「家族を守るためにサガインの村に戻る」
ヤンゴンの街で故郷を思う青年の言葉

  • 2022/1/21

 2021年2月1日にミャンマーでクーデターが発生して、間もなく1年になろうとしています。軍の弾圧と、それに対抗するPDFの闘いは今も続き、現地の状況に打開の兆しが見られない中、最大都市ヤンゴンの会社で働くザガイン出身の若者の思いを伝えるnoteの投稿を紹介しました。

~ 以下、noteの投稿より ~

(筆者撮影)

 「やつらは空からやってくるんだ。空から爆弾を降らせるから、村のみんなは逃げるしかない。PDF(人民防衛隊)も逃げるしかない。そして、その直後に30人くらいの先遣隊が村に入ってきて、村にPDFがいないか確認すると、200人ほどの本隊がやってくる。無人の村で、やつらはやりたい放題なんだ」

村は解放区となった

 ネーリン(仮名)はヤンゴンのある会社で事務職として働く20代の青年だ。会社に入って数年になるが、少し前まで両親と兄弟が住む村に戻っていた。サガイン地方の故郷の村の周囲に昨年10月から軍がしばしば侵入するようになったと聞いた彼は、家族が心配でしばらく村に帰っていたのだ。

 彼が村に戻った頃は、村の周囲にいた軍は全て撤退し、村にも平和が戻っていた。近くの町には警察署や政府の行政機関もあったが、軍が撤退するとともに、警察官や政府の役人もいなくなった。残っていたのは、CDM(国民的不服従運動)で職場を離脱した一部の警察官と役人だけだった。

 軍が撤退すると、村や近くの町は、住民が自分たちで自治を行う、一種の「解放区」のようになった。思えば、最大都市ヤンゴンでも、デモが盛んだった昨年2月から3月には一部の地域で住民による自治が行われていた。住民を攻撃する軍から自分たちを守る必要があった上、警察も役所も機能していなかったためだ。短い期間とはいえ、防衛部門(自警団)、医療部門、財政部門などを揃えた、かなり本格的な自治だった。

 村が平和になったことを確認したネーリンは、再びヤンゴンに帰ってきた。会社の仕事があったし、彼が働かなければ弟や妹が大学で学ぶことができないからだ。

 ネーリンは、口数はそれほど多くないが、明るい青年だった。会社でも積極的に同僚と会話していた。もともとは政治や社会問題にそれほど興味があるわけではなく、スマホやゲームが好きな、日本にもよくいる普通の青年だった。しかし、2021年2月1日に起きた軍事クーデターによって、すべてが変わってしまった。

独立自尊の気風

 彼の故郷があるサガイン地方は、古都マンダレーの北部に位置し、北はカチン州に接している。昔から独立自尊の気風が濃く、王朝時代には勇猛な戦士も数多く生まれた土地柄だ。

 クーデター後、カレン、カヤー、カチン、チンなど少数民族の地域では、早くから軍と武力衝突が始まった。これらの地域は昔からKNU(カレン民族同盟)やKIA(カチン独立軍)などの民族軍が政府軍と戦っており、戦争に慣れているのに対し、サガインには民族軍がなく、ビルマ人(族)が多く住んでいるにも関わらず、ビルマ人主体の軍と激しい衝突が起きたのだ。

 ザガイン地域ではもともと軍を支持する人々は非常に少なかった。2020年11月に実施された総選挙でも、軍の傀儡政党であるUSDP(連邦団結発展党)に投票したのは、住民の1%程度だったのではないかとネーリンは言う。一般的に、ビルマ人(族)の中には家族や親戚の中に軍人がいる人が多い。しかし、彼の故郷では、軍に入る人が昔から少なく、家族や親戚に軍関係者がいる人も少数派なのだ。

 ネーリンの故郷の村の周囲には数十の村があるのだが、ほとんどの村にPDFがいるという。多くは20代前半の若者たちだ。また、KIA(カチン独立軍)の兵士も友軍として集まっている。こうしたPDFやKIAは、村人から食糧などの支援を受けている。

軍が村人を殺す理由

 軍は、それまで経験したことのないPDFとの戦いに苦戦している。少数民族地域だけでなく、ビルマ人(族)が多数を占める多くの地方でも、地元の若者たちが武装蜂起したのだ。しかし、彼らは貧弱な武器しかなく、経験も乏しい。当初、圧倒的な兵力を持つ軍はPDFをすぐに制圧するだろうと思われていたし、筆者もそう思っていた。しかし、違った。

 侵入してくる軍に対し、PDFは地の利を生かした待ち伏せ攻撃によって、軍に多大な損害を与えた。また、自分たちの家族や友を守るために自ら死地に飛び込んで戦うPDFを前に、軍は明らかに戦意を喪失していた。実際、PDFの攻撃に遭うと、兵士はすぐに逃げるのだ。兵士たちの多くは軍内部で洗脳され、軍の正当性を信じていたが、戦いの現実を目の当たりにして真実を知った者も多かった。

 地上戦でPDFや民族軍の攻撃に耐えられなくなった軍は、空からの攻撃と大砲などの重火器を使用するようになった。軍はいまや、この二つの支援がなければ、地上では戦えない。

 そして軍は、今まで少数民族地域で行ってきた戦略を実行するようになった。PDFの勢力が強い地域の村や町を襲い、徹底的に住民を叩くのだ。「PDFの味方をすると殺すぞ」と脅すのだ。こうして軍は、恐怖によってPDFと住民を分断しようとしたのだ。「Four Cuts」 と呼ばれる、いわゆる分断戦略である。しかし、軍が住民を攻撃すればするほど軍への憎悪は高まり、より多くの若者たちが武器を取り、住民も積極的に彼らを助けるようになった。

空からやってきた

 一度は軍が撤退し、平和が戻ってきたかのように思われたネーリンの村も、12月に入るときな臭くなってきた。いったん撤退した軍が、またやってきたのだ。それも今度は空からヘリコプターで兵士を運んできたのだ。以前はトラックに乗ってきていたが、多くのトラックがPDFによって爆破され、兵士が多数死んだため、兵士も物資も空輸するようになったのだ。補給の食料も空からくるという。

 こうして、冒頭で紹介した通り、軍が空から村に侵入するようになった。いったん村に入ると、彼らは金目のものをすべて持ち去るという。豚や鶏も、彼らの胃袋の中に入る。もはや軍隊ではなく、盗賊だ。もっとも、ある意味、 “Four Cuts” 戦略を忠実に実行していると言えるのかもしれない。

 軍は、ネーリンの故郷の村の近くまで来ている。いつ、彼の村にも来るか分からない。軍が来れば、村人は逃げるしかない。逃げ遅れ、軍に見つかれば殺されてしまうからだ。他の地方では、集団で焼き殺された事件も報告されている。

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