米国で緊急地震速報「シェイクアラート」が始動
繰り返される被災経験も進まぬ防災対策の追い風となるか

  • 2021/3/23

 2011年3月11日に発生した東日本大震災から丸10年目にあたる2021年3月11日、米国西海岸のオレゴン州で早期地震検知・警報システム「シェイクアラート」が始動した。日本でスマホ向けアプリとして展開されている緊急地震速報の米国版であり、大規模地震の初期微動を感知して域内にあるすべてのスマートフォンに通知し、命を守る行動を促すもので、地震頻発国の日本やメキシコに約30年遅れを取っていた早期警報対策が大きく前進したが、建築物耐震補強や津波避難計画、災害時の近隣互助体制など、課題も多い。米国、特に西海岸地域が抱える問題点と日本が得られる示唆について考える。

「シェイクアラート」 (ShakeAlert)では、地震を検知するとスマホに警報が届く (c) ShakeAlertホームページ)

周期的に大地震に見舞われる西海岸

 太平洋という広大な海原を隔てた日本と米国の西海岸。人間の意識では「違う国」だが、自然界においては、地震が多発する環太平洋火山帯でつながっている。

 実際、10年前の東日本大震災で生じた津波や漂流物は、遠くワシントン州やオレゴン州などの西海岸に流れ着いたことはよく知られている。また、1700年1月26日(旧暦の元禄12年12月)に現在のワシントン州やオレゴン州沿岸で発生した「カスケード地震」では、当時、海沿いで生活していた先住民の集落が地盤崩落したり大津波に飲み込まれたりしただけでなく、米大陸とは反対方向に向かった津波が現在の青森県から和歌山県にいたる沿岸部に到達し、物的にも人的にもう広大な海原を隔てた日本と米国の西海岸。人間の意識では「違う国」だが、自然界においては、地震が多発す大な被害をもたらした。このカスケード地震は、マグニチュード9規模だったと推定されている。

カスケード地震の引き起こした津波は日本に到達し、大きな被害をもたらした (c)「みなしご元禄津波」の表紙

 また、考古学や地質学の調査によって、同規模の地震が過去1万年の間におよそ300~750年の周期で発生していることも分かってきた。こうした地震を引き起こしている「ファンデフカ・プレート」は、北はカナダのブリティッシュコロンビア州から、シアトルがあるワシントン州やポートランドを擁するオレゴン州を通り、南はカリフォルニア州北部に至っている。別名、北西部カスケード沈み込み帯とも呼ばれる通り、北米大陸の下へと少しずつ沈み込み続けているため、かぶさっている大陸側のプレートが引きずられる形で折り曲げられ、限界点で跳ね返って大災害を引き起こすのだ。

ファンデフカ・プレートが北米大陸プレートの下に沈み込むことで発生するメガ地震の概念図。1700年1月の地震では、赤線の部分が跳ね返った (c) ウィキペディア

 オレゴン州政府の推計によると、州内の建物の75%が耐震・免震構造ではないため、カスケード地震と同規模の大地震が発生した場合は耐えられないと危惧されるという。このような地震によって生活インフラが破壊されると、電力が回復するまで1カ月から3カ月かかる上、飲料水や下水の復旧には1カ月から1年を要し、寸断された高速道路は再び通行できるようになるには半年から1年かかると予測されている。
 また、州内では多くの医療施設が壊滅し、完全に復旧するには1年半もの時間が見込まれる。米国の海運を支えるポートランド港内で耐震設計になっている施設は1カ所だけだし、空の玄関口であるポートランド空港はもともとの地盤が弱いため、液状化して使い物にならなくなるだろうと言われている。各地のダムも崩壊が予想されており、救難活動が難しいばかりでなく、生活やビジネス、貿易もできなくなり、人口の減少や企業の撤退、経済崩壊も予想される。

