「一帯一路」構想10周年目の不穏
対外姿勢のさらなる強硬化により西側諸国との距離が拡大する中国

  • 2023/7/6

 中国の習近平・国家主席が2013年9月にカザフスタンのナザルバエフ大学で一帯一路構想の基となる「シルクロード経済ベルト」の概念を初めて提唱して、今年で丸10年となる。だが、その節目の年に、一帯一路構想は存亡の危機に直面している。G7の中で唯一の参加国であるイタリアが脱退の意向を表明したうえ、構想を金融面から支えるために設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)も、カナダ人元幹部から「共産党にコントロールされている」と告発され、信用が根底から揺らぎ始めているのだ。さらに、中国の融資を受けインフラ建設を開始した途上国の多くが「債務の罠」に陥り、中国国内の財政問題もあいまって解決のめどが立っていない。習近平氏は10周年を記念して今年中に第三回「一帯一路国際協力フォーラム」を開催するよう命じているが、いまだ日程すら明らかになっていない。

香港で開かれた「一帯一路の成果と展望」に関するフォーラム (2023年6月7日撮影)(c) 新華社/アフロ

表面化した二つの突出した問題

 一帯一路オフィシャルサイトによれば、中国はこの10年間に151の国々、および32の国際組織との間で一帯一路共同建設プロジェクトの協力文書に200件以上署名を交わしたうえ、一帯一路の沿線に位置する国々の非金融セクターへの直接投資は、2022年6月末までに1400億ドル(約20.2円)以上に上るという。さらに、沿線の国々がインフラを建設するための投融資額が累計1兆ドルを超えるというニューヨークタイムズの推計や、2008年から2021年の間に22の途上国に2400億ドル(約34.7円)の救済支援を追加で行ったというロイターの推計もある。これらの内容は不透明だが、債務の担保として地政学的に重要な国のインフラについて、その支配権の一部を要求するケースもしばしばあることから、「事実上の植民化だ」として国際社会から非難される状況になった。

 オ―ストラリア・モナシュ大学商学院の史鶴凌教授は、フランス国際放送のインタビューに答え、「一帯一路は当初、中国にとっては国内の余剰生産能力を利用でき、沿線国にとっては中国の資金と技術と管理能力を利用して自国のインフラを発展させることができる中国版マーシャルプランとして期待されていた」と指摘したうえで、「しかし、時間が経つにつれて構想がはらむ二つの突出した問題が表面化してきた」との見方を示す。
 一つ目の問題として史鶴凌教授が指摘するのは、投資の一部が沿線の国々の経済的な要求に合致せず、期待された経済効果を生まなかったうえに投融資が回収されず、中国に巨額の借金を負うことになったという問題だ。「中国は、一帯一路の沿線国の債権国として、極めて政治的な方法で債務の問題を解決しようとした。スリランカやパキスタン、マレーシアなどの重要な港湾の支配権を得ようとしたのも、その一環だ。これによって、世界銀行なども一帯一路に対する見方を変え、投融資を受ける国に対して“債務の罠”に注意するようにとの警告を出すようになった」。
 さらに史鶴凌教授が二つ目の問題として挙げるのが、西側諸国の反応だ。一帯一路の目的が、当初言われていたような経済的なものではなく、地政学的であることが明らかになってきたことを受け、西側諸国は否定的な姿勢を鮮明にしつつあるという。「イタリアなど、一部の国は一帯一路からの撤退について検討を開始したうえ、2018年に中国と一帯一路に関する協力備忘録に署名したオーストラリア・ビクトリア州も、その後、連邦の政権が変わったタイミングで調印を解除した」。

「中欧列車」の欧州到着式典に出席した中国の習近平国家主席とポーランドのデュダ大統領 (2016年撮影)/© Andrzej Hrechorowicz/Wikimedia Commons

