中国の「気候外交」と一帯一路
低炭素経済を掌握してエネルギー覇権を狙う野望

  • 2021/5/27

 中国国家主席の習近平は4月22日、米国が主催した気候変動サミットにオンラインで出席。中国の二酸化炭素(CO2)排出量について、2030年より前にカーボンピークを実現し、2060年より前に実質ゼロ(カーボンニュートラル)を達成するという二大カーボン目標を改めて打ち出した。2015年に地球温暖化防止の国際枠組みであるパリ気候協定に加盟し、2020年9月に国連総会に出席するなど、温室効果ガスの排出削減に取り組む方針を繰り返し示してきた中国だが、年限を切ったのは今回が初めてであり、習近平の「気候外交」の幕開けだと見られる。他方、気候外交も、中国が主導する「一帯一路」戦略と結び付くことで地域のエネルギー覇権に関わることを考えれば、手を敲いて歓迎してばかりもいられないようだ。

バイデン米大統領の主催で開催された気候変動サミットの様子(2021年4月22日撮影 (c)新華社/アフロ

野心的な二つのカーボン目標

 習氏は、「2030年までに中国の国内総生産(GDP)当たりのCO2排出量を2005年比で65%以上削減するとともに、非化石エネルギーの一次エネルギー消費の比重を25%前後、森林蓄積量を2005年比で60億立方メートル以上、そして風力発電や太陽光発電の設備容量を12億キロワット以上、それぞれ増やす」という果敢な数値目標を掲げた。この目標を達成するために、中国は2030年までに石炭火力発電所を少なくとも半分、そして2040年までにすべて閉鎖するとみられる。
 中国が温暖化ガスの排出削減面で世界のリーダーシップを取ろうとしていることについて、チャイナ・ウォッチャーたちは「中国の専制体制をもってすれば民主国家より効率的に進められるだろう」と見ている。そのカギを握るのが、2021年に始まった排出量取引制度の運用だ。ひとたび中国の炭素価格がエコ電力コストより高くなれば、中国は将来的に世界最大の排出量取引市場になるだろう。さらに、太陽光や風力といった低炭素の再生可能エネルギーを含むエネルギー産業の発展も中国が支えるという構図になるはずだ。

中国は世界の風力発電量の4割を生み出している © iStock

 もっとも、環境保護関係者の中には、中国国内で厳格な温暖化ガス削減目標が設定されたことで、化石燃料発電所プロジェクトが一帯一路に移転されて汚染が拡大され、世界全体で見た時に気候効率が損われるのではないかと懸念する者もいる。しかし、残念ながら、これは中国の気候外交の本質とは言えない。
 確かに中国は、一帯一路の国々で建設される石炭燃料発電所の建設資金の4分の1を拠出している。統計によれば、これらの総設備容量は102ギガワットに上り、世界の石炭火力発電量の5%に相当するという。
 だが、世界の化石燃料発電所追跡組織(グローバル・コール・プラント・トラッカー)によれば、中国国内で現在、操業中の石炭火力発電所の設備容量は1023ギガワット、世界の5割に相当するという。計画通り2030年までに中国国内の石炭火力発電所の半分が閉鎖されれば、一帯一路の国々で石炭火力発電所が新設されて炭素汚染量が増えたとしても、温暖化ガスは大幅に削減される計算だ。
 気懸かりなのは、むしろ中国がなぜ気候変動問題でリーダーシップを取ろうとするのか、「気候外交」の真意だ。中国は、2012年頃から排出量を外交取引の重要なツールとみなし、北京、重慶、上海、天津、深圳、湖北、広東、福建などで試験的に排出量取引に取り組んで評価を下した。今年は排出量取引センターを上海に、そして排出量取引に関するデータベースセンターを湖北省に設置し、排出量取引市場を全国的に始動する。