アマゾンやマイクロソフトなど、テック大手の本社所在地としても有名な近代都市シアトルの街並み。意外にも古い煉瓦や石造りの家屋が多い (c)pexels.com

 一方、メガ級の天災ではなくとも、マグニチュード6クラスの地震は、西海岸諸州で10~20年に一度のペースで発生している。
 たとえば、2001年2月にワシントン州シアトル南東で起こったニスクアリー地震はマグニチュード6.8と大規模で、数百人の負傷者を出したほか、家屋倒壊・破損などによって数十億ドルの損害が生じた。震源地から約58キロメートル離れていたにもかかわらず、地盤が脆弱であるために、耐震あるいは免震構造ではなかった煉瓦や石造りの古い家屋と建物が大きな被害を受けたのだ。
 翻って、この北西部カスケード沈み込み帯とは別の地震多発地帯に属する南カリフォルニアのロサンゼルス近郊でもこのクラスの地震が数十年に一度のペースで発生し、その度に甚大な被害がもたらされている。

目先の利益優先で高まる人災リスク

 ワシントン大学の地震学者であるハロルド・トービン教授は、ニスクアリー地震の20周年と、東日本大震災10周年にあたる今年の2月、地元紙「シアトル・タイムズ」に寄稿し、「大地震から数十年が経つと、いくぶん安心感が生まれるが、それは偽りに過ぎない。実際、ニスクアリー級の地震が1949年と1965年に起こっていることを考えると、これから数百年の間にカスケード級のメガ地震が、そしてこれから数十年の間にニスクアリー級の大地震が起こる蓋然性は極めて高い」との見立てを披露した。
 さらにトービン教授は、「煉瓦や石造りでできた古い未舗強の家屋や、補強されていてもコンクリート造りのもろい建物を、早急に耐震構造にしなければという切迫感が、時間の経過とともに失われつつある」と警鐘を鳴らし、次のように訴えている。
 「古く脆弱な建造物や、生活基盤インフラのリスクを低減するために、気持ちを新たに努力しよう。また、耐震改修にかかるコストを公平かつ平等に分散することで、いま問題となっている住宅価格がこれ以上高騰しない対策も必要だし、地域ごとに震災リスクに関する調査を実施するための投資の拡充も有効だ」

ロサンゼルスにも耐震面で不安がある古い建物が多く残る (c) pexels.com

 南カリフォルニアで「地震おばさん」として親しまれている地震学者のルーシー・ジョーンズ博士は今年2月、地元紙「ロサンゼルス・タイムズ」に論考を寄せ、これまで後手に回り続けてきたカリフォルニア州の地震対策を批判した。
 「カリフォルニア州では、1933年のロングビーチ地震で70棟の学校が倒壊し、避難しようとした児童たち120人が建物から剥がれた煉瓦の直撃を受けて亡くなって、ようやく煉瓦造りの建築物が禁止された。ダムや病院の耐震基準が強化されたのも、1971年のスライマー地震でダムが決壊し、病院が損壊した後だったし、1989年にサンフランシスコ近郊で起きたロマプリエタ地震で高速道路や橋梁が落下する被害が出てからようやく補強が始まった。しかし、本来、地震対策とは予防的に行われるものであるべきだ」
 さらに博士は、「現行の建築基準は、死者を出さない限り、建物の倒壊は仕方がないという思想に基づいている。これは一見、合理的なようだが、そうではない。家を失った住民や、営業の場を喪失した経営者は土地を見捨てて転出せざるを得ず、地元経済の衰退を招くからだ」と指摘。「そのような事態を防ぐためにも、より厳格な建築基準を適用し、初期投資をかけてでも、災害時の被害やコストを抑えるべきだ」と訴えた。
 ロサンゼルスの住人で、日本の消防団をモデルにコミュニティ緊急対応チーム(CERT)を立ち上げたカールトン・クローニン氏は、「当初は訓練を受けた要員がアパートやマンションごとに少なくとも1人、配置される予定だったが、市の後援が突然打ち切られたため、今は公的援助を受けず、かろうじて組織を維持している」と嘆く。
 また、オレゴン州でも、状況は同じだ。沿岸の公共施設は、津波が到達すると予想される域内であっても、避難計画を提出しさえすれば、存続や新築・改築工事がいまだに認可される。また、この辺りは風光明媚な場所が多いため、人口の4分の1がリタイア後に移住してきたシニア層であり、いざという時に迅速に避難できないことが懸念される上、夏場には地理に不案内な観光客が15万人以上やって来ることも不安材料だ。
 このように、西海岸各地では、避難訓練や構造物の補強工事などの必要性が認識されているにも関わらず、目先の利益やコスト節約が優先されて対策が後回しにされているのが現状だ。地震が人災になりかねないリスクが、否が応でも高まっている。

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