逃走中に自撮り、ミャンマー映画監督が潜伏生活描く「夜明け」
セルフ・ドキュメンタリーが日本で上映

  • 2023/2/18

 ミャンマーの著名映画監督のコパウ氏の新作ドキュメンタリー「夜明け」が2月12日までに、東京と名古屋、福岡で上映された。コパウ監督は2021年2月の軍事クーデター後に抗議活動の先頭に立ったことで、国軍に指名手配され逃亡。その潜伏生活を自ら撮影した衝撃の一本だ。在日ミャンマー人らが中心となり上映会を企画。今後は国会議員向けの上映会などを行い、ミャンマーへの支援を訴える。

東京での上映会で、オンラインで登壇したコパウ監督とともに三本指を掲げる観衆(筆者撮影)

映画人のプライド見せる長回し

 「夜明け」には、目を見張る映像がいくつもある。コパウ監督は国軍に追われる身となり、友人らが用意した隠れ家を転々とする。バイクに乗って移動し、途中で友人と落ち合って車に乗り換え逃走する。「誰も追ってきていないな」と息を荒くするコパウ監督。そして、自分に言い聞かせるように「怖くて逃げているんじゃない。自分にはやることがあるんだ」と何度も繰り返す。

 この場面は、カメラを止めない長い連続したカットが撮られている。自ら携帯電話で撮ったような、大きく揺れて画面が横になる荒い映像には圧倒される。この緊迫した状況でも撮影を続けたのは、映画のプロとしての意地だろう。

 この作品では、コパウ監督と家族の会話が多く盛り込まれている。スマートフォンのビデオチャットで幼い子どもに「今日帰ってくるんじゃなかったの」と聞かれ、「悪い人をやっつけるまで帰れない」と答える。留守宅が何者かに銃撃され、妻が大声で助けを求める映像もある。劇中でコパウ氏は苦悶の表情を浮かべながら「(軍政を打倒する)革命には犠牲が大きい。それでも最後まで戦う」と話す。間違いなく、家族のことが念頭にあっただろう。

東京で開催された上映会には、在日ミャンマー人や日本人ら数百人が詰めかけた(筆者撮影)

「検閲なし」の貴重さ

 軍政時代の辛い時代を過ごした映画人の思いもにじみ出ている。「軍政下であれやれこれやれと命じられる中では、プロはいい仕事はできない」と振り返るシーンがある。

 コパウ監督は長年のキャリアの中で、検閲がなく自由に作品を作ることできたことはほとんどなかったという。潜伏中に短編「歩まなかった道」を製作しているが、「思い返すと、誰からも指図されることはなかった。これはミャンマーではとても貴重なことだ」と振り返っている。日本メディアとのオンライン記者会見では、「検閲がある時代と、自由な時代の作品がどう違うか示したい」とも話していた。

2月12日に福岡市で行われた上映会の宣伝画像

 コパウ氏のように、潜伏生活を余儀なくされながら制作を続ける映画監督やジャーナリストはほかにもいる。同じく逃亡中とされる映画監督のナジー氏は、抵抗軍に参加した男女の望郷の思いをつづった短編「ステイトレス」を発表している。

 苦境にあっても制作を続ける映画監督やジャーナリストを支援するための動きも出てきている。欧米系の非営利組織(NPO)などが、国外に拠点を移すことを余儀なくされたミャンマーメディアを支援している。また、筆者とドキュメンタリー作家の久保田徹さんが発起人となった映像サイト「Docu Athan(ドキュ・アッタン)」は、潜伏中の映像作家らの作品を日本に紹介し、視聴者は作家を直接支援できる仕組みだ。

 コパウ監督は「日本のように人権が保障されている国の人々に、そうでない国のひとのことに共感を持ってほしい」と話す。「夜明け」では、村が焼かれて泣きさけぶ女性を映す場面に長い時間を取っている。心を打つシーンだが、こうした声もコパウ監督ら伝える人がいなければ伝わらない。我々がミャンマーの状況を知ることができるのも、苦境の中でできる努力をしているプロたちのおかげなのだ。

 

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