神戸の街から祖国を思うミャンマー人留学生の記録
不安とともに生きる神戸在住のユさんの密着映像を在日ミャンマー人記者が制作

  • 2022/8/24

 「私たちの武器は軍に比べて質が良くないので、戦闘の時は不利だ」―。兵庫県神戸市の小さなアパートで、携帯電話のビデオチャットからミャンマー語が聞こえてくる。日本には約3万人のミャンマー人が住んでおり、昨年2月のクーデター以降、人々への弾圧が続く祖国を思いながら不安の中で暮らしている。筆者は、2019年10月から神戸にある専門学校で留学生活を送っているユさん(仮名)に密着取材し、彼女の日々を記録した。

神戸市の三ノ宮駅の近くを歩くユさん(筆者撮影)

クーデターで一変した故郷の村

 ユさんが生まれたのは、エーヤワディー川上流域の「上ビルマ」と呼ばれる地域のアニャ地方だ。マグェ管区、サガイン管区、そしてマンダレー管区と接するこの地域は、19世紀まで王朝の都が置かれ、国王が統治していた。マンダレーは、ミャンマーの古い建物や文化遺産が多く残る古都である。下ミャンマーに位置するヤンゴンの人々が使う言葉とは異なる訛りを話すのが特徴だ。ユさんの発音にも独特の訛りがある。

 2021年2月1日に軍事クーデターが起きるまで、ユさんが住むアニャ地方の村はとても平和だったという。「村は農家や労働者が多く、朝起きると職場や畑に出かけて作業をしていた」と、ユさんは懐かしそうに話す。この地方では、豆やゴマ、米などが栽培されている。
 村では、自分の家にご飯がなかったり、あってもそのご飯をあまり食べたくなかったりする時には、隣の家に行ってその家の人が作るご飯を食べさせてもらっていたそうだ。アニャ地方の人々にとって、互いに食事を振る舞いう関係はごく当たり前のことだったのだ。

取材に答えたユさん(筆者撮影)

 しかし、クーデターによってミャンマーは一変した。軍は非暴力の抗議デモに参加する国民を、実弾を用いて無差別的に排除するなど、徹底的に弾圧したのだ。政治犯支援団体(AAPP)の調査によると、軍により殺された市民の数は、今日までに2100人を超えているという。こうした理不尽に対抗して身を守るために、ミャンマー各地でさまざまな国民防衛隊(PDF)が誕生した。ユさんの村でも、状況は同じだった。

国軍を戦おうとしている国民防衛隊(PDF)(c) PDFのFBページより

 戦闘が激化するにつれ、軍の無差別攻撃の手も強まる一方で、アニャ地方も昨年後半から戦場になった。DATA for Myanmarの調査によれば、2022年5月末の時点で、アニャ地方だけでも軍によって1万7000軒の住宅が燃やされた。村を軍から守るために、ユさんのお兄さんも銃をとって革命に参加しているという。

激化する戦闘に身を投じた兄

 クーデターが起きる前は、インターネット電話で家族と連絡を取っていたユさん。しかし、クーデターが起きてからは、それができない。PDFが情報にアクセスできないよう、軍がアニャ地域をはじめ、一部地域のインターネットを遮断しているためだ。ユさんも、家族と話したい時は高い通話料を払って国際電話をかけなければならなくなった。

お金を数えるユさん(筆者撮影)

 それでも、どうしても顔を見て話がしたい時は、インターネットがつながるところまで移動してもらい、話をする。特に、PDFに入り、山奥で闘っているお兄さんと話す時は、はじめは「変わりがないですか?」とお互いを気遣う挨拶をした後、話題は必ず戦闘の話や避難生活の苦しさに移る。
 「闘おうとしても、弾が足りない。銃がなければ闘い続けることはできない」と、お兄さんはアニャ訛りでユさんに不満を伝える。すぐ近くの村が燃やされて人々が避難を余儀なくされているといった話も、ユさんはお兄さんから繰り返し聞いているという。

消えた夢と、現在の夢

 クーデターが起きたことを知ったのは、友達からの連絡だった。「信じられなくて何度も確認したが、本当だった。スーチーさんもつかまったことも分かり、その日の朝の授業は空の上だった」と振り返るユさんの瞳から、涙が溢れ出す。
 もともと、ユさんは、現在通っている専門学校を卒業した後、日本で少し働いてから故郷に帰るつもりだった。故郷で日本語学校をつくるという夢もあったという。「その夢も2月1日を境に消えてしまった」

部屋にはユさんの卒業式の日に撮った家族写真が飾られている(筆者撮影)

 今のユさんの夢は、1日も早く民主化が戻ることだ。民主化にならない限り、平和な日々は戻ってこないと信じているからだ。さらにユさんは、「アウンサンスーチー氏も早く解放してほしい」と、続けた。
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 神戸の街から故郷を思うユさんの密着映像はこちらからご覧いただけます:

 

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