中国が第14次五カ年計画を発表
「一帯一路ハイクオリティ発展」の意味と野望を読み解く

  • 2021/3/21

人材交流とソフトパワー

 第三節では、国家間の経済貿易投資協力の推進についてまとめられている。具体的には、「シルクロードにおけるEコマース開発を積極的に進める」、「国際エネルギー協力の進化と第三国市場の開拓、互恵互利の産業サプライチェーンシステムの構築を通じた貿易と投資を促進する」、「持続可能な国際慣例と債務の原則にのっとり、企業主体の市場原理に従い多角的な投資と資金調達システムを実現する」、「一帯一路の健全な金融ネットワーク構築と金融インフラの相互連携、各国の金融機構が共同で参画する融資制度を立ち上げる」、「法的なサービス保障を強化し、リスク防止と安全保障を図る」などが掲げられている。

一帯一路建設を通じたエコ活動の推進も盛り込まれた © iStock

 さらに、「それぞれの文明を鑑として学び合い、かけはしを築く」という見出しがつけられた項目では、公衆衛生やデジタル経済、エコ活動、科学技術教育、文化芸術など、領域間の協力を深化するとともに、議会、政党、組織間、あるいは女性、若者、障害者間のコミュニケーションを推進し、多元的な人材交流を図ることが謳われ、「一帯一路ハイテクイノベーションアジェンダ」、「デジタルシルクロード」、「イノベーションシルクロード」といった造語が列挙されている。また、気候変動、海洋協力、野生動物保護、砂漠化防止を通じた

 「エコシルクロード」の建設や、一帯一路の沿線国家が協力して医療体制や衛生対策に取り組み、感染症の予防を推進する「健康シルクロード」の建設も強調された。

ポストコロナの国際秩序のゆくえ

 このように見てくると、一帯一路の「ハイクオリティ発展」が意味する要点は、(1)優先順位をつけてプロジェクトを絞る、(2)国内の基点である福建や新疆などに投資を集中する、(3)国際的な貿易枠組みと国際金融をリンクさせ、外国や外国企業の投資を促すことにある、と言えそうだ。さらに、一帯一路構想がイメージしているインフラ投資とは、GPSやデジタルインフラも含まれた立体的なものであると同時に、環境や健康福祉、文化芸術といったソフトパワーも併せて一帯一路の枠組みの中で主導していきたいという中国の意向も見えてくる。

第14次五カ年計画によって一帯一路構想の修正が図られているものの、中国流価値観をポストコロナ時代の世界標準にしたいとの野望は変わっていない © billow926 /Unsplash

 要綱全体に目を通してみると、一帯一路建設の欠点や問題点は中国自身が相当程度自覚しており、方向修正しようとしているという印象を受ける。とはいえ、一帯一路建設を通じ、ポストコロナの国際社会の新たな枠組みを中国の秩序や価値観を機軸にしたものにしようという野望自体は、なんら変わっていない以上、中国のこの野望を実現するために、諸外国がどの程度積極的に投資や協力を行うかが重要になってくる。それはすなわち、今の中国共産党政権が持っている価値観や秩序、世界観、パワーの使い方が、国際社会全体の求める未来にふさわしいかどうか、という問題に直結するからだ。

 さて、その答えや、如何に――。香港や台湾で起きている民主化の問題、新疆ウイグル自治区における人権問題、そして南シナ海の島々で進む軍事基地化の動きや、尖閣諸島に対する中国の対応などを見れば、おのずと明らかだ。

 

 

 

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