米国内に「ウクライナ支援疲れ」の兆し
米露で高まる停戦への機運の背景を読む

  • 2023/1/3

 2022年2月にロシアの侵攻を受けて、一時は亡国の淵に立たされたウクライナ。その後10カ月にわたり、米バイデン政権の総額1,000億ドル(約13兆3,000億円)にも上る巨額軍事援助や米国製の新鋭兵器を活用し、失地回復の途上にある。

訪米したウクライナのゼレンスキー大統領をホワイトハウスで歓迎する米国のバイデン大統領。ウクライナへの強力な支援の継続を再確認した (c) バイデン大統領の公式ツイッター

 同時に、米国は無制限にウクライナの対露戦を支援できるわけではない。右寄りの共和党トランプ派や左寄りの民主党進歩派の双方から停戦論が聞かれ始め、本音レベルではバイデン政権も、ウクライナの「もっと援助を」の要請に困惑していると米政治サイトのポリティコが伝えている。

 こうした「ウクライナ支援疲れ」の背景には、与野党伯仲により11月の中間選挙で不安定化した米国の財政方針や、増加の一途をたどる不法移民、2023年に予想される米経済後退などの国内問題が見え隠れしている。きっかけさえあれば、すぐにでも「多額過ぎるウクライナ支援」に国民の関心が集まり、早期停戦論へと発展する可能性は低くなく、ロシアとウクライナ双方の「出口戦略」、すなわち停戦交渉にも多大な影響を及ぼすだろう。

 日本であまり知られていない米外交と内政の交差点を分析し、米国内問題からウクライナ戦争の将来を読み解く。

抑えられない停戦論と出口戦略

 米世論の対ウクライナ支援への支持は強い。12月21日には訪米したウクライナのゼレンスキー大統領が米議会で演説し、熱い歓迎を受けた。米世論調査のユーガブと英エコノミスト誌が2022年12月17日から20日にかけて1,500人の米成人に行った調査では、過半数の53%が対ウクライナ武器支援の続行を支持。48%が資金援助の継続を支持した。

国が新たにウクライナに供与する広域防空用の長距離地対空ミサイル、パトリオット。ミサイル迎撃能力が向上する (c) Ukraine War/twitter

 一方で、米シンクタンクのシカゴ国際問題評議会によれば、共和党支持者の間では、「ウクライナ支援疲れ」の傾向が顕著に表れている。民主党支持者の61%が12月初旬に「どれだけ戦争が長期化してもウクライナを支えるべきだ」と考えていたのに対し、共和党支持者はわずか33%にとどまった。

 共和党支持者は、侵攻直後の3月に80%、7月には68%が対ウクライナ軍事援助を支持していたが、12月には55%へと減少。資金援助への支持も、3月の75%から12月には50%へ下がっている。「米国第一」および「親露的」な傾向がある共和党、特にトランプ派で、特にそうした言動が目立つ。

 急進的なトランプ派のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(ジョージア州選出)は、11月の中間選挙で下院を制した共和党において指導的な立場にあるが、「バイデン大統領は米国民の血税を数十億ドル単位で使うことの正当性を米議会で説明すべきだ。米国の利益を第一に考えよ!」と12月21日にツイートした。

 ウクライナ支援に冷めた見方をするのは共和党支持者だけではない。

 民主党進歩派の指導者であるプラミラ・ジャヤパル下院議員(ワシントン州選出)を筆頭に、マーク・タカノ下院議員(カリフォルニア州選出)など約30人の下院議員は10月25日に声明を発表し、平和主義の立場から「米国民の血税を投入した対ウクライナ援助は、米国をロシアとの戦争に巻き込む可能性がある。ある時点で停戦交渉が必要だ」と主張した。

 この行動に対しては民主党内から批判が高まり、署名をした進歩派議員は即座に声明を取り下げたが、「ロシアとの戦争に巻き込まれたくない」という懸念が左派にも共有されていることを如実に示す出来事となった。

米国内のウクライナ停戦論を主導するキッシンジャー元国務長官。(c) The Hill /twitter

 知識人の間でも停戦論が根強い。ニクソン政権下で大統領安全保障担当補佐官であったヘンリー・キッシンジャー元国務長官は、侵攻直後から、ロシアが2014年に併合したクリミア半島や親ロシア住民が事実上支配している東部ドンバス地方をロシアが支配する「戦争開始前の境界線での停戦」を主張してきた。

 ロシアに占領されたすべての領土回復を唱えるウクライナ政府の立場とは異なるが、こうした「現実的な解決」に賛同する言論人は少なくない。

 このように、米世論は表面的にはウクライナ支援で強く団結しているものの、左右を問わず懐疑論の台頭は無視できないレベルに達している。そのため、国内の懸案が悪化するようなことがあれば、一気に停戦論に傾く可能性があるのだ。

迫りくる米経済の不況

 米国の対ウクライナ支援の縮小論や停戦論が高まるきっかけとなり得るのが、米国内の経済問題だ。

 まず、下院を取った財政緊縮派の共和党は、即座に対ウクライナ支援の縮小に踏み込むことはしないとしても、確実に使途の厳重なチェックを要求するだろう。ウクライナは、従来のように自由に援助増額を要求しにくくなる。

 また、米国民向けの支出減少を主張する中、他国への巨額軍事援助が正当化できるのかについても議論が深まるだろう。加えて共和党は、「コロナ対策として財政出動を吹かしすぎたことがインフレを悪化させた」との論陣を張っており、インフレ抑制の観点からもウクライナ支援予算の削減が議題に上ろう。

 2016年に米国緑の党から大統領候補として出馬したジル・シュタイン医師は、クリスマスイブにツイッターに投稿し、「わが国は1,000億ドル以上の対ウクライナ武器支援や公務員給与援助などを行ったが、米国では数百万人が生計を立てられなくなっている」と不満を表明した。

「ウクライナ戦争のおかげでインフレがひどくなり、買い出しでこれだけの食料品しか買えない」と訴える米一般人のツイッターの投稿写真 (c) cache, troll demon /twitter

 ゼレンスキー大統領が12月に米議会を訪問した背景には、中間選挙後のこうした状況を見越して、できる限り多くの共和党議員を味方につける目的が大きかった。それは、現時点では成功している。共和党上院トップのマコネル院内総務をはじめ、非トランプ派の議員がウクライナ援助継続への強い支持を表明したからだ。

 しかし、さすがの説得上手のゼレンスキー氏にもコントロールできないことがある。それは、米景気の鈍化だ。インフレ退治に邁進する米連邦準備制度理事会(FRB)による度重なる利上げにより、住宅市場をはじめ、各方面で需要減退が強まっている。多くのエコノミストは、2023年に米経済がリセッション(経済後退)入りすることは確実と見ている。

 この景気後退がマイルドなもので済むのか、金融資産価格の暴落や実体経済の急減速を伴う深刻なものになるかについては、識者の意見が割れている。もし重度のリセッションとなれば、米国内総生産(GDP)の7割を占める消費をはじめ、企業業績、雇用などが連鎖して悪化する可能性がある。当然、米国のウクライナ支援の原資となる税収も減少する。そうなれば、米国民が受忍をする中、他国の戦争を支援し続けることの是非が問われるのは不可避だ。

切り離せない移民問題

 さらに、表面上は別の問題に見えるウクライナの国境防衛戦争と米国の国境問題が、実は多くの米国人の頭の中では表裏一体であることにも留意する必要がある。

 実際に、一部の共和党支持者からは、「メキシコとの国境に今年だけで200万人以上の不法移民が押し寄せて対処できなくなっているのに、なぜウクライナの国境を守るために数百億ドル規模の支援を行うのか」との声が上がっている。

米国とメキシコの国境で入境を待つ中南米からの不法移民。米国側では対処できない数に膨れ上がっている (c) New York Post /twitter

 バイデン政権は11月、事態を悪化させた税関・国境警備局(CBP)のマグナス局長を事実上更迭した。また、アリゾナ州などメキシコと国境を接する州では、大型コンテナ容器を積み上げて、臨時の「国境の壁」の建設を進めている。それでも、「バイデン大統領の米国なら受け入れてもらえる」と考えて押し寄せる不法移民は後を絶たない。

 テキサスなど共和党が地盤とする南部の州は、移民に寛容なバイデン大統領がこうした状況を招いたと非難し、不法移民を民主党が地盤とするニューヨークなど北部諸州にバスや航空機で送り付けて問題化している。

 加えて、トランプ前政権が新型コロナウイルス対策と称して導入した、メキシコ国境で拘束された不法移民に亡命申請を認めず出身国に即時送還できる措置について、バイデン政権は廃止を公約していたが、不法移民急増を受けて現状維持の方針に転じている。

 こうした危機的な状況の中、2023年も不法移民の増加が続けば、米国民の多くの関心は国内問題に向かうことが予想される。対ウクライナ支援への熱意が冷めてゆく傾向と相まって、「ウクライナ支援よりも国内の移民対策に予算を配分してほしい」との声が高まるだろう。

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