米軍のアフガン撤退と民主主義の行方
「驕りの誤謬」迫られる米国と変わる世界

  • 2021/5/17

アフガニスタンに駐留する米軍の撤退が正式に始まった。トランプ前大統領が決定した今年5月1日までという撤退期限は、バイデン現大統領によって9月11日まで延期された。アフガニスタンへの空爆開始の契機となった米同時多発テロから20年の節目の日だ。しかし、20年にわたる「米国最長の戦争」の終結に対しては、米国内では党派を超えた議論が続いているうえ、そもそも何のための戦争だったのかという目的論に立ち返り「失敗の本質」を学ぶべきだとの声もあり、一度振り上げた拳を下ろす難しさが浮き彫りになっている。撤退をめぐる世論を通じて米国社会を取り巻く環境を読み解く。

アフガニスタンのヘルマンド州に展開していた米軍海兵隊(2009年7月2日撮影)(c) AFP/アフロ

民主、共和の両党から聞こえる反対の声

 アフガニスタン戦争は、同時多発テロで本土攻撃を受けた米国が「テロの根源である国際過激組織アルカイダと、その支援者タリバンを断つ」という名分の下で開始した戦いである。

 しかし、米軍高官や専門家、識者らは、アフガニスタン政府が今後、米軍の支えなくして存在し続けられず、腐敗にまみれて民心が離反しタリバンに制圧されるだろうとの見方で一致している。米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は5月1日、「アフガン撤退で悪い結果が生じる可能性」について警鐘を鳴らした。

アフガニスタンからの撤退を決めたバイデン大統領に対し、民主・共和両党から強い反対の声が上がっている。写真はバイデン大統領とジル夫人の近影(c) バイデン氏のツイッターより

 もし、タリバンが全土を掌握してアフガンが再び対米テロの拠点と化すようなことになれば、公式発表されているだけで2300人の将兵を失い、数万人の負傷者を出し、2兆ドル(約220兆円)以上を費やした戦争の意味がほとんどなかったということになってしまう。「それはあまりにも受け入れがたい」と考える知識層が、何とかしてこの戦いの意義を見出そうと躍起になる中で表出してきたのが、撤退への反対論だった。トランプ前大統領とバイデン大統領の共通の決定だったにも関わらず、撤退に対する異論の声は、与党民主党と野党共和党の双方から出ている。
 たとえば、民主党の元大統領候補、ヒラリー・クリントン元国務長官と、共和党ブッシュ元政権で国務長官を務めたコンドリーサ・ライス氏は4月30日、米下院外交委員会の席上、非公開で証言台に立ち、米軍の撤退後にテロが増えることに懸念を示した。特にライス元国務長官は、「われわれは恐らくテロ封じのために再びアフガニスタンに戻ることになるだろう」とも発言した。
 また、民主党寄りのワシントン・ポスト紙も社説でこの問題を採り上げ、「バイデン大統領は安易な解決策に逃げようとしている」と非難。さらに、元国務省政策企画部長で、現在は有力シンクタンクである外交評議会(CFR)の会長を務める元共和党員のリチャード・ハース氏は、「米兵3000人が今後も継続して駐留する費用は比較的安く、戦死の可能性も低いが、ここで撤退すればテロが再興して米国の評判が落ち、結果的に高くつく」とツイートしている。

揺らぐ「世界の警察官」

 その一方で、撤退を支持する声もある。民主党寄りのニューヨーク・タイムズ紙は4月24日付紙面でそうした意見を紹介している。

アフガン戦争における米軍の死者は、公表されているだけで2300人を超える(c) Pexels

 たとえば、ロビン・マイヤーズ牧師(オクラホマ州在住)は、「撤退によるリスクもあるが、ベトナム戦争のように勝てない戦いを恒久的に繰り返すよりマシだ」と述べている。
 エド・ゴーゴル氏(イリノイ州在住)も、「米軍がいくら兵力を増強しても、タリバンの権力掌握という運命を阻止できるとは考えづらい」「タリバンが再び権力を握れば、女性は権利を失って働けなくなり、女子校も閉鎖されるだろう。バイデン政権はアフガン人難民の受け入れ枠を拡大し、惨状を最小限にとどめるべきだ」と主張する。
 一方、ニューヨーク州ロチェスターのビル・リンデンフェスラー氏は、「政府が人々に支持されず、新たにタリバンに加わる人も後を絶たないという現地の状況は、米国の安全保障にとっても、また現地の女性たちにとっても望ましくない」と認めた上で、「それも含めて人々の選択を尊重し、兵を引くべきではないか」との見方を示す。これは、米軍がアフガンに侵攻した後に、「テロの阻止」に加えて新たに目標に据えた「民主主義の定着」と「女性の権利保護」を放棄すべきだと主張する声の一つである。
 米国は第二次世界大戦後、旧敵国のドイツや日本において民主政治を定着させることに成功した。しかし、そうした「民主主義の兵器廠」としての経験はむしろ特殊で、実際には重ねてきたのはベトナムやアフガニスタンのような「負け」の経験値であることを自覚すべきだ、という悟りにも似た論調こそがその特徴だ。
 さらに、このような主張を展開する人々は、戦後世界において米国が自認してきた「世界の警察官」や「民主主義の伝道師」の役割を重視せず、内向きの思考になりがちだという特徴もある。バイデン大統領自身は「米国を民主主義陣営のリーダーとして立て直す」「米国は戻ってきた」というメッセージを打ち出そうと懸命だが、実際はトランプ前大統領の「米国第一」思想が党派を超えて浸透している様子がうかがえる。

「損切り」の英断を評価する声

アフガニスタンは、「帝国の墓場」とも呼び習わされている。米国もまたアフガンで失敗をした。写真は首都カブールの男性(c) Pexels

 さらに、「アフガニスタンから撤退すると、米国の国際的な評価に傷がつくのではないか」という懸念に対しては、アンディ・ジャオ氏(カリフォルニア州バークレー在住)が次のように述べている。
 「これまで20年という長きにわたってアフガニスタンやイラクで泥沼化する戦争に固執し続けたことこそが、米国の国際的な信用の低下を招くことになった。米国が撤退を決めたからといって、ロシアや中国と対峙しているウクライナや台湾に対して<米国はあなたたちを切り捨てる>という誤ったメッセージを送ることにはならない」
 このような現実論者は、トランプ前大統領やバイデン大統領が撤退を決断したことについて、これまで投下した資金や労力・犠牲のうち、「サンクコスト」、すなわち撤退しても戻って来ないものを回収することに見切りをつけ、勇気をもって「損切り」する覚悟を決めた英断だと評価している。20年かけても結果を出せなかった以上、さらなる関与は無駄であり、米国が過ちに区切りをつけて新たなスタートを切るためには撤退しかない、というのが彼らの主張だ。

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