【イベント報告】コロナと途上国、日本の役割を考えるZoomセミナーが緊急開催
収束の見込みや今後の国際協力を議論、約300人がライブで視聴
- 2020/5/30
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。世界全体で1日に10万人以上の感染が新たに確認され、187カ国・地域の累計感染者数は5月28日時点で570万人、死者も35万人を上回っている。こうした中、特に増加が著しい途上国や新興国の現状と課題を知り、日本の役割について考えるオンラインサロン「新型コロナと途上国」が5月23日、緊急開催され、アジアやアフリカ、南米、ヨーロッパで活動する識者や国際協力関係者がそれぞれの立場から論じ合った。
失われる30年の蓄積
このイベントは、日本で1日に確認される新規感染者数が減少傾向に入り、全国に出されていた緊急事態宣言も解除が進み足元に明るい兆しが見られつつある一方、世界の状況について得られる情報が限られることに問題意識を抱いた朝日新聞の藤谷健さんの発案に賛同した有志が集い、緊急開催された。
第1部では、リソースパーソンがそれぞれ現地の現状を報告した。
AAR Japanの藤田綾氏は、難民の受け入れ数が世界で3番目に多いウガンダにおける南スーダン難民の現状や、コロナ拡大を受けたロックダウン下の状況について紹介。「近隣国から陸路で入ってきたトラックドライバーが感染者の7割以上を占める」「女性や子どもなど社会的弱者への暴力の増加や、難民と受入住民との間の関係が悪化している」などと指摘した。
続いて、コペルニクの中村俊裕氏は、環境業に関するビジネスが大きな打撃を受けたインドネシアのバリで現地の焼酎「アラック」の生産施設を活用して手洗い用の消毒液を製造したり、77世帯を対象に簡易調査を実施したりしていることを紹介。収入が減少したと答えた世帯が8割に上り、とくに女性やインフォーマルセクター層の収入減が深刻であることや、電気・ガス代への支出が増大していると明らかにした。
今年4月、第63回世界報道写真(WPP)コンテストで日本人としては41年ぶり4人目の大賞を受賞したフォトグラファーの千葉康由氏は、検査施設で働くスタッフや公共バスの乗客の手に消毒剤をかける乗務員、キベラスラムで支援する地元NGOスタッフ、ナイロビ市内イースリー地区で露天商にウイルスの危険性を説く警官など、自身がケニアで撮影した写真を見せながら、現状を紹介。国境を越えるトラックドライバーや無防備に出歩くキベラスラムの若者などが感染を拡大している可能性があると指摘した。
世界エイズ・結核・マラリア対策基金 (グローバルファンド)の國井修氏は、人口あたりの感染者数が日本の20倍、死亡者数は30倍に上り、3月中旬より国境封鎖も続くスイスの現状を紹介。その上で、年間の感染者数が2億人、死亡者数が200万人に上る三大感染症(エイズ、結核、マラリア)を扱う同ファンドも、ロックダウンで医薬品が届かなかったり、コミュニティヘルスワーカーが働けなかったりして、最大8割のプロジェクトで新型コロナウイルスによる支障が出ており、死亡者数が倍増することが懸念されていると明かした。また、現在、感染者が10万人、死亡者が3,000人出ているアフリカ諸国について、今後、感染爆発が起こり、感染者数が4,000万人、死亡者数が20万人に上るとの予測がある一方、欧州諸国ほど深刻化しないとの見方もあると述べた。さらに、ワクチンや治療薬、診断薬の開発に向けて世界銀行や世界保健機関(WHO)、ワクチンと予防接種のための世界同盟(GAVIアライアンス)と連携し進めている国際協働の仕組み「Access to COVID-19 Tools Accelerator」(ACTアクセラレーター)についても紹介した。
世界銀行の石原陽一郎氏は、レソトが中進国に位置付けられているにも関わらず、新型ウイルスが深刻化する前から、貧困率50%、失業率25%と厳しい状況にあり、成人の23%がHIV / AIDS感染し、国民の4分の1が食糧難にあえいでいたと述べた。、また、同国の感染がいまだ少ない理由として、周囲を南アフリカ共和国に囲まれ、他国からのアクセスがないことを挙げた。その上で同氏は、同国ではインフォーマルセクター層が多く、ロックダウンが形骸化しつつあると指摘。感染爆発のリスクや情報伝達の難しさにも触れた。
UNICEFの青木佐代子氏は、チリに最初に新型コロナウイルスを持ち込んだのは、2月の夏休みを欧州で過ごして帰国した富裕層たちだったと指摘。彼らの居住区域には適切な病院があり処置を受けることもできていたが、感染が貧困層に広がるにつれて適切な医療を受けられない人々が増えつつあるため、南米では今後、感染拡大が深刻化するとの見方を示した。その上で同氏は、コロナがチリ社会に与えている影響について、教育面に焦点を当てて分析。学校間の運営資金の格差によって、子どもたちの学習環境にも格差が生じ、貧困層や移民の子ども、あるいは障がいのある子どもが取り残されるとの懸念を示した。特に、「チリが30年かけて積み上げてきた進歩がコロナによって失われつつある」という同氏の指摘は、参加者に大きなインパクトを与えた。