「一帯一路」構想10周年目の不穏
対外姿勢のさらなる強硬化により西側諸国との距離が拡大する中国
- 2023/7/6
改正反スパイ法などの施行を強行
いわゆる中国外交官たちがこうしたロビー活動を通じて一帯一路の延命策を講じているというのに、習近平政権は対外姿勢をむしろ強硬化しており、7月1日には、改正反スパイ法や対外関係法の施行に踏み切った。これらの法律は、中国の外国人駐在員をスパイ容疑で逮捕したり、外国企業が経済活動で保有したデータに中国当局がアクセスして管理したりすることを可能にする法的根拠を強化するもので、対外政治関係と対外経済関係を習近平個人のイデオロギーと価値観によってコントロールできるようにするための法整備だと見られている。こうした法整備が進むことで、中国国内で働く外国人、特に米国人やその同盟国人の安全は大きく揺らぐだろう。
それを象徴するかのように、一帯一路を金融面から支えるために設立されたAIIBで幹部を務めていたカナダ人のボブ・ピカード氏が6月14日、身辺の危険を訴えて突然、日本に脱出した。ピカード氏は「ある同僚に、即刻、中国から離れた方が良いとアドバイスされた」と語り、自身がスパイ容疑で逮捕される危険が迫っていたことをほのめかせた。これに対し、AIIB側はピカード氏の辞職を受理したうえで、彼の主張には何ら根拠はないと反論したものの、同氏はさらにツイッター上で「AIIBの銀行管理部門は中国共産党に牛耳られており、組織内には共産党の有毒な空気が充満している」と批判。「AIIBの加盟国であることは、カナダにとって利益にはならない」と訴えた。これを受け、カナダ政府は2018年3月に加盟したAIIBとの関係を凍結することを発表。今後、AIIBに関する調査を実施し、結果によっては脱退も検討すると示唆した。
AIIBは、表向きは国際開発金融機関と謳われているものの、議決権の4分の1以上を中国が握っているため、事実上、中国共産党の意向を受けて運営されているのではないかという見方はかねてからあった。G7諸国の中では、日米をのぞく5カ国がAIIBに加盟しているが、かりにカナダがこのまま離れることになれば、それに続く国も出てくるかもしれない。
このような問題を乗り越えて中国が一帯一路を維持できるかどうかは、おそらく年内に開かれる第三回「一帯一路国際協力フォーラム」に参加する国の数と、盛り上がりの具合によって嫌が応でも可視化されるだろう。一帯一路構想が、習近平政権の外交政策の柱として党規約にも盛り込まれた国家プロジェクトである以上、仮に、この10周年の節目の年に開催されるフォーラムが、見るも無残な形で低調に終われば、政権に失敗の烙印が押されることは避けられず、第三期目の独裁新時代の行方にも大きな影を落とすことになるだろう。