日越の相互往来が再開 進出企業人ら440人がベトナムに復帰
市民の経済活動は復活も、観光産業は回復の目途立たず

  • 2020/7/17

 日本とベトナム両政府は6月下旬、新型コロナウイルス対策として実施してきた相互の往来制限を段階的に緩和することで合意。試験フライトとなる日本発ベトナム行きのチャーター便が25日から3日間にわたり計3便運航された。ビジネス関係者ら約440人を乗せたフライトの行先は、ハノイやホーチミンといった主要空港ではなく、北部の沿岸都市バンドン。14日間の隔離期間を「確実に」過ごしてもらうための措置だ。本記事では、ベトナムに拠点を置きビジネスを営む筆者の友人が、このチャーター便でベトナムへ戻ってきた際の体験談を紹介しつつ、筆者が肌で感じた現在の街の様子を伝えたい。

ホーチミン市内にあるサイゴン中央郵便局の内部。フランス・パリのオルセー駅(現在はオルセー美術館)の駅舎をモデルにしたフレンチコロニアルの代表作として、ガイドブック御用達の名物スポットになっている。人がほとんど写り込まずに撮影できるのは珍しい (c) 筆者撮影

リモートワークの限界 国をまたいだビジネスの難しさ

「現場が混乱している」。日本への輸出業を手掛ける田中さん(仮名)は、一時帰国していた5月、ベトナムへ早急に戻る必要性を感じていた。ホーチミン市をベースに、日本とベトナムを数カ月ごとに行き来しながら事業を行うようになって3年。前職の経験を含めると10年近くになるベトナムとのビジネスの中でも、今回のことはこれまで経験したことがなかった。

田中さんがベトナムに飛んだ後、隔離期間中に滞在していたホテルの部屋から見た景色。世界遺産のハロン湾を臨むリゾート感あふれる五つ星クラスのホテルだったが、部屋から一歩も出ることができず、施設内のプールも使用できなかった(筆者提供)

 ベトナムで4月にソフトロックダウンが本格化したことから、同月下旬に日本に帰った田中さん。現地での事業は全てストップし、従業員も休ませざるを得なかったため、「1カ月ほど日本での業務に専念しよう」と覚悟を決めた。その後、5月上旬にベトナムのソフトロックダウンが解除されたため、事業所も活動を再開。ベトナム側のパートナーやスタッフにリモートで指示を出し、こまめに事業の動きを把握するよう努めていたのだが、会話の端々からスタッフの不安が伝わってきたり、運営施設のマネジメントにも問題が浮上したりと、ほころびを感じ始めたという。「一刻も早くベトナムの現場に戻らなければ」と焦った田中さんは、両国を往来するフライトの休航延長が報じられる最中、動き出した。

誰も知らない渡航情報 早期の積極的な働きかけで状況を打開    

 まず、在日ベトナム大使館と在ベトナムの日本大使館に問い合わせをした。外国からの渡航者の受け入れはベトナム政府の判断だが、水面下では当然、両国間でいろいろな情報交換や折衝が行われているだろうと見込んでのことだった。さらに、日本貿易振興機構(ジェトロ)と日本人商工会にも会社の状況を説明し、早期渡航の必要性を訴えたところ、同じような要望が相次いでおり、5月下旬の時点ですでに1,500人が「待機者リスト」に名を連ねていること、渡航は原則として商工会の会員が優先されることを知った。田中さんは会員ではないものの、「渡航の緊急性や必要性は個別に判断されるべきだ」と、粘り強く交渉を続けた。

 6月5日、日本に居住しているベトナム人を対象に、日本からベトナムへのチャーター便が飛んだ。空席があれば田中さんのようにベトナムに戻ることを希望する日本人にも搭乗の可能性が浮上したが、結局、搭乗できたのは日本在住のベトナム人だけだった。 

ベトナム到着後、14日間を過ごしたホテルの部屋。室内は快適だったが一歩も出ることができず、田中さんはテレワークを続けた(筆者提供)

 冒頭のチャーター便が6月下旬に3便飛ぶ話が具体化したのは、その数日後だった。ただし、費用は9,000万ドン(約45万円)。成田からバンドンまでの片道運賃と、現地での隔離期間14日間のホテル宿泊費(3食付)、および現地で受ける2回のPCR検査費などを含む価格だった。費用対効果を考え二の足を踏んだ田中さんだったが、2日間考えた後、「この機会を逃せば次はないかもしれない」と意を決し、申し込んだ。このフライトを希望しない者は先の待機者リストから外すと言われたことが大きかった。親身に相談に乗ってくれていた大使館職員や関連機関の推薦もあり、搭乗が決まった。

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