米軍のアフガン撤退と民主主義の行方
「驕りの誤謬」迫られる米国と変わる世界

  • 2021/5/17

繰り返された失敗と自信の喪失

 こうした中、米軍がなぜアフガニスタンで成功を収められなかったのかという「失敗の本質」を特定し、将来の教訓にしようという動きも少なからず見られる。ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたエリック・ケリー氏(バージニア州アーリントン在住)の投稿も、その一つだ。同氏は、米国の目的が当初掲げていた「テロリストの殺害」から「銃口を突き付けて民主主義の輸入を迫る」ことにシフトしたことが失敗の一因だと主張する。
 その上でケリー氏は、「40年前のベトナム戦争の時は、政府から市民社会にいたるまで、あらゆるレベルで失敗の本質を分析し、記録も残されていた。にもかかわらず、今回、アフガニスタンでまったく同じ失敗が繰り返されたのは、この戦争にははじめから成功する可能性がなかったためであり、試す価値すらなかったからだ」と、斬り捨てる。
 このような意見は、「世界の警察官」や「民主主義の伝道師」を自認する米国が構成してきた世界秩序の一部、あるいは全部を否定することになりかねないため、以前は大っぴらに表明されづらかった。しかし、ベトナム、イラク、そしてアフガンと失敗が繰り返された上、近年、米国内で民主主義が退潮しつつあることもあいまって、ようやく「他国への民主主義の押し付けは価値がない」と発言しやすい環境になりつつある。

米国人は、民主主義の至上性に自信を失い始めている。写真は米国旗に敬礼する兵士(c) Pexels

 撤退のタイミングはいつまで経っても来ない」という趣旨の発言をしている。米国人は今、第二次世界大戦や冷戦終結後に信じていた「米国の民主主義こそ、世界の向かうべき方向性であり運命だ」という驕りの誤謬に向き合い始めていると言えるのかもしれない。
 米国は今回、先の大戦で日本が無条件降伏を受諾し、海外領土をすべて失い、国体さえ変容を強いられるような大敗北を喫したわけではない。しかし、それでもなお、アフガンにおける事実上の敗戦は、民主主義の総本山としての米国のあり方や行方について、米国人一人一人に問い直しを迫っている。その意味で、トランプ前大統領とバイデン大統領が下した撤退の決断が、今後、米国の将来的な役割にも微妙な影響を及ぼすことは避けられないだろう。

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