新型コロナ対策下で問われる民間病院の利益追求姿勢
バングラデシュの社説が医療体制の確立と弱者への配慮を訴え

  • 2021/5/29

 新型コロナの治療は、公的医療機関であれば多くの国で無料である。しかし、医療のひっ迫に伴い、民間セクターの協力が治療態勢を維持する上でカギを握っている国も少なくない。バングラデシュの英字紙デイリー・スターは、5月3日付けの社説でこの問題を採り上げた。

バングラデシュでは、新型コロナ患者に対する民間病院の治療費の高さが問題となっている (c) Miguel Á. Padriñán / Pexels

高額な民間病院の治療費

 バングラデシュでは、1日あたりの新規感染者数が4月下旬から減少傾向にある。4月はじめのピーク時には1日7000人台だったが、5月はじめには1000人台にまで減った。しかし、隣国インドで急増している変異株感染の波がいつ同国にも押し寄せるか分からず、予断を許さない状態が続き、医療態勢を維持するために、民間病院がどのように協力するかが焦点になりつつある。
 「民間病院は、新型コロナの治療費が公立病院より高いことは常識的に理解できる。しかし、保健省の調査によって、実際の差額が驚くべきものであることが明らかになった。公立病院で新型コロナウイルスに感染した患者を治療する場合、そのコストは一般病棟で平均12万8000タカ(約16万5000円)、集中治療室で40万8000タカ(約52万5000円)であるのに対し、民間病院では、一般病棟で24万2000タカ(約31万2000円)、集中治療室では50万9000タカ(約65万6000円)だという。しかも、公立病院の場合、新型コロナ治療のための本人負担は不要だが、民間病院の治療費は患者が負担しなければならない」
 こうした治療費の差は診療費と医薬品の費用だという。「民間病院では、異常なほど高い治療費が請求される。特に、全体の17.7%を占める診療費は、公立病院の7倍の額だ。民間病院が好きなように治療費を設定しているという現実は、バングラデシュの民間医療態勢のお粗末さを物語っている」と、社説は指摘する。

「患者の近くに病院を」

 その上で社説は、「公立病院の数は限られており、民間セクターの協力が欠かせないのは明らかだ」と指摘。「民間病院が利益追求を重視することで、感染拡大の抑制の妨げとなっている」「倫理的な問題というだけではなく、弱い立場にある人々への犯罪行為だ」などと批判する。
 バングラデシュの民間医療機関であるGonoshasthaya Kendra(GK)は、「人道的な精神を発揮」し、新たな事業を立ち上げた。モバイルの医療チームを派遣して新型コロナの治療にあたるという事業だ。
 社説は、「GKが立ち上げたイニシアチブ<患者の身近に病院を>は、危機的状況下で民間セクターができる事例の一つだ。政府は民間セクターに対し、過剰な治療費を徴収して利益を得ようとすることを禁じるべきだ」と訴える。
 他国では、新型コロナ患者が入院する際、民間病院が高額な治療費を請求して問題になったという報道もあった。民間だろうが、公的セクターだろうが、働く人たちに犠牲を強いる仕組みであってはならない。しかし、一部の民間セクターが危機に乗じて不当な利益を得ているのであれば、この社説が指摘する通り、それは厳しく是正されるべきだ。たとえ新規感染者数が減少傾向になったとしても、新型コロナ対策は今後、どの国にとっても長い取り組みが求められることに変わりはない。医療態勢の確立は、何よりも重要な長期的な課題だと言えよう。

 

(原文:https://www.thedailystar.net/editorial/news/who-will-hold-the-reins-private-hospitals-2087217)

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