新型コロナワクチンの公平分配は人道問題
スリランカの社説が先進国の独占を強く批判

  • 2022/1/17

 驚異的な速さで世界に拡大している新型コロナのオミクロン株。新たな感染拡大の脅威によって浮き彫りになったのは、国によるワクチン接種率の格差だ。2021年12月28日のスリランカの英字紙デイリーニューズは、この問題を社説で採り上げた。

(c) Maksim Goncharenok / Pexels

オミクロン株の感染拡大に備えよ

 世界各地でオミクロン株による感染が急速に広がり始めている。スリランカも例外ではない。
 「オミクロン株に感染しても重症化しない傾向にあると言われているが、感染力は強い。我が国も、外来の、あるいは市中感染によるオミクロン株の感染拡大にしっかり備えなくてはならない。空港の利用を制限したり、特定の国への渡航を規制したりしても、ほとんど意味をなさないことを我々は経験した。ウイルスはいずれにしても、到来するのだ」
 国連や世界保健機関(WHO)は、約14カ月にわたって西側の先進国によるワクチンの買いだめに警告を発し、開発途上国にワクチンを分配するよう訴えてきた。
 「そして今、米国や英国をはじめとした先進国諸国で、オミクロン株による感染が多く報告されている」と、社説は指摘する。
 社説は、ワクチン公平分配キャンペーンに取り組む英国のブラウン元首相が、「先進国がワクチンを一刻も早く途上国に公平に分配しなければ、新たな変異株が幾度も発生するだろう」と指摘したと伝える。 
 「91億回分のワクチンがすでに生産され、2021年末までに120億回分が生産されるだろう。これだけあれば、世界の人々が接種するのに十分であり、われわれはウイルスとの戦いに勝つことができる。月に20億回分のワクチンを生産し、すべての国の人々が冬の間、感染拡大の恐怖におびえることがないようにすべきだ」
 社説は、G20 の国々が世界のワクチンの89%を独占していると指摘した上で、先進国がいかにワクチンの公平分配に対して無関心かという根拠を、次のように列挙する。
 「今なお、今後生産されるワクチンの71%を独占しており、G7の国々では5億回分以上のワクチンがいまだ使われていない。新型コロナワクチンの買い占めは、人道犯罪だと言える。全人口に複数回分のワクチンを接種できるだけワクチンを独占している国もあれば、 “使用期限が近くなったから”という理由で未使用のワクチンを廃棄する国もある。また、使用期限ぎりぎりになってからようやくアフリカの国々に“寄付”する国もある」

公平分配のために声を上げよ

 さらに社説は、アジアやアフリカ、南米地域の多くの国々で、ワクチンの接種状況がいまだ「悲惨」だと指摘する。
 例えば、アフリカでは、多くの国々で接種率がいまだ40%を下回っている。ジンバブエでは、1回目の接種が終わった人が25%、2回終えた人は19%に過ぎない。レソトやエスワティニでも、それぞれ27%と22%。ナミビアで2回接種した人は12%にとどまっているという。
 「すでに500万人が新型コロナで命を落とし、2022年にさらに500万人が亡くなる可能性がある。ワクチンを接種していれば防げる命だ。ワクチンさえ公平に分配されれば、スリランカは途上国の中でも高い接種率を実現できるだろう。だからこそ、われわれは国際社会に対して声を上げなければならない」
 スリランカでワクチン接種を2回終えた人は、12月末現在で6割を超えているが、「自国のためではなく、同じ境遇にある途上国のために声を上げよ」という社説の指摘には、深く共感する。命をめぐる「南北格差」は、これまでも何度も指摘されてきたが、ワクチンほど分かりやすい格差はない。新型コロナウイルスは、人種も国も選ばない「公平」な脅威である。だからこそ、ウイルスから「武装」するためのワクチンもまた、公平であるべきだ。

 

(原文http://www.dailynews.lk/2021/12/28/editorial/268612/case-vaccine-equality)

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