 結果的に、一帯一路の投資規模は、開始当初から大きく後退し、投資額は全体でおよそ80%減少している。地域別に見ると、東南アジア向け投資は60%減少、アフリカ向け投資も40%減少した。背景には、中国経済の低迷が挙げられる。つまり、投融資するための資金が底をついたのだ。

 失敗の原因としては、一帯一路の投資プロジェクトの実現可能性を精緻に調査せず、投資対象国の債務返済能力も考慮していなかったことが大きい。もとより一帯一路は経済効果より、習近平国家主席の政治的な野望を満たすためのものであったため、誰もその点を精査していなかったのだ。結果的に債務整理もうまくいかず、未完の野ざらしのプロジェクトが放置されているのが現状だ。史鶴凌教授は、「中国の一帯一路関連の業界は、多くが破産状態にある」と指摘する。

民間外交でイタリアの脱退阻止を画策

 こうした状況を受け、中国は一帯一路の延命を必死に図ろうとしている。まず、イタリアの脱退を阻止するために、劉建超・党中央対外連絡部長を6月28日から3日間、イタリアに派遣し、民間・ビジネス界に対してロビー活動を行った。劉氏は、イタリア中国理事会基金会とイタリア工商界のメンバーを行脚し、一帯一路に参加したイタリアの決断が正しいものだったと説得して回った。台湾政治大学の国際関係研究センター、宋国誠研究員は、今回の劉氏のイタリア訪問にとどまらず、それ以前の秦剛外相や李強首相の欧州連合(EU)訪問について、「中国がEU加盟国の政府ではなく、民間外交を通じた戦略へと路線を変えている」と指摘する。「EUもアジア太平洋も、すでに(米国が主導して)中国を包囲するネットワークが形成されている。地政学的に見れば抜け穴も欠陥もない、ほぼ完璧な包囲網で、西側国家間の政治的な結束に中国共産党は入り込むことができずにいる。そのため中国は現在、民間の親中派企業や団体を通じてこの包囲網を突破する血路を切り開こうとしているのだ」。

中国の一帯一路構想© Mathildem16/ Wikimedia Commons

 そのうえで宋研究員は、「民間のパワーを用いても、中国がEUのビジネス界や政界で失った信頼を取り戻すことは困難であろう」との見方を示し、次のように予想する。

 「実際、一帯一路の現状を見れば、契約違反もあれば、未完のまま野ざらしになっているプロジェクト、手抜き工事による欠陥建築が後を絶たない。プロジェクトを途中で放り投げ撤退するなどということは、欧州の企業には到底、理解できない。一帯一路は名前こそまだ存在しているが、実質的には死に体であり、数年後には次々と一帯一路から撤退する国が出てくるのではないか」

低下する中国経済市場の魅力

 中国経済市場にかつてほどの魅力がなくなったということも、各国を一帯一路につなぎ留められない理由のようだ。在米華人政治学者の呉強氏は、ラジオフリーアジアのインタビューで、劉建超氏が今回のイタリア訪問によってビジネス界の力を借りようとしていることをどう見るかと問われ、「中国が民間企業に西側との架け橋を期待するのは、改革開放当初の常套手段だった。当時は確かにこれによって西側企業は中国市場で最恵国待遇を得ることができ、西側企業にもメリットがあった」と指摘。そのうえで、「しかしながら、今日の国際環境では同じ方法で問題を解決することは難しいだろう」との見方を示す。

 「中国は、独自のイデオロギーを掲げて西側社会から自ら距離を置いている。これでは、中国の政治経済の根本矛盾を暴露しているようなものだ。イタリアに一帯一路に残ってもらうためには、中国自身がもっと低姿勢になる必要がある」「もし、イタリアに脱退を思いとどまらせることができなければ、一帯一路は非常に大きな打撃を受けることになる。さらに、民間企業へのロビー活動の手段では、もはや中国と西側の矛盾を解決することができないということも明らかにしてしまうだろう」

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