ラテンアメリカの「今」を届ける 第4回
自立する障害者が、新しい世界へ扉を開く

  • 2020/12/4

ペルーの障害者リーダー・バルバラさんの思い

 新型コロナウィルス感染はラテンアメリカでも深刻だ。ペルーでは90万人以上が感染し、死者は3万5000人を超えた。この緊張期にあってもバルバラさんは意欲を削がれることはなかった。

 「私にはやらなければいけない仕事があります。障害者の人生を豊かにする自立生活を広げること。これは私の夢でもあります」

 彼女はこう言いながら、セミナーが開かれるまでの過程を次のように振り返る。

 「感染が拡大し、ペルーでも外出が禁止され、私たちは新しい技術で仕事を進めることになりました。そこで活躍したのがZoomです。私たちはこれまで、自立生活を進めるために必要な法律制定に取り組んできましたが、Zoomを使うことで、むしろ関係機関との会議や障害者同士のやり取りが活発になったので、自立生活運動にも取り入れることにしました」

 「普段なら、障害のこともあって頻繁に会えない私たちですが、こんな方法があると気がついてから、これまでよりもコミュニケーションを密に取れるようになったのです」

 こうして立ち上がったのが、「ラテンアメリカ自立生活ネットワーク」(RELAVIN:Red Latinoamericana de Vida Independiente)だ。ラテンアメリカ各国で自立生活運動を牽引するリーダーが加わり、バルバラさんも立ち上げから中心人物として参加した。6月から毎月オンライン会議を続けている。コロナに関する情報交換や活動報告から始まり、次第に広い世界を巻き込んだセミナー開催へと話が盛り上がる。9月に開いた会議では、メキシコからアルゼンチンまで、ラテンアメリカの広い範囲から30名の障害者運動のリーダーらが参加し、11月のセミナー本番を迎えた。

バルバラ・ベントゥラさん (本人提供)

 バルバラさんは、1983年にペルーの首都リマ市に生まれた。生まれつき病気による障害があったため、日常生活は母親がサポートした。子どもの頃から向上心が強く、周囲に負けないくらい勉強した。その後、ペルーで障害当事者として活動する中で「自立生活」を知り、2013年に訪日し「自立生活」の理念と実践を学んだ。今はリマ市で家族と同居しているが、生活全般のサポートをボランティアによる介助者が担っている。家族による介助では、どうしても家族の都合に行動が左右されるが、今は、自分が主体となって行動を決め、動くことができるようになった。

 「人生において、誰もがやるべきことがある。それは私も、母も同じです。母も自立生活の理念を理解してくれました」

 バルバラさんが掲げる一番の目標は、公的介助制度の法制化だ。国への働きかけとともに、来年度は首都リマ市とのプロジェクトとして、100人の障害者にエンパワーメントを含めた自立生活研修をし、同程度の介助者にも研修をする予定だ。またバルバラさんは現在、毎月、オンラインで日本のメインストリーム協会による研修を受け、自立生活の拠点となる「自立生活センター」発足に向けて、ペルーで17人の障害当事者の仲間たちと準備を少しずつ進めている。

 今、ペルーは政治的な混乱期にある。コロナによる経済的打撃も厳しい。こうした中、2021年には、国の行く末を左右する大統領選挙と国政選挙が予定されている。障害者に対する政策にも大きく関わる激動の時期だからこそ、バルバラさんの心に一層の火が灯る。

 「こんな時期だからこそ、私たちにはやるべきことがあるのです。オンラインで自分たちの意思を伝える機会が増えました。自分たちが権利のために闘う意味を、より丁寧に伝えなければいけません。その上で、具体的な行動に繋げていきたいと思っています」

ラテンアメリカに広がる自立生活運動の今後

 井上さんが、セミナーの意味と自立生活運動の今後についてこう話す。

 「金銭的にも、肉体的にも移動が難しい人たちが、今回のセミナーに数多く参加できたということは、運動の裾野の広がりになる。このセミナーを対面で実行しようとすれば、障害者と介助者の渡航費や現地滞在費など大きな資金が必要だった。オンラインで開催したことで、費用を格段に抑えることができた。さらに、なんといっても、移動に制限がある何百人もの障害者が参加することができた。この動きは、これからさらに加速していくに違いありません」

コスタリカを拠点にラテンアメリカの自立生活運動をサポートする井上武史さん(筆者撮影)

 2021年1月6日には、国連関係者を招き、国ごとに行動計画を策定するためにセミナーを開催することが決まっている。広大なラテンアメリカの大地で、障害者が新しい世界への扉を開きはじめている。

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