インドネシア大統領が中国を訪問
域内の国家経済を左右する中国の経済状況をASEANはどう見ているか

  • 2023/9/14

 インドネシアのジョコ大統領は7月下旬、中国内陸部・四川省成都を訪問し、習近平国家主席らと会談した。報道によると、インドネシアが首都移転を計画している新首都「ヌサンタラ」の建設などについて意見を交わし、この建設において中国が戦略的パートナーであり続けることを望んでいる、と伝えたという。

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領 (c) wikimediacommons

地元紙は「経済志向の現実的な路線を維持」と評価

 世界最大のイスラム国であり、東南アジアから唯一、G20に参加するインドネシア。昨年はG20の議長国を初めて務め、「グローバルサウス」の中心国の一つとして存在感を示した。大統領の中国訪問について、インドネシアの英字紙ジャカルタポストは8月4日付の紙面で、「自由で積極的な外交の成果」と題した社説を掲載した。

 社説はまず、インドネシアの政治理念の中核は「自由で積極的な」外交政策である、と指摘したうえで、ジョコ大統領の外交もこの原則に基づいて経済志向の現実的な路線を維持している、と評価した。7月末の中国訪問でもこの方針は維持され、大統領は訪問先において投資約束の取り付けに奔走したという。

 そのうえで社説は、今回の訪問から、ジョコ大統領が単に経済的な成果だけではなく、「インドネシアがその規模に見合った、より大きな役割を世界の舞台で果たすことを望んでいる」ことがうかがわれるという見方を示し、「その背景には、南シナ海、台湾海峡、東シナ海における大国間の対立がある」と指摘する。東南アジア地域は今後、ASEANと中国が対立を続ける南シナ海問題や、有事が懸念される台湾海峡など、大国が関与する対立に深く巻き込まれる可能性がある。いかにその「運転席」に座り、事態を掌握するかがASEAN諸国の命運を握っていると言っても過言ではなく、その役割を担うことができるのは、インドネシアのような域内大国だろう。

 社説は、インドネシアの役割をこのように表現する。

 「我々はロシアのウクライナ侵攻を非難したが、モスクワをボイコットせよという西側の圧力には屈しなかった。緊張が高まる中、インドネシアのリーダーシップこそが、ASEANとそれ以外の地域の将来を決定付ける可能性がある。そのためには、インドネシアの自由で積極的な外交政策が極めて重要だ」

不動産苦境を報じるシンガポール紙

 インドネシアが重視するように、世界のパワーバランスの一端を担う中国だが、経済面では心配な動きも出ている。シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは、8月24日付紙面で、「中国の不動産苦境は続きそうだ」と題した社説を掲載した。

 中国については、国内最大の不動産開発業者の破産申請や債券利払いの不履行など、不動産業界の危機が相次いで伝えられている。社説は、「苦境は広がっており、いくつかの中堅デベロッパーも危機に直面している。不動産セクターへの投資は、1月から7月にかけて前年同期比で8.5%減少しており、価格も販売額も暴落した」と記す。社説によれば、中国政府は不動産購入の制限を緩和したり、預金金利を引き下げて消費を刺激したりする施策を打っているが、消費者は不動産価格がさらに下落すると見て購入を控えているという。

 その一方で、社説は、1990年代の日本や2008年以降の米国のような大規模な不動産市場の暴落は起きないだろう、との見方を示す。「中国政府は不動産の暴落を許さず、未完成物件の完成を可能にし、支援を提供し続ける」との見通しだ。 

                     *

 シンガポールを含む東南アジアにとって、中国経済の健全さは外交上のみならず、それぞれの国内経済の安定にとっても重要な意味を持つ。シンガポール紙の見通しが、「希望的観測」ではないことを祈るばかりだ。

 

(原文)

インドネシア:

https://www.thejakartapost.com/opinion/2023/08/03/fruits-of-free-and-active.html

シンガポール:

https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/china-s-property-woes-likely-to-persist

関連記事

ランキング

  1. (c) 米屋こうじ バングラデシュの首都ダッカ郊外の街で迷い込んだ市場の風景。明るいライトで照…
  2. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  3.  ミャンマーで2021年2月にクーデターが発生して丸3年が経過しました。今も全土で数多くの戦闘が行わ…
  4.  2024年1月13日に行われた台湾総統選では、与党民進党の頼清徳候補(現副総統)が得票率40%で当…
  5.  台湾で2024年1月13日に総統選挙が行われ、親米派である蔡英文路線の継承を掲げる頼清徳氏(民進党…

ピックアップ記事

  1.  軍事クーデター後のミャンマーで撮影されたドキュメンタリー映画『夜明けへの道』が、4月27日より全国…
  2. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  3. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
ページ上部へ戻る