世界最大の排出量取引市場

 そんな中、ボイスオブアメリカ(VOA)は、台北大学自然資源環境管理研究所の李堅明教授のコメントを引用しつつ、「中国は炭素価格が地方によって異なるが、炭素換算1トン当たり50~60ドルに上昇すれば、再生可能エコエネルギーが中国の低炭素経済の牽引役となるだろう」と報じた。
 2019年に世界が排出した二酸化炭素ガスは364億トン。排出量が多い国は、中国が102億トン、次いで米国53億トン、そしてインド26億トンだ。中国の排出量取引市場で扱われる排出量は40億トン以上になると見込まれ、世界最大の排出量取引市場になると見られる。中国が排出量取引市場をコントロールできると言われるゆえんだ。

中国の太陽光発電量は世界の総量の7割を占める©iStock

 社会科学院アジア太平洋グローバル戦略研究院の周亜敏氏は、国務院発展研究センター主管の半月刊誌「中国発展観察」に寄せた論文で、「カーボンピークとカーボンニュートラルの目標を掲げたことは、わが国の産業チェーンのレベルアップにつながる」と主張する。排出量市場において主導権を握る中国が、今後、二酸化炭素回収貯留技術(CCS)や、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)などを通じて再生可能エネルギー技術の生産市場を牽引するようになるだろう、との見立てだ。

 さらに、「世界最大の排出量取引市場である中国が市場型の政策を規制して高排出量エネルギー産業を淘汰し、エネルギー産業チェーンの構造転換を進める動力になるのではないか」と、期待を寄せる。実際、カーボンピークが2030年であることからも、中国の排出量枠は排出量の取引市場の発展に有利だとみられている。

ゼロ炭素発電への転換

 他方、周氏は、世界に現在、化石燃料を使った火力発電プロジェクトがおよそ1000あり、その多くが日本をはじめ富裕国の投資と技術によって進められていることについて、「誤った発展の方向」だと非難している。この背景には、一帯一路の沿線の国々におけるエネルギー戦略において、中国が資金や技術を提供することになっていた火力発電の投資事業(主に石炭火力)が自国の掲げる低炭素の貢献目標にかなっていない、との指摘を受け、プロジェクトが頓挫するケースが多々あったことへの負け惜しみもあろう。実際、化石燃料の発電設備に関するエコ技術はやはり日本が最高水準であり、この技術格差を中国が追い越すことは困難である。

 だからこそ、周氏は「排出量の取引市場の規制の下で、中国市場から押し出された石炭火力発電の施設や関連産業が周辺国家にあふれ出ることを避けなければならない」とした上で、「この種の高排出設備や生産ラインを移転するにあたり、一時的にいくばくかの経済収益がもたらされて斜陽産業が活性化するかもしれないが、その代わりに中国外交部は国際社会からの非難を受けて、一帯一路の推進に不利益になる」と指摘。「二つのカーボン目標を掲げたのは、気候外交によって中国のリーダーシップを維持し、排出量削減につながる技術革新のためだった」と強調している。

中国は気候変動サミットで二つのカーボン目標を掲げた ©Markus Distelrath / Pexels

 こうした考えに立ち、中国は今後、太陽光や風力、原子力などのクリーンエネルギー産業チェーンを一帯一路の沿線国に移転していく方針だ。周氏は次のように指摘する:

 「二つのカーボン目標が目指すのは、エネルギー構造の変革だ。化石燃料に依存していたかつてのエネルギー体系を、ゼロ炭素の発電へと転換する」
 「再生可能エネルギー、特に、風力や太陽光、そして核エネルギーへの転換がグローバルに推進されている。中国は積極的にその推進に向けてリーダーシップをとっていく」
 「中国は、エコエネルギー戦略を通じて化石エネルギーへの依存を縮小し、温室ガスの排出を削減するとともに、太陽光発電と風力発電については世界最大の発電国となった。今後、世界規模で再生可能エネルギー分野への投資が推進されて技術革新が起こり、一帯一路の国々に産業チェーンが移転され活性化するだろう」
 「2020年前半、中国から一帯一路の国々への再生可能エネルギーの投資額が、化石エネルギーを初めて上回った。中国が再生可能エネルギーを支援している国は100カ国を超え、一帯一路の国々には毎年20億ドル以上の投資を行っている」
 「中国は、世界の太陽光発電の7割、風力発電の4割を生み出す再生可能エネルギー大国であり、一帯一路を通じて関連産業の海外進出を推進することができる」

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