英国のコンテナ事件に見るベトナム人の「見果てぬ夢」
「密入国のリスクおして活路求める価値観とは」
- 2019/11/30
今年10月、イギリスでトラックのコンテナ内から39人の男女が遺体で発見されるというニュースが流れた。当初は中国籍と報道されたが、その後の調べで、全員がベトナム人であることがわかった。そのセンセーショナルさから世界の注目を集め、日本でも報道されたため、見聞きした方も多いだろう。密入国による悲劇と見る向きも多いが、筆者は一報を聞いた時、「貧しさから活路を求めて海外に夢を抱き、危険を冒した末の不幸な事件」だと一蹴することができなかった。彼らが渡航を試みた理由は、貧困だけではない。ベトナムの人たちが海外に行かざるを得なかった歴史的背景をはじめ、海外への歪曲した憧れやイメージ、現状で満足することができず”他者との比較”に走る価値観など、さまざまな要因が入り組んで起きた結果ではないかと感じたためだった。
報道ぶりと地元の反応
事件の発覚直後から、ベトナム国内のメディアは連日、このニュースを伝えた。
ことの発端はこうだ。10月23日、ロンドン郊外のエセックスで、コンテナの中から39人の男女の遺体が収容され、北アイルランドの運転手2人が逮捕された。犠牲となったのは、ベトナム北部や中部のハイフォン、ハイズオン、ゲアン、ハティン、フエなどの出身者。家族からの情報提供もあり、身元確認が進んだ。11月には、ゲアン省の地元警察が密入国をほう助したとして、管内にある8つのエージェントを捜査し、逮捕に至った。
この事件はSNSでも拡散され、国内でさまざまな反応が見られた。筆者が見聞きしたのは、ほんの一部に過ぎないが、この国の地理的な格差や、経済・教育の格差を改めて実感させられるものだった。密入国を試みた人たちのほとんどは、ベトナムの経済発展から取り残されている感が否めない、地方出身者である。筆者の周りの友人知人のベトナム人は、都市部の出身が多く、留学やビジネスで海外経験があり、学校を卒業してからもそのまま海外で就職し、暮らしている者もいる。外国の国籍を取得した者も少なくない。そうした”勝ち組”は、今回の事件について、口をそろえて「なぜそんな危険を犯すのか」「それしか方法がないのか」と言った。同胞とはいえ、同情するにはあまりにも自分たちと考え方が異なっており、理解できない、といった風だった。