アフリカ関与策を強めて巻き返しを狙う米国
信頼の回復に挑むも中露との勢力争いの激化は必至

  • 2023/1/27

 アフリカに対する中国やロシアの影響力が増大する中、米国が巻き返しを図って積極的な関与政策を加速している。バイデン政権は、2022年12月に首都ワシントンで米・アフリカ首脳会議を開催し決意表明したのを皮切りに、2023年1月にはイエレン米財務長官がアフリカ諸国を歴訪。続いてバイデン大統領自身とオースティン国防長官、レモンド商務長官もそれぞれ訪問を予定している。しかし、親中・親露色が極めて強いと言われるアフリカ諸国が米国を信頼し、西側と協調するかどうかは、懐疑的な論調が優勢だ。なぜ米国はアフリカの心をつかむことに苦心するのか。歴史を紐解きながら、問題の核心を分析する。

2022年12月に行われた米・アフリカ首脳会議で登壇するバイデン米大統領。(出典: allAfrica.com /twitter

きっかけはウクライナ情勢をめぐる「不服従」

 歴代米政権は、党派に関わらず、アフリカに無関心であることが長く批判されてきた。バイデン政権も発足から2年の間、中枢により決定された統一的な対アフリカ政策を持たないままだった。

 このほど打ち出された一連の積極関与の方針も、実際には、国連安全保障理事会の場で、ウクライナに侵攻したロシアに対する非難・制裁決議に米国とともに賛成しなかったアフリカ諸国があまりに多かったことへのショックから急ぎ決定されたに過ぎない。

 実際、2022年3月に行われた侵攻非難決議の際は、アフリカ17カ国が棄権。その後、10月のウクライナ領土併合への非難決議の際も、9カ国が棄権した。つまり、ウクライナ情勢に関して米国が示した方針にアフリカ諸国が「不服従」していなければ、米国には今なお総合的な対アフリカ外交方針がなかった可能性が高いのだ。

 元米外交官で、2009年から2012年に駐ジンバブエ大使を務めた経験があるチャールズ・レイ氏は、2022年8月に論考を発表し、「不幸なことに、歴代米政権がアフリカに関心を向けてきたのは人道危機や対テロ戦争の文脈のみだった。それ以外の観点では、この地域は米国にとって世界における周縁部でしかないのだ」と指摘した。

アフリカは米国の外交政策でいまだ周縁的な地位しか得ていない。 写真は米国の援助で整備された衛生的な水道を喜ぶ子ども(出典: USAID West Africa/twitter

 バイデン政権が「サハラ以南に対する戦略」を策定し、米・アフリカ首脳会議の開催を発表したのがロシアのウクライナ侵攻から5カ月後、そしてサミット開催のわずか4カ月前という一種の突貫作業になったのも、そのためだ。

 レイ氏によれば、2022年8月現在、アフリカ54カ国の中で米国が大使を任命していない国は、エリトリア、エジプト、ナイジェリアなどの重要拠点を入れて14カ国に上る。これでは、「米国のアフリカに対するコミットメント」が、ただのお題目に過ぎないと見られえも仕方がない。また同氏は、自身の体験から、「大使に任命されても、十分な裁量がなく、効果的な外交は展開できない」と嘆く。

質と量の両面で凌駕する中国

 このように、米国の対アフリカ政策には「本気度」が感じられない傾向があるのに対し、中国は長い期間をかけて、真剣かつ戦略的に対アフリカ援助を実施してきた。その裏には、20年来の世界戦略や「一帯一路」に基づいて経済および軍事の覇権を拡張する計画があり、米国の対アフリカ政策を質と量の両面で凌駕している。米下院外交委員会の資料から実績を見てみよう。

 まず、中国は、自国が未だ発展途上国であった2000年に「中国・アフリカ協力フォーラム」を立ち上げて以来、3年毎に開催を重ねてきた。2008年から2018年の10年間だけ見ても、国家主席や首相、外相クラスが、アフリカ43カ国に計79回訪問している。この時点で、アフリカに無関心だった米国は完全に負けていたというわけだ。

中国がアフリカの鉄道・道路・港湾・発電のインフラ建設で果たした貢献は大きい。(出典: Zim-China Friends Forever / twitter

 また、対アフリカ経済援助として、2015年と2018年にそれぞれ600億ドル(約7兆7733億円)、2021年にも400億ドル(約5兆1822億円)の拠出を表明。さらに、アフリカ最大の貿易相手国として、年間2000億(約25兆9110億円)ドルを取引しているうえ、対アフリカ投資額も3000億ドル(約38兆8867億円)を超え、アフリカ経済にとって不可欠の存在になっている。

