映画を武器に闘うミャンマー人監督「軍事独裁からの脱却に命を捧げる」
抵抗と闘争、祈りを描いたセルフ・ドキュメンタリー『夜明けへの道』が日本で劇場公開

  • 2024/4/25

 軍事クーデター後のミャンマーで撮影されたドキュメンタリー映画『夜明けへの道』が、4月27日より全国で順次、劇場公開される。撮影したのは、ミャンマーで著名な映画監督・俳優で、クーデター後に軍への抗議運動を先導したとして指名手配を受けているコ・パウ氏。軍の支配が及ばない「解放区」に逃れ、潜伏生活を続けながら、限られた機材を使いiPhoneなどで撮りためた映像を編集した。公開に先立ち、コ・パウ監督はこう語る。「子どもたちが空爆される毎日など、もうたくさん。映画を通し、日本のような民主主義の国が我々を支援してくれたら嬉しい」

『夜明けへの道』を制作したコ・パウ監督©Thaw Win Kyar Phyu Production

命がけで逃走する最中もスマホで撮影

 映画は、笑い溢れるコメディ映像から始まる。2011年に民政移管が実現した後、経済成長まっただ中の明るいミャンマーで撮られたものだ。「お父さん大好き」と歌う二人の愛らしい息子たちに囲まれ、コ・パウ監督の笑顔が弾ける。
 しかし2021年2月、突然のクーデターで状況は一変した。コ・パウ監督は「私たちのような有名人が声をあげなければ、軍事独裁は覆せない」と考え、反軍政デモの先頭に立った。

クーデターが起きた直後、ミャンマー中央銀行の前でCDM(軍への不服従運動)への参加を呼び掛けるコ・パウ監督(2021年2月撮影)©Thaw Win Kyar Phyu Production

 映画の前半は、軍から指名手配を受け、家族と別れてヤンゴン市内で潜伏生活を送るコ・パウ監督の姿を伝える。途中、隠れ家が軍に突き止められて逃走するシーンは、思わず息をのむ。バイクの後部座席から、友人の車に乗り換えて逃げるシーンを、コ・パウ監督は自らのスマホで撮り続ける。縦に、横に、画面は揺れる。「奴らが怖くて逃げているんじゃない。自分にはやるべきことがある」と、自らを叱咤するコ・パウ監督。命がけの逃走中にも撮影を止めない姿に、「闘いの記録を残すのだ」という気迫が滲む。

 その一方で、コ・パウ監督の素の姿が垣間見える映像もある。潜伏生活による体調不良を改善すべく、中年太りの体でヨタヨタと室内を走ったかと思えば、家族との電話中、「武器を用意して練習しているよ」と伝える息子に、驚きを隠して「そうか、一緒に戦おう。薬を飲んでね」と優しく微笑む。クーデターがなければ、指名手配犯でも革命家でもなく、普通の父親だったのだ、と思い出す。

2021年夏、解放区に向かう前にコ・パウ監督は束の間、家族との時間を過ごした。©Thaw Win Kyar Phyu Production

解放区の内情を伝える映像も

 半年間の潜伏生活の後、コ・パウ監督はタイとの国境に近い「解放区」をめざす。軍と対立する少数民族の武装勢力が支配するこの地域では、軍の弾圧に対し武力闘争を決意した市民らが結成した「国民防衛隊(PDF)」が軍事訓練を受けている。映画の後半は、この解放区が舞台となる。PDFの若者たちの暮らしや訓練の様子など、ほとんど外部に流出することのない解放区の内情を伝える貴重な記録だ。
 コ・パウ監督が料理の腕を振るってPDFに朝食を配るシーンでは、少年少女たちが屈託のない笑顔を見せる。コ・パウ監督はPDFをこう鼓舞する。「君たちは革命のエンジンだ」。だが、彼らもまた、クーデターがなければ、銃など触ることもなかった若者たちだ。

解放区のジャングルで軍事訓練を積むPDFの若者たち©Thaw Win Kyar Phyu Production

 また、軍の空爆に怯えて堀の中にうずくまる子どもたちの姿や、村を燃やされた人々の絶望も、長尺で伝える。自宅を焼かれた女性が、カメラに向かって泣き叫ぶ。「どんな気持ちで人々の家に放火したんですか。ミャンマー国民同士ですよ。聞きたいです、人の道とは何なのですか」。

コ・パウ監督が選んだ「道」

 「人の道とは何か」。この問いかけへの答えを、観客である我々もまた考えさせられる。なぜなら、このセルフ・ドキュメンタリーが一貫して映すのは、コ・パウという一人のミャンマー人が、時に混乱し、悩み、涙を堪えながら、人の道を歩もうとする姿だからだ。

コ・パウ監督は映画の中で、繰り返し「最後まで闘います」と決意を口にした。©Thaw Win Kyar Phyu Production

 コ・パウ監督はdot worldのインタビューに、こう語った。「ミャンマーが、軍事独裁という苦境から脱するプロセスに、命を投じたいと思います。死んでもいいとは思いませんが、自分の命よりも大切なことだと感じるのです」

 この心境にたどり着くまでには、葛藤もあっただろう。映画の中には、軍に怯えたり、家族を想って声を震わせたりする等身大の姿も写っている。コ・パウ監督は、こう吐露した。「武器を持つ部隊から追われ、恐怖を感じた時もあります。でも、人は一度しか生きられません。ならば、私は人間性高く生きたい。死を価値あるものにしたい。そう思った時、恐怖から脱することができました」

コ・パウ監督は、兵士たちと前線を移動しながら、情報発信や映像作品の制作、PDFや避難民へのサポートなどを続けている。©Thaw Win Kyar Phyu Production

 インタビュー中、コ・パウ監督は前線近くの橋の下にいた。空爆から身を守るのに適した場所なのだという。「爆弾や銃の音はいつも聞こえるので、恐怖感もなくなりました」と笑う。そして、こう言い切った。「誰もが、良い家に住み、良い暮らしをしたいと思います。私もそうです。でも、私は前線から遠く離れた場所で生きることをよしとしませんでした。兵士たちとともに暮らし、最前線でこの革命を支援する。これが、私の選んだ道です」

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