少数民族武装勢力から見たミャンマーとタイの国境情勢
クーデターがカイン州にもたらした影響と、それぞれの思惑を読む

  • 2024/2/15

 ミャンマーで2021年2月にクーデターが発生して丸3年が経過しました。今も全土で数多くの戦闘が行われており、落ち着く気配がありません。2023年10月には、東部のシャン州と西部のラカイン州を拠点とする3つの少数民族武装勢力(EAO)が連携して軍を攻撃するなど、状況はいっそう混沌としています。長きにわたり国軍と対峙してきたEAOは今、何を考え、クーデター後に新たに生まれた民主化武装勢力とどのような関係性にあるのでしょうか。

 長年にわたりミャンマー・カイン州の武装勢力について研究してきた駒澤大学非常勤講師の佐々木研さんが、ミャンマーにおける武装勢力の背景を概観するとともに、近年のタイ国境をはじめ、国境情勢について解説します。

国境地帯における武装勢力の類型と背景

 ミャンマーの国境地帯には、クーデター以前より数多くの武装勢力が存在している。まず、政府(または国軍)から独立していた勢力としては、少数民族武装勢力(EAO)が挙げられる。これに対し、軍傘下の国境警備隊や民兵部隊など、独立性が低い武装勢力も存在する。

 国境警備隊と民兵部隊が「独立性が低い」と述べた理由は、表面上はどちらも国軍の傘下にあるが、実際には一定の独立性を維持しているためである。両者の違いは一概には言えないが、国境警備隊は部隊の規模が大きく、正規軍として位置付けられているため、軍から給与や補給物資などが支給される。これに対し、民兵部隊には給与などの支給はなく、小規模で、階級システムもない。

 EAOは、いうまでもなく非正規軍であり、クーデターが起こる以前から、政府との間で和平交渉が行われていた。特に、全国規模停戦合意(NCA)への署名式があった2015年10月以降は、NCAプロセスと呼ばれる和平交渉が進められていた。

カイン州の民兵隊のワッペン(2014年、筆者撮影)

 NCAプロセスの目的は、政府、軍、EAOが交渉によって憲法を改正し、少数民族の自治権を拡大することで新たな連邦制を創設することにある。この枠組みを策定するために16のEAOが政府と交渉していたが、最終的にNCAプロセスに参加したのは、10勢力に留まっている。自らの意志で参加に至らなかった勢力もいれば、政府から拒否された勢力もあった。さらに、これら16の勢力とは別に、政府によって参加を促されたにも関わらず、枠組みの策定段階から参加しなかった勢力もあり、合計すると、勢力数は21に上る。つまり、NCAプロセスに参加したEAOは半数にも満たないことになる。なお、これら21勢力以外に、独立性が高い小規模な勢力も数多く存在する。

 NCAプロセスに参加していた勢力は和平交渉におおむね積極的で、シャン州復興評議会(RCSS)をのぞき軍事力が弱いのが特徴である。それに対し、NCAの枠組を策定する時点で自ら参加していなかった勢力は、強力な軍事力を誇り、憲法で定められた排他的な自治区を擁していた。クーデター以前は、4つのEAOが、軍と比較的大規模な戦闘を行っていた。この中で、古くから存在するカチン独立機構(KIO)には、政府もNCAプロセスへの参加資格を認めていたが、比較的新しく創設され、2011年の民政移管の後から攻勢に出てきた3つのEAOについては、参加を認めようとしなかった。

 さらに、KIOは民族の自治のために戦ってきた勢力である一方、これら3勢力は主権を侵害してきたとして、NCAプロセスへの参加要件に事前の武装解除などを求めていた。これら3つのEAO、すなわちアラカン軍(AA)、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)、そしてタアン民族解放軍(TNLA)が、後に「3兄弟同盟」を結成し、2023年10月に国軍に対して攻勢「1027作戦」に出ることになる。

 以上を基に、クーデターが起きる前のEAOについて、和平交渉への取り組み方から分類すると、①NCAプロセスに参加することで権益の維持または拡大を望んだ弱小な勢力、②政府や軍に対する不信感から様子を見ていた勢力、③すでに高度な自治を実現しており現状維持を望んだ強力な勢力、そして④戦闘によって自らの支配地域の維持または拡大を望んだ勢力、に分けられると言えよう。

和平交渉に積極的だったKNUに変化

 しかし、クーデター以降は、反軍政側と軍政側の双方で新たな武装勢力が数多く結成され、状況はさらに複雑になっていく。このうち、反軍政側の勢力としては、国境地域で結成された新たな少数民族武装勢力のほか、都市部や国境地域で民族にこだわらず結成された民主化武装勢力が挙げられる。

 このうち、民主化武装勢力は、国民防衛隊(PDF)と、その他の独立した武装勢力に分けられる。PDFは、軍政に政権を追われた議員らが中心となって設立した国民統一政府(NUG)が軍事部門として創設を宣言したものである。ただし、NUGが全土のPDFを一元的に統率しているというより、その方針に賛同する個々の勢力が名目的にPDFに参加しているというのが実態に近い。対する軍政側も全土で民兵部隊を新たに結成している。

 では、EAOはこうした新たな武装勢力とどのような関係性にあるのか。ここからは、ミャンマー南東部のカイン州におけるEAOを例に論じる。タイ国境に位置するカイン州では、クーデター以前から多くの武装勢力が活動していた。代表的な6つの中で最も強力な勢力は、国軍傘下の国境警備隊である。同じ国軍系の勢力としては、州北部に小規模な民兵部隊も存在している。