 ちなみに、米国の対アフリカ貿易額は年間800億ドル(約10兆3644億円)にとどまっており、大きく出遅れている。

 さらに金融面でも、2000年から2020年の間に、アンゴラ、ザンビア、ケニア、エチオピア、ナイジェリア、南アフリカなどの国々の政府や国営企業に対して、交通インフラや発電、鉱物採掘、通信などのインフラ建設プロジェクトに対して1600億ドル(約20兆7288億円)を貸し付けるなど、債権大国としての存在感を誇っている。

 たとえば通信面では、華為技術(ファーウェイ)がアフリカの通信インフラの70%を建設しているだけでなく、技術的にもデータにアクセスが可能な状態にある。また、中国の国営メディアがアフリカ諸国で積極的にプロパガンダ活動を展開しており、親中の機運を醸成する動きが進んでいる。さらに、中国の言論統制技術をアフリカ諸国の政府に提供し、中国型のインターネットがアフリカで形成されるように仕向けている。

 極めつけは、中国の軍事進出だ。中国は、アフリカ連合(AU)に1000億ドル(約13兆円)規模の軍事援助を行う一方、2017年にはジブチに軍事基地を建設。さらに、ナミビアやコンゴ民主共和国、タンザニアで現地軍への軍事訓練も提供を始めた。

債務の減免取り付けに活路か

 このように、米国は、系統的、かつ総合的な中国のアフリカ関与に圧倒されながらも、ほとんど手は打ってこなかった。バイデン政権がこのほどようやく打ち出した関与政策も、中国と比較すると非常に見劣りがすると言わざるを得ない。

イエレン米財務長官の先を越す形でアフリカを訪問した中国の秦剛・新外相 (出典: 中国外交部 / twitter

 前述の通り、バイデン米大統領は、米・アフリカ首脳会議の席上で、アフリカ連合(AU)の20カ国・地域(G20)に対して正式に支持を表明し、対アフリカ 貿易や投資の拡大、温暖化対策や医療に対するさらなる支援を打ち出した。

 具体的には、低所得アフリカ諸国向けに、国際通貨基金(IMF)を通して210億ドル(約2兆7207億円)を融資するよう米議会に要請したうえ、総額550億ドル(約7兆1255億円)の投資や、今後3年間で1000億ドル(約13兆円)をテロ対策の一貫として支援することなどを表明した。

 さらに、2023年1月にセネガルとザンビア、南アフリカを訪れたイエレン財務長官は、苦境にあえぐ財務国ザンビアに対する債務の減免について、中国をはじめとする債権者に求める国際協力を提案した。米国がザンビアに代わって中国から債務の減免を取り付ける役割を果たすことで、アフリカ諸国の信頼を得ようという狙いだ。

 これは、アフリカ諸国に大きな債権を保有し、その貸し手として覇権的な影響力を行使する中国の「債務の罠」に対して揺さぶりをかけようという作戦であり、実際、成功した暁には、いくらかの信頼を取り戻せる可能性はある。

2023年1月にアフリカを歴訪し、鍬入れ式に参加したイエレン米財務長官。 (出典: Secretary Janet Yellen / twitter

 とはいえ、全体的に見れば、イエレン氏のアフリカ訪問は、アフリカ諸国に対する米国のかけ声だけが先行している印象を与えた。

 セネガルの首都ダカールで講演したイエレン財務長官は、「米国は今、完全にアフリカと共にある。われわれの関与は見せかけや短期のものではなく、一時的でもない」と語った。しかし、裏を返せば、そう説得を試みなければならないほど、米国はアフリカで信用されていないとも言える。実際、イエレン氏の歴訪に先立つ形で、中国の秦剛・新外相がエチオピア、ガボン、アンゴラ、ベニン、そしてエジプトを訪問している。

 特に、内戦によって人道危機が発生しているエチオピアは、米国から経済制裁を受けて援助を打ち切られているうえ、中国に対する債務であえいでいる。そのエチオピアに対し、秦外相は債務減免(具体額は不明)という手土産を持参して、喜ばせたのだ。中国の方が一枚上手だと言えよう。

 また、中国の民間企業による対アフリカ投資には政府の債権補償が付随していることも、企業にとってアフリカ進出のモチベーションを押し上げている。専門家の中からは、米国も同様のスキームを採用すべきではないかという声も聞かれる。

 加えて中国は、アフリカ諸国の指導者の腐敗に対しても寛容で、米国のように欧米式の価値観を押し付けて経済制裁を課さないところが好まれている。ジェンダーや同性婚などのアジェンダを援助保証の条件にすることもない。アフリカ諸国の指導者は、米国の押し付けがましさに不平を漏らしている。さらに、本音レベルでは、中国やロシアと縁を切りたくないとさえ考えている。

米国はアフリカ支援の条件として女性の地位向上などを要求することが多い。 (出典: USAID East Africa / twitter

 こうした事情を鑑みると、「米国のアフリカに対するコミットメント」の成否は、バイデン政権が腐敗や価値観、地政学などの諸点でどこまで現実的に妥協できるか次第だと言えよう。

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