新型コロナ対策 ベトナム・ホーチミン市のいま
水際対策のその先に、2週間の外出自粛措置始まる
- 2020/3/30
不自由な暮らしの中で
前述の措置に加え、3月中旬からは、娯楽施設の一時休業も始まった。個人的には、連日、深夜まで営業していた近所のカラオケ店が休業したおかげで、睡眠の質が格段に上がったように思う。下旬からは、客席が30席以上のレストランは、デリバリーや持ち帰りを除いて営業が休止になり、外食文化が生活に深く根付いているベトナム社会で、経営者と利用客の双方に大きな影響を与えている。
当地の友人らに、生活や仕事にどんな影響があるか尋ねてみた。
ジェニー・ルオンさん(34歳)がホーチミンの郊外で運営している日本語学校も、生徒は小中学生が多いため休講を余儀なくされているが、大人向けクラスは授業の再開を望む声に応え、一部、オンラインで授業を行っているという。「生徒たちは、授業を受けて知識を蓄積しないと忘れてしまうと不安になっている。オンライン指導だけでは、学生の集中力を保つのは難しいと感じるが、マスクが高価で入手できないため、仕方ない」とルオンさん。「苦しい状況だが、今年7月に予定されている日本語能力試験に向けて頑張ってほしい」と、エールを送る。
一方、市内で小学2年生の息子と暮らしながら企業進出サポートの会社を経営するシングルマザーのホン・トゥさん(35歳)は、休校措置が始まってすぐに自宅勤務に切り替えたという。「社員6人が交互に出社しているが、受注量は格段に減った。仕事のスピードと質をいかに保つか、苦慮している」「私自身、子どもの世話と家事をこなしながら働くことに、最初はかなり戸惑った」とトゥさん。将来への不安や生活のストレスで落ち込むことも多いが、子どもに八つ当たりしないよう、早起きしてヨガやフラワーアレンジメントをして気分転換を図ったり、一緒に料理や掃除をしたりして過ごしているという。「自宅待機は、試練であると同時に、育児法を見つめ直す好機なのかもしれません」
支え合い、根気強いこの国の人々と
休業を余儀なくされている商業施設やレストランとは対照的に、道端の屋台やカフェは、通常営業を続けている。外出が制限されている分、配車アプリが提供するフードデリバリーや日用品の配達注文は、需要が伸びているという(筆者自身、「Grabフード」にはかなりお世話になっている)。

ベトナム人歌手KHẮC HƯNGと MIN 、 ERIKの3人が発表した新型コロナ予防の啓発ソング「Ghen Co Vy」のタイトルジャケット (c) 公式youtubeより筆者引用(https://www.youtube.com/watch?v=Vk8_0QaJr3I)
そんな中、話題を呼んでいるのが、ベトナム人アーティストが手がけた感染拡大防止の啓発ソング「ghen co Vy」(嫉妬したコロナさん)だ。さまざまな人々がこの曲を歌ったり踊ったりしながら「一致団結してコロナに立ち向かおう」という思いを共有する動画がネット上で次々とシェアされ、イギリスのBBC放送をはじめ世界のメディアからも注目を集めている。最近、英語バージョンも公開された。

ベトナムの国旗をモチーフに、赤地に黄色いハートをあしらった「ランドマーク81」の応援ライトアップのデザイン (c) ランドマーク81の公式フェイスブックページより筆者引用(https://www.facebook.com/pg/Landmark81SkyView/posts/)
ベトナムで最も高い商業ビル「ランドマーク81」は、時節に応じたライトアップが行われ、文字通り街の「ランドマーク」とも言える存在だ。3月に入ってからは、ベトナム国旗をモチーフにした赤地に黄色のハートの灯りが浮かび上がり、行き交う人々を優しく照らす。筆者自身、仕事帰りに見上げては、明日も頑張ろうという活力をいただいている。厳しい状況下ではあるが、人々の優しさと強さに支えられながら乗り切りたいものだ。