BRICSサミットで浮き彫りになった脱米国一極体制の動き
世界の多極化を推進するリーダーシップを振るうのは中国かインドか

  • 2023/9/7

 中国の習近平国家主席は8月21日から25日、今年二度目の外遊として南アフリカのヨハネスブルグを訪問した。中国と南アの国交樹立25周年にあたる国事訪問と、BRICSサミットへ参加が目的だった。今回のBRICSサミットの最大の成果は、加盟国が従来の5カ国から6カ国増え、11カ国になったことだと言える。サミットの席上、習近平氏は「団結と協力によって発展を図り、勇気をもって平和への責任を担う」と題する重要演説を行い、BRICSを今後、さらに拡大し、新たな国際社会の枠組みにおいて中心的な存在となる新興国と途上国の勢力を代表する組織にしていきたいとの方向性を強く打ち出した。一部識者の中には、BRICSが今後、G7(先進国首脳会議)に対抗する新興国およびグロバールサウス陣営として発展を遂げ、世界の脱米国一極体制および脱米ドル機軸体制を進めていくのではないかという見方もある。はたしてBRICSにはそのポテンシャルがあるのか。そして、そのBRICSを率いるのは、習近平体制の中国なのか。

2023年BRICS首脳会議で、南アのラマポーザ大統領(右から2人目)と挨拶する中国の習近平国家主席(左から2人目)と、インドのモディ首相(右端)(c) AP/アフロ

産油国を含む6カ国が来年1月より新たに加盟

 BRICSサミットで演説した習近平国家主席は、「目下、世界は新たな激動の時代に入り、大調整、大分化、大再編が進められている。BRICSの国々は国際枠組みにおいて重要なパワーを形成している」「(BRICSは)終始、国際的な公平と正義を掲げ、重大な国際地域問題について公正な立場から新興市場国と開発途上国の発信力・影響力の向上に努めてきた」「さらにBRICSは独立自主外交政策の提唱者であると同時に実践者でもあり、重大な国際問題については問題自体の是非から検討を始め、公正な言動を保ち、原則的に取引もしなければ、外部の圧力にも屈せず、他国の言いなりにならない」「(BRICSは)グローバル・ガバナンスの改革をより公正かつ合理的な方向へと発展させ、世界のために確実で安定的、そしてポジティブなパワーを注入する」「中国は、BRICSとともに人類運命共同体の理念を支え、戦略的パートナーシップを強化し、各領域の協力を深め、BRICSの責任として協調して挑戦に対応し、BRICSの責任でよりよい未来を切り開き、ともに現代化の彼岸へと向かおう!」と呼び掛けた。

BRICSサミットで記念撮影する首脳たち。左からブラジルのルラ大統領、中国の習近平国家主席、南アフリカのラマポーザ