 これ以外の4勢力は、EAOである。具体的には、カレン民族同盟(KNU)、カレン民族同盟/解放軍和平協議会(KPC)、民主カレン慈善軍(DKBA-e)、民主カイン仏教徒軍(DKBA-b)で、DKBA-b以外はNCAプロセスに参加していた。NCAプロセスではムートゥーセーポーKNU議長(当時)がEAO側の交渉団代表を務め、停戦監視委員会でもKNUのアイザックポー准将がEAO側の代表を務めていたことが示すように、カイン州のEAOはKNUを筆頭に和平交渉に積極的であった。

DKBA兵士(2006年、筆者撮影)

 しかし、こうした状況もクーデター以降は変化が見られる。たとえば、KNUは軍政からの和平協議の招待に応じていないのに対し、KPCやDKBA-eは代表団が首都ネーピードーを訪問しているなど、NCAプロセスに参加していた勢力同士でも、軍政への態度はEAOにより異なっている。この背景には、KNUがタイ側に拠点を有しているのに対し、KNU以外の勢力はミャンマー国内に拠点を置いているため、軍政に厳しい態度を取りづらいという事情があるかもしれない。

 また、クーデター直後には、KNUの中でも強硬派の第5旅団が州の北部で国軍の拠点を占領し、国軍が空爆により報復するという事案が発生した。国軍の応援要請を受けて国境警備隊も派兵する事態となった。しかし、KNUが全体として軍政と対立しているわけではないため、第5旅団管区を除けば、州内はしばらくの間、比較的平穏だった。

転機となったレーケーコー村の戦闘

 では、カイン州のEAOと民主化武装勢力の関係はどうか。クーデター後、NUGはKNUに対してPDFへの軍事訓練の提供を含めた協力を要請したが、KNUの反応は、当初、芳しくなく、水面下で訓練を行っていた。軍政がKNUに対してPDFへの軍事訓練をやめるように要請した際も、KNUは「訓練は行っていない」と否定していた。しかし、2人のKNU幹部が訓練を提供していると国営紙上で非難されると、KNUは反論しなかった。おそらく軍に拘束されたPDF要員への尋問からその事実が明るみに出て、KNUも認めざるを得なかったと思われる。この時に名指しで非難されたのは、KNU本部が保有するトゥーレー社副社長のヤンナイと、KNUの軍事部門であるカレン民族解放軍(KNLA)のポドゥ第7旅団長(当時)だった。

レーケーコー村(2015年、筆者撮影)

 ヤンナイが副社長を務めるトゥーレー社は、国境沿いに建設されたレーケーコー村の施工を担っていた。タイ側に居住していたミャンマー避難民の帰還再定住先としてKNUの第6旅団管区内に建設が進められ、和平の象徴ともされていた村だ。国軍は、国境警備隊と共にレーケーコー村で反軍政勢力の捜索を繰り返し、2021年12月14日、与党国会議員2人を含む民主活動家21人を拘束した。国軍は、捜索を行うにあたりKNUに事前に伝達し、KNUも承認していた。翌日未明、EAOとPDFから攻撃を受けた国軍は、レーケーコー村とその近郊のPDF訓練キャンプなどに対して、空爆と砲撃を含む報復を開始した。この戦闘発生時の詳細な状況は不明な点も多く、緊迫した状況下で軍の兵士が刹那的に発砲したのがきっかけだったとの情報もある。ただ、武装勢力側は、KNUのみならず、複数のPDFグループが関与していたようだ。第6旅団はKNU元議長で穏健派のムートゥーセーポーの出身部隊で、第6旅団管区ももともとは比較的平穏だったが、レーケーコー村での戦闘を機に、戦闘が頻発する地域へと一変した。

 第6旅団はクーデター直後、PDF要員を受け入れるための臨時措置として第27大隊を新設(KNUの正式承認は2023年4月)したが、この大隊長に就任したのがヤンナイだった。レーケーコー村の戦闘以降、第27大隊は、コブラコラムなど複数のPDF部隊を率いて州中部からタニンダーリ地域の北部に広がる第4および第6旅団管区で国軍と戦闘を交えている。なお第6旅団管区では、KNUを追放されたネダミャが組織するコートゥレー軍も、PDF要員を受け入れながら活動している。

開発が進むシュエココ村(2023年、筆者撮影)

 かたやポドゥは、第7旅団管区内で帰還再定住村の建設を担っていたモーコーサン社の社長でもある。第7旅団長に就任する以前は、第101特殊大隊長だった。第7旅団管区内でPDFに軍事訓練を行ったのは、この第101ともう一つの大隊で、当時は一時的に複数のPDF大隊が設立されていたが、後に他の旅団に移動したため、現在、第7旅団管区内にPDF大隊は存在しない。

 第7旅団管区の現状は、比較的平穏である。第7旅団管区には、州最大の武装勢力で、軍とも連携している国境警備隊の本部(シュエココ村)があるうえ、華人系企業が都市開発事業を進めており、オンラインカジノも営業していることから、無用なトラブルを避けるためだと思われる。この管区でも、2023年4月に1度だけ戦闘が発生したが、コートゥレー軍傘下のライオン大隊が国軍と国境警備隊を攻撃したことによるもので、KNUは無関係だった。

 以上から、カイン州では、EAO間だけでなく、KNU内でも、旅団によって軍政との距離感やPDFとの関係性が異なることが分かる。

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