともあるが、
個人的には必ずしも批判はできないと思う。
ある医師は、こんな風に話していた。
「クーデターの翌日、医療者がすぐにCDMを始めたのは
 国にとって絶対に不可欠な医療がなくなれば、軍が譲歩して
 早めに事態が解決に向かうと思ったからなの。
 でも私たちの想像以上に、事態は長引いている」
また、別の友人はこう話した。
「昨年、コロナが流行したとき、病院でこんな物品が必要だ、とか、こういう対策が必要だ、と保健省に言うと、政府はすぐに対応してくれたの。
 そんなこと、軍政下ではありえなかった。強烈なトップダウンだったから。
 医療者はみんな、あぁこれが民主主義なんだ、と初めて知ったんだよ。
 現場の声が政策を変えることがあるんだ、と知って、これから医療は変わる、と希望を持ったの。
 軍政に戻るということは、そういう医療の状況もまた後戻りするということ。
 医療者のCDMには、ミャンマーの医療の未来がかかってるんだよ」
___
これからくるコロナの波に、どう対応するのか。
軍は、感染者数をきちんと発表しつづけてくれるのか。
果たしてその数値は、本物なのか…。
漠然とした不安の中、日常は続く。

チン州の最北部(ほぼインド)Cikhaの病院で治療を受ける患者たち (c) reuters / web

よく「ヤンゴンでは誰もマスクしてない」という話があるが、私の感覚では(場所によるが)マスクしている人も結構多い。 「マスクしていなかったら罰金」のルールも取り消されていない。 この写真は6月3日、軍の弾圧を受けないよう、フラッシュモブ的にデモをするヤンゴン市民。通行人のふりをして一箇所に集まり、走って移動しながら数分だけ声をあげ、すぐに解散する。 (このマスクはもしかすると、顔を隠す意味もあるのかもしれない)(c) AP / web

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