南太平洋の島嶼国にも広がる中国の影
政治腐敗や資源奪取、環境破壊、格差拡大で脅かされる地域の安定

  • 2021/12/25

海底ケーブル事業で一矢報いた米豪日

 ニューカレドニアからフランスを追い出せば、メラネシア諸国は中国の手中に落ちたも同然だ。中国がこの地域に固執する理由の一つは、もちろんレアメタルや木材、漁業資源などの天然資源だ。しかし、それ以上に、これらの国々が習近平国家主席の目指す中国中心の新たな国際社会を実現する上で重要な足掛かりになるという理由は大きい。
 地図を見れば分かるが、パプアニューギニアからバヌアツ、ニューカレドニアを通ってフィジーに至るラインは、米軍のレーダー基地があるパラオから米空軍アンダーセン基地がある米国領グアムを通り、レーガンミサイル実験基地があるマーシャル諸島に至る米国自由連合ラインと、オーストラリアを分断している。つまり、先の戦争で旧日本軍が多大な犠牲を払ってもこの地域に固執したのと同じ理由で、中国もまた、この地で軍事プレゼンスを確立し、米豪の連携を分断することが、今世紀半ばまでに米国と同等、あるいはそれを超える大国になるための必須条件だと見ているのだ。
 米軍基地のあるオーストラリアやグアム、ハワイ、パラオ、マーシャル諸島が浮かぶ西太平洋には、計641の島々が点在する。中国の存在感が一つ一つの島に浸透し、影響力が行使されれば、米軍を段階的にこの地域から排除できるというわけだ。それも、民間人、あるいは民間人を装ったヒューミントの力だけで。

(c) Marek Okon / Unsplash

 だからこそ、ナウルからキリバス、そしてミクロネシア連邦を結ぶ東ミクロネシア海底ケーブルの敷設に米豪日が資金を提供することは、非常に大きな意味があった。12月11日に開かれたG7外務・開発大臣会合の場で正式に決定され、翌12日にオーストラリア政府によって発表されたこの計画は、当初、世界銀行が主導で支援することになっていたが、そこに破格に安い価格を提示したのが、中国の通信機器大手メーカーであるファーウェイだった。最終的にはミクロネシア連邦とナウルが反対し、同社の参入は阻止されたが、その背後に日米豪による働きかけがあったのは、言うまでもない。
 新たに敷設される海底ケーブルは、グアム、マーシャル諸島、そして米国本土をつなぐ軍民両用のHantru-1に接続される。米軍資金によって敷設する海底ケーブルに中国のケーブルがつながっては一大事であった。しかも、ひとたび海洋ケーブルを敷設すれば、メンテンナンスのために常に船舶が往来しなければならないため、もし中国製のケーブルが敷設されていたら、ケーブルメンテナンスという名目で中国船がその海域を堂々と回遊することになっていたはずだ。伝統的に民兵組織が工作行為をする中国の場合、民間船といっても油断はできない。

命を懸けた先人たちと日本の役割

 南太平洋諸島におけるこのような情勢については、30年以上にわたりこの地域の安全保障や福祉政策に現地からコミットし続けてきた研究者の早川理恵子氏が主宰するインド太平洋ポッドカフェでうかがった話を大いに参考にさせていただいた。
 早川氏によれば、今回ソロモン諸島で起きたような、中国に付け込まれるほど根深い部族間対立の問題には、日本も深く関わっているという。先の大戦で、ガダルカナル島に日本軍が飛行場を建設した後に米軍に攻略され、そこを基地とするために米軍がマライタ島民を労働者として大量に連れてきたことが、今日の激しい部族間対立につながっているからだ。

© Winston Chen /Unsplash

 だからこそ、日本はこの地域の安定と繁栄に無関心でいることは許されない。一帯一路を掲げ、猛烈な勢いでこの地域に進出している中国は、島嶼国の現地政治を腐敗させ、資源を奪い、環境を破壊した上、貧富の格差を拡大させ、搾取を加速し、現地文化や社会を尊重しない多くの中国人を移民させ、麻薬やサイバー犯罪、賭博の温床となって治安を悪化させつつある。
 単に、安全保障上の理由や、「中国支配を許してはならない」という感情論ではなく、かつて多くの日本人が命を散らせてまで固執し、激戦が繰り広げられたこの地域にとって、真の意味での平和や安定、そして発展を考える役割は、やはり日本にもあると思うのだ。

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