米国でワクチンナショナリズムの見直し進む
国際協調路線打ち出すバイデン新政権下でコロナ制圧は進むか

  • 2021/1/20

 新型コロナウイルスによる新規感染者数と死者数が高止まりする米国で、ワクチン接種が始まって1カ月が経った。世界で最もコロナ被害が深刻な国の一つである同国でワクチンに寄せられる期待は高いが、配布や接種上の大幅な遅れから批判も集まっている。また、米国をはじめ裕福な先進国が必要量以上のワクチンを確保したことによって、開発途上国に十分なワクチンがすぐに行き渡らないという問題も顕在化している。「ワクチンを開発した米国は、自国のみならず、コロナ禍にあえぐ貧しい国にもその恩恵を分け与えるべき」との論調が高まっている中、バイデン新政権下で米国の果たせる国際協調の役割について現地の声をまとめた。

ワクチンナショナリズムが(c) Science Photo Library/アフロ

購買力の格差が阻む平等なアクセス

 新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)を受け、急ピッチで開発が進められたワクチンをめぐり、各国が争奪戦を繰り広げている。「ワクチンナショナリズム」とも言えるこの現状について、米保守中道派の政治評論サイト「ナショナルインタレスト」は2021年1月、「現在配布中のワクチンに加え、開発中のものがすべて認可されても、貧しい70カ国では人口の1割にしかワクチンが行き渡らない」と指摘し、裕福な先進国がワクチンを独占する弊害について伝えた。さらに、「カナダは全国民に5回ずつ接種できるだけの分量を確保している」とも批判している。

途上国がワクチンを確保するうえでネックになるのは、先進国の買い占めと、価格の高さだ©RF._.studio /Pexels

 さらに記事は、ワクチンを複数国で共同購入し、公平に分配するための国際的な枠組みであるCOVAXが合計20億回接種できるだけのワクチンを確保したにも関わらず、COVAXから供給される量だけでは国民全員に接種できないことを不服とする一部の途上国がワクチンを開発した企業と市価で直接契約を結び、価格を吊り上げていると指摘している。

 たとえば、米国の製薬大手ファイザー社とドイツのバイオ医薬メーカー、ビオンテック社が共同開発したワクチンは、米国内では1回あたりの接種費用が約20ドル(2080円)だが、南アフリカはCOVAX を通じて半額の約10ドル(1040円)で確保することに成功したという。とはいえ、中所得国である同国にとっても、この価格は政府財政にとって「無理に近い」レベルだとロイター通信は解説する。

 他の国を見てみると、インドは15億回分、インドネシアは3380万回分、ブラジルは1960万回分のワクチンをそれぞれ確保した。だが、世界銀行をはじめ国際金融機関の有利子融資によって購入したため、ただでさえコロナ禍によって借金が増大した国家の負債がさらに膨らんでいる。

新型コロナウイルスには感染力がより強いと見られる変異種も出現し、途上国での懸念が強まっている©CDC / Pexels

 翻って、信用度が低く、借金さえままならない国の状況はどうか。米国のリベラル進歩系ネットメディア「インターセプト」は、2023~2024年まで多くの人が接種を受けられず、コロナによって死亡する人数が増え続けるとの悲観的な見方を伝えている。また、世界経済フォーラムの推計によると、ワクチン購入費用の総額が低所得国分だけで250億ドル(約2兆5963億円)に上り、現実的には先進国の支援なしに全国民の接種は不可能な状況だ。
 こうした中、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、「ワクチンナショナリズムは世界中のすべての人を傷つける。人類全体にとって自滅的な行為だ」とした上で、「ワクチンが平等に接種されれば、多くの命が救われ、医療のひっ迫が緩和され、雇用が戻り、世界経済が真の意味で回復するだろう」との見解を示した。
 もっとも、テドロス事務局長の発言は、現行のワクチンに恒久的な効果があることを前提としたもので、万が一、想定外の副反応が多発して接種が中止されたり、ウイルス変異によって効力が喪失されたりすれば、見解の通りにはいかないだろう。いずれにせよ、ワクチンナショナリズムを解決すべく設立されたCOVAXが十分に機能せず、現時点でコロナ制圧が妨げられていることは確かである。その理由について、米メディアの報道を基に探る。

価格吊り上げる知財保護の仕組み

 貧しい国へのワクチンの供給が遅れたり優先順位が低かったりする理由を端的に言えば、おカネの問題だ。COVAXを含め、ワクチンは市場原理で取引されているため、裕福な国は有利な条件でより多くのワクチンを買い付けられる一方、貧しい国は必要量を確保できず、後回しにされる。
 つまり、貧富の差が命の格差につながっているわけだが、ワクチンの価格の高さにも根拠がある。「命を救う医薬の研究には巨額の先行投資が必要であるため、大きな利潤で報われるべき」だという知的財産権の保護である。
 なお、米国の非営利団体であるナレッジ・エコロジー・インターナショナルのジェームズ・ラブ理事長は、この知財保護について、前出のインターセプト上で「ワクチン開発は、先進国政府が国民から徴収した税金の一部を開発費として製薬会社に分配し行われているが、開発代を支払った国民は発明されたワクチンに対して知財をはじめとする権利をほとんど持たないという不利な契約内容になっている」と指摘している。

知的財産権の仕組みには、矛盾や問題が多いとの指摘が相次いでいる© iStock

 翻って、この知財に阻まれ自国民を十分に守ることができないと感じる途上国の国々は、先進国やその製薬企業に対し、新型コロナウイルスをはじめとする感染症のワクチンについては知財の権利を放棄すべきだと数十年にわたって働きかけている。
 米国の外交政策を扱う「フォーリンポリシー」電子版は2020年12月、この歴史的な議論について、「南アフリカとインドは、低所得および中間所得国を率いてパンデミック時の医療防具や治療薬、ワクチンに関する知的財産権保護の権利放棄を呼び掛けてきた」と指摘している。また、グローバルな自由貿易の促進を目指す国際機関である世界貿易機関(WTO)のムスタキーム・デガマ・南アフリカ代表は、医学誌『ランセット』の取材に答え、「新型コロナの感染拡大によって、緊急事態の際は知財の保護が機能しないことが明らかになった。今回のパンデミックを教訓に、仕組みを早急に改革しなければならない」と述べている。

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