アフガン戦略の失敗で威信低下が進む米国
加速する内向き志向と2022年の針路を読む
- 2022/1/18
2021年8月、米軍のアフガニスタン撤退計画の失敗によって、イスラム主義組織タリバンが同国の全権を掌握した。バイデン米政権は「敗戦」から約4カ月後の12月に各国のリーダーを招待した「民主主義サミット」を開催し、米国の世界的地位の挽回に努めたが、結果は鳴かず飛ばずで、威信の低下は否めない。「アフガン後」、ユーラシア大陸において中露の軍事的示威が強まりつつある中、リベラル派も保守派も内向き志向を強めている米国の論調を改めて振り返りつつ、2022年の同国の行方と課題を読み解く。
戦術で補えない戦略の失敗
タリバンがアフガニスタンの全土を制圧した当初、米論壇では「そもそも戦争目的のゆらぎがある軍事行動を始めた共和党の大統領が悪い」「いや、事態解決を先送りした上に、杜撰(ずさん)な撤退を強行した民主党こそ失敗の原因だ」といった、低次元な責任のなすり合いが続いた。
しかし、時間の経過とともに、大筋において党派を超えた国家的な誤りを認め、内省する論調が主流になっている。現地の民心掌握ができなかったという根本的な戦略の失敗を、軍事力や経済援助という戦術で補うことができなかったという見解だ。
米国のザ・ネーション誌のコラムニストであるジェート・ヘール氏は、カブール陥落直後の9月16日付評論で、米国防総省が2020年1月にまとめた内部報告書「アフガニスタンからの教訓」の中で、「この戦争は開始当初から敗戦が決まっていた」と認めていることを明らかにした。同報告書では、米国が十分に現地の知識を有さず、自立した政府を樹立できなかったため、勝ち目がなかったと総括した上で、「歴代政権が、あたかもアフガン政府が本物であるかのように装い、解決を次の政権へと先送りしてきた」と指摘。「ニュース専門局であるMSNBC をホストするクリス・ヘイズ氏がいみじくも述べた通り、アフガニスタンの国づくりにあたり米国が掲げていた基本哲学は、現地政府が崩壊するまで(それに持続性があるとの)ふりを続けることだった」と、指摘した。
アフガニスタン政府は、事実上の支配者である米国の間接的な「占領軍政治」のコマに過ぎず、いわば、虎の威を借りる狐であった。そのため、現地を知る米国防総省首脳の中には、米軍という「虎」がいなくなれば、現地政府が何の権力も持ち得ないという実情を直視している者もいた。だが、米政治家たちは、リベラル派も保守派も「アフガン民主国家建設」の神話を信じる米国民の支持を喪失することを恐れ、現実から逃避していたと言えよう。
さらにヘール氏は、ブッシュ元政権とオバマ元政権の下でアフガン戦争を指揮したダグラス・ルート元陸軍中将が2015年に米政府関係者に対し「自分たちがアフガニスタンについて根本的な理解に欠け、何をしているのか理解していなかった」と語ったことを紹介し、次のように述べる。
「『アフガニスタンからの教訓』を読めば、米国のミッションがなぜ急速に崩壊したか明らかだ。常に巨大な嘘で包まれていたからにほかならない。撤退を決行したバイデン大統領の“英断”に対するシニカルで計算された大騒ぎは、(保守派が)いつまで経っても教訓を学ばないことを示している」
リベラル派も保守派も内向的に
一方、米国の解説サイト、Voxのザック・ボウチャンプ上席特派員は2021年9月8日付の論評で、「来たる9月11日は、同時多発テロから20周年にあたる重要な内省の日だ」と指摘した上で、介入主義を掲げるリベラル派が、保守派であるブッシュ元政権の対テロ戦争と親和性があったと分析し、アフガニスタンへの軍事介入が超党派の支持を得ていたとの見方を示した。
さらにボウチャンプ氏は、「アフガン撤退を決めたバイデン政権が、(身内である)リベラル派からもここまで批判されるのは、彼らにとって神のような存在であったリベラル介入主義が終焉を迎えたからだ」と論じ、「今や、リベラル派にとってのイデオロギー闘争の舞台は海外ではなく、米国内であることが明らかになった」と、総括した。つまり、リベラル派の目も内向きになっているとの見立てである。
事実、米国が対峙すべきは、外敵であるイスラム過激派なのか、内敵の白人至上主義者なのかという問いは、2021年1月6日に発生したトランプ前大統領支持派による米議会乱入事件の直後から発せられていた。共和党の非トランプ・主流派からも「対峙すべきは内敵」との主張が聞かれる。アフガニスタンで対テロ戦争を始めたブッシュ前大統領も、その一人だ。
ブッシュ氏は、米同時多発テロの20周年記念日にあたる2011年9月11日に演説し、「米国にとっての危険は、国外からのみならず、国内の暴力から生まれていることを示す証拠が積み上がっている」との認識を示した。そして、「文化的に共通点がない国内外の過激派は、多文化主義を軽蔑し、人命を軽んじ、国家の象徴を汚すところが共通している。われわれは、彼らに対峙する義務がある」と、主張した。
アフガン撤兵が失敗し、バイデン現大統領の当選を認めないトランプ全体棟梁の支持者が一時連邦議事堂を占拠した米議会乱入事件から丸1年を経た今、「米国の民主主義は(内側から)攻撃されている」(バイデン大統領の2021年1月6日の演説)、「米国は分断どころか内戦状態にある」(米政治ジャーナリストのジョン・F・ハリス氏、1月6日付の政治サイト『ポリティコ』)という内向性は、さらに強まっているように見える。
こうした中、米ワシントン・ポスト紙のコラムニストであるポール・ウォルドマン氏は9月8日付の評論で、「対テロ戦争が始まった際に、米国民の間には一時の団結が生まれた。だが、その後、米国民は互いに寛容にならなかった。世界におけるわれわれのあり方について、新しく深い理解を得たわけでもない。われわれは当時と比較し、より賢明でもなく、より人道的にもならなかった。世界における米国への尊敬は低下し、われわれはより怒りっぽく、自己憐憫にふけり、より分断されたままだ」と言明し、米国人の目が世界に向けない理由を解説した。
また、Vox は9月10日付の解説で「20年前から対テロ戦争を取材してきたジャーナリストのスペンサー・アッカーマン氏は、戦争が米国の民主主義を浸食し、(反民主主義的な)国内の病理に対する防御を無効化したと看破した。つまり、アフガン戦争はアフガニスタンを再建したのではなく、米国防産業体を再建したのだ。それは、国家資本主義の一形態だ」と指摘。戦後には米国の民主主義の回復、米国の理想への回帰が必要になると示唆した。ここにも、米国の自省が読み取れる。
消えない道義的責任
このように内向きが進む米国民だが、20年間にわたるアフガン介入の歴史は消せるものではなく、「敗戦後」もアフガン国民に対する道義的な責任を果たすべきだという論調が、リベラル・保守の両派から出ている。それは主に、米軍撤退で見捨てられた対米協力者や、タリバンによって再び権利を剥奪された女性、そして西側諸国の対タリバン制裁で苦しむアフガンの一般国民に対する援助をどのように行うかという議論に表れている。
アフガニスタンで従軍した元米海兵隊の退役軍人であるガス・ビッジオ氏は2021年8月19日付のワシントン・ポスト紙に寄稿し、12年前のタリバンとの戦闘に巻き込まれて負傷した10代のアフガン人少年を米軍ヘリコプターで輸送するも、命を救えなかった出来事を回想。「今なお、米国は保護すると約束した人々を守ることに失敗している」と述べ、撤退後もアフガニスタンに対する米国の道義的責任は消えないとの見解を表明した。
一方、テキサス・テック大学のベンジャミン・パウエル教授は8月23日付の政治ニュースサイト『ザ・ヒル』で、「移民政策は米国を二分する政治問題だが、米国に協力した、あるいはタリバンに反対したアフガン人を米国に迎え入れることは、支持政党に関係なく簡単に支持が得られる」と述べ、米国社会の分断の要因の一つとなったアフガン戦争が、皮肉にも団結を生み出していると言及した。
このように、アフガン難民を巡る論調は、「受け入れるためにあらゆる便宜が図られるべきだ」というもので、特に同じ時期に問題となったハイチ難民や中南米諸国からの不法移民への冷淡さと比較すれば、米国人がアフガンに深い道義的な責任を感じていることを示すものであろう。こうした論調の中でしばしばcompassion(思いやり、深い同情)というキーワードが登場することが興味深い。