南太平洋の島嶼国にも広がる中国の影
政治腐敗や資源奪取、環境破壊、格差拡大で脅かされる地域の安定

  • 2021/12/25

 11月下旬のソロモン諸島における反政府デモと、それが引き金となり発生したチャイナタウン焼き討ち略奪事件、仏領ニューカレドニアの独立をめぐり12月12日に実施された三度目の住民投票、そして、東ミクロネシア海底ケーブルをめぐる中国と日米豪の間の駆け引き――。南太平洋島嶼国で今、起きている問題の背景には、いずれも中国の影がある。こうした事象は、この地域に限った問題ではない。来たるべきポスト・コロナ時代に向けて国際社会の枠組みを再構築していくにあたり、中国が大きな影響力をおよぼすであろうことは、間違いない。

デモ隊による抗議運動の跡が生々しいソロモン諸島の首都ホニアラ市内の中華街 (c) AP/アフロ

台湾断交を機に爆発した反中感情

 ソロモン諸島で起きた反政府デモと、チャイナタウンへの焼き討ち略奪事件は、一連の動きの中でも最も象徴的な動きの一つだ。
 ざっくりと説明しよう。ソロモン諸島ガダルカナル島にある首都ホニアラで11月24日、現ソガバレ首相に対する退陣要求デモが起きた。ソガバレ政権の汚職と腐敗に対する市民の不満が高じて起きたものだが、きっかけとなったのは、2019年の台湾断交だった。これは、中国から多額の賄賂を受け取った現政権を構成する政治家らが国民に説明することなく勝手に決定したもので、以前から中国系伐採企業がほしいままに同国の材木を伐採し、環境を破壊していることに反発していた人々の反中感情は、これ以来、拍車がかかることになった。
 反政府勢力の中心となったのが、親台湾派であるマライタ州のスイダニ知事だ。台湾はそれまで同州の農業開発プロジェクトを支援していたが、突然の断交によって、プロジェクトは打ち切られた。
 中国からの賄賂を受け取らなかったスイダニ知事は、中央政府が中国との断交を決定した後も台湾支持を打ち出し、州内で中国企業への営業を禁止するなどの措置をとった。米国はこれを支援し、マライタ州を拠点とする開発支援事業に2500万ドル(約28億5875万円)を供与する。さらにスイダニ知事はマライタ州独立を掲げて住民投票を実施する意向も示した。

トリガーは中台の外交戦

 そんなスイダニ知事およびマライタ州へのソガバレ政権の妨害や嫌がらせ行為は日を追うごとにエスカレートした。マライタ州が台湾から供与された新型コロナの防疫物資を政権が没収した上、スイダニ知事が台湾で脳外科手術を受け、不在にしている間に州議会に賄賂をばらまき、知事の不信任案を提出させようと画策した。もっとも、この不信任案は、議決日当日にマライタ州民が不信任案反対を訴えるデモを行ったため、有権者の反発を恐れた議長自信が自ら不信任案を取り下げるという顛末になった。後日、スイダニ知事は議長に「裏切らせてしまった」ことを謝罪して和解。結果的には、マライタ州の団結は一層強化された。

ソロモン諸島の首都ホニアラで暴徒化したデモ隊が議会に隣接する建物に火をつけ、炎上する様子を見守る市民たち(2021年11月24日撮影) (c) CHARLEY PIRINGI/AFP/アフロ

 こうした経緯を踏まえてマライタ州の民主活動グループが計画した11月24日のデモは、ソガバレ退陣を要求する平和的なものだったのだが、これが引き金となって貧富の格差にあえいでいた首都周辺の若者たちがチャイナタウンの商店を襲い、略奪して焼き討ちをするという事態に発展した。警察がデモ隊に催涙弾を打ち込んだとの報道もあるが、これは香港の反送中デモを「暴徒化」させたシナリオとよく似ているように筆者は思う。
 簡単に言えば、中央政府とマライタ州や他の島々との間の対立関係や貧富の格差、あるいは人口の増加による若者の失業といったさまざまな社会問題が、中台の外交戦がトリガーとなり暴発した、ということだろう。
 中央政府の要請を受けたオーストラリアやニュージーランド、パプアニューギニアの治安部隊がホニアラに派遣されて暴動は鎮圧されたが、これによって、親中派のソガバレ政権をオーストラリアら民主主義陣営が助けたことになり、チャイナマネーにまみれたソガバレ政権の退陣要求は不発に終わった。その後、ソロモン諸島の中央政府は、中国から警官を派遣してもらって警察を「訓練」し、国内の治安維持に努めることを発表。これにより、中国のソロモン諸島への進出がさらに加速されるという結果になった。

ささやかれる中国陰謀論

 12月12日に行われた仏領ニューカレドニアの独立を問う住民投票をめぐる動きも気になるところだ。結果だけ見ると、2018年に行われた1回目、および2020年に行われた2回目に続き、3回目となった今回も独立は否決された。フランス政府が1998年に取り決めたヌーメア協定では、独立を問う住民投票は3回までとされており、それにのっとればこれで決着がついたはずなのだが、ニューカレドニアの場合はそうとは言えないようだ。独立運動に加担しているとささやかれる中国が、ニューカレドニアの独立を依然として諦めていないと言われているためである。
 また、否決という結果は同じでも、今回と前回では違いもある。たとえば今回の投票率は44%と、前回の98%の半分以下にとどまった。また、今回は賛成が3.5%にとどまり、反対が96.5%と圧倒的多数だったが、前回は独立賛成が46.7%、反対が53.26%と拮抗していた。これは、当時、独立運動の先頭に立っていたカナク社会主義民族解放戦線がコロナを理由に投票の延期を呼び掛け、独立賛成派にボイコットを促したためだ。
 このカナクを率いる議長で、独立運動のリーダーでもあるロック・ワミタン氏のブレーン的な存在が、中国・ニューカレドニア友好協会の元会長の華人女性、カリーネ・シャン・セイ・ファン氏だ。友好協会を通じて現地の政策や社会世論を操作するのは中国共産党統一戦線部の伝統的な手法であり、住民投票のボイコットも中国のアイデアではないか、と言われている。   

ニューカレドニアの独立を問う住民投票の様子(2021年12月12日撮影) (c) AFP/アフロ

 フランス軍事学校戦略研究所(IRSEM)は今年9月、「中国の影響力と行動に関するシナリオ」というレポートの中で、「現地の独立運動を支援して潜在的なライバルを弱体化させることは、北京(中国政府)の利益に合致する」と指摘。ニューカレドニアの独立運動が中国の影響を強く受けていると明言した。
 実際、中国はメラネシアの国々(バヌアツ、フィジー、パプアニューギニア、ソロモン諸島)から成る地域連盟のメラネシア・スピアヘッド・グループ(MSG)を支援しており、バヌアツのポートビラに置いた本部建物も建設している。MSGは国際法に通じた中国人弁護士らを雇用し、国連の植民地独立付与宣言(決議1514)に基づいて今回のニューカレドニアの住民投票の無効化を画策している。
 独立派を率いる前出のワミタン氏は2020年10月、2回目の住民投票を前に、ル・モンド紙の取材に答えて「我々は中国を恐れない。我々を植民統治しているのはフランスであり、中国ではない」と述べ、「中国陰謀論はフランスによる支配を正当化するためのものだ」と反論した。

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