新型コロナ、無症状者の自宅療養がスリランカでスタート
地元での隔離制度で医療従事者への負担軽減も

  • 2021/7/15

 新型コロナの感染拡大は、各国の医療態勢のさまざまな課題を浮き彫りにしている。特に、感染しても無症状である場合も多い新型コロナの場合、感染者数が増えるにつれ、療養施設の確保が深刻な問題になる。スリランカでは、ようやく無症状者の自宅療養が始まった。6月30日付のスリランカの英字紙デイリーニューズは、社説でこの問題を採り上げた。

緊急治療の要否で感染者を分けて対応

 スリランカは、1日あたりの新規感染者数が減少傾向にあるものの、依然として厳しい状況が続いている。4月半ばまでは、比較的、抑制されていたものの、4月後半以降、感染者数が急激に増え、6月上旬には1日あたりの新規感染者は3000人を超えた。6月末には2000人を切ったが、隣国インドで確認された変異株の影響もあるとみられ、油断はできない状態だ。
 そんななか、スリランカ政府は、感染者のうち、症状のない人は自宅療養を求める方針を決めた。社説は「この決定は、医療関係者や医療システムそのものの負担を軽くするとともに、感染者数の減少にも寄与する」と、歓迎する。
 社説によれば、新しいシステムでは、症状がなく、かつ、感染リスクの少ない感染者は、保健当局の監督のもと自宅で療養をすることになる。保健当局とはホットラインでつながっており、必要に応じて連絡を取ることが可能だ。感染者をすべて一律に扱うのではなく、緊急な治療が必要な人と、そうではない人を分けることができるシステムというわけだ。こうした取り組みによって、コロナ感染による死者を減らすことも期待されるという。
 「新型コロナの感染拡大が始まった当初から、このシステムを立ち上げるべきだった。無症状者も含めてすべての人が病院に押しかけたことで、医師や医療スタッフたちは当惑した。もちろん、無症状者も、症状のある人と同様に、今後、悪化するリスクはあるものの、症状のある人を優先して隔離し、治療することに集中できれば、多くの死を避けることができるだろう。無症状者は、保健当局によるガイダンスとカウンセリングによって、必要な指示を自宅で受けることができる」

中間ケアセンターの設立を

 その一方で、社説は、「必ずしもすべての人が自宅隔離に適した家に住んでいるとは限らない」と指摘する。たとえば、トイレが一つしかない家では、感染者と家族の利用を分けることは、実質、不可能だ。社説はこのようなケースを考え、次善の策として、各地にケアセンターの設立を提案する。これは、自宅療養と病院の中間的な施設で、家庭内での感染を防ぐことが可能になるという。
 社説によれば、新型コロナの感染が始まった当初、人々は、隔離センターへ行くことに抵抗を示したという。「センターは設備が十分ではない」という、根拠のない噂も出回った。実際には、センターには必要な備品が完備されていたが、「家族やコミュニティと切り離されることへの恐怖心からこうした噂が広がったのだろう」と、社説は指摘する。「だからこそ、見知った人たちやものに囲まれ、地元で隔離生活を送れる方が、ずっと好ましい。新しい自宅療養の考え方は、人々に歓迎されるはずだ」
 さらに社説は、不足する医療スタッフにも言及する。国内の医師は約4000人で、看護師数も不足しており、1人の看護師が12床を担当しているのが現状だという。医療関係者の不足は、治療時のみならず、ワクチン接種時も同様だ。そのうえ、当然ながら、医療関係者たちは新型コロナだけにかかりきりではいられず、デング熱や鼠咬熱など、場合によっては新型コロナより多くの命を奪う危険性のある病気にも対応せざるを得ず、医療体制は常に脅かされている。「その意味でも、今回の自宅療養の方針は歓迎すべきことだ」というのが、社説の見方だ。
 
(原文:http://www.dailynews.lk/2021/06/30/editorial/252764/welcome-concept)

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