ポスト・コロナへの第一歩 新しい日常へ
外出制限が緩和され1カ月が経ったホーチミン 市中感染ゼロを更新中

  • 2020/5/29

 「週末はダラットに行くんだよ」

 最近、複数の友人から立て続けにそう聞いた。ダラットは、日本で言えば軽井沢のような高原の街である。ホーチミンから北西へ車で6時間あまり。緑豊かでなだらかな起伏が広がるこの美しい避暑地は、サイゴンっ子たちにとって週末に気軽に訪れることができる旅行先の一つとして、さらに新婚旅行先として、絶大な人気を誇る。

 新型コロナウイルスの感染を防止するために出されていた外出自粛が緩和されて約1カ月が過ぎ、人々が再び「移動」を始めているベトナム。街の喧騒や朝夕の渋滞が復活し、市民生活は日常に戻ったように思われるこの国の「ポスト・コロナ」に向けた歩みを報告する。

スーパーではフェイスシールドも売られるようになった。1つ約200円(筆者撮影)

3カ月ぶりの学校再開 卒業と入試への影響も 

 3月28日から全国で実施された外出自粛は、約1カ月続いた。毎年、4月30日のサイゴン解放記念日と、5月1日のメーデーはベトナムでも珍しい連休なのだが、今年は式典も縮小され、いつになく静かな日となった。

 翌週、5月4日に学校が再開され、2月初頭から3カ月続いた休校措置が解除された。卒業試験を控えた中学3年生と高校3年生を優先しての分散登校である。ベトナムの新年度は9月であるため、いつもなら年度末の6月に全国一斉に卒業試験(事実上の大学共通テストのようなもの)が行われるのだが、今年は旧正月休みの1月末から授業がほぼ行われなかったため、履修内容が追いつかず、学期の延長が決定された。

市内の中学校の様子。授業は二部制で行われており、写真は午後の部のために登校してきた生徒たち(筆者撮影)

  ベトナムでは、国立大学の入学試験日の数カ月前から主要紙で特集が組まれるほか、試験期間中は共産党の青年部や有志が特設の案内所を設けたり、無料宿泊所を提供したりするなど、大学入試への関心が全国的に高い。今年は合格発表が9月にずれ込むことが発表されており、受験生にとって「長く厳しい夏」になりそうだ。

補償なくとも批判なし 政府の対策に「高い満足度」  

 自粛期間をホーチミンで過ごしてみて筆者が感じたのは、「思った以上に人々がおとなしく従っている」ということだった。普段は、交通ルールがないに等しいような運転が多々見られ、衛生面でも日本の感覚からすると首をかしげてしまう場面が多い。

 しかし、自粛期間は市内の交通量がめっきり減り、スーパーやコンビニなど公共の場では、皆、マスクを着用し、入り口では従順に検温を受けていた。時折見かけていた手鼻や痰吐きも、ほとんどなくなったように思う。そうした行為を禁じる広告や横断幕が街のあちこちに掲示されていたからかもしれないし、未知の感染症に対する恐怖からだったかもしれない。

筆者宅に届いた4月分の電気料金の明細。「COVID-19による割引補助」と記載され、約350円が割り引かれている(筆者撮影)

 団結力の高さも感じた。自粛期間中、国内各地で低所得者に食料が提供されたが、これは民間企業や篤志家によるチャリティーで賄われていたという。そんな中、筆者自身も享受した支援策がある。電気料金の割引だ。ベトナム政府の決定で、4月から3カ月間、感染の有無を検査する機関や、感染した患者の治療にあたる施設にはほぼ無償で、また個人宅には1割程度、料金を割り引いて電気が提供されることになったのだ。

「スローガンは”力と心を合わせてコロナに打ち勝とう」と訴えるHoa Binh新聞の記事 (http://baohoabinh.com.vn/en/10/5283/Painters-jo105n-COVID-19-fight-efforts-with-hundreds-of-propaganda-paintings.htm)

 今回、多くの市民がビジネスの休業を余儀なくされた。政府や自治体による一律給付補償もない。それでも、シンガポールとフランスの会社が実施した「政府の新型コロナ対策に対する国民満足度調査」によると、ベトナムは、調査が行われた23カ国の中で、中国に次いで2番目に政府への満足度が高いという。実際、筆者の周りでも「家ごもり自体が窮屈」と泣き言を言う友人は何人かいたが、政府に対する不満や不平はほとんど聞かれなかった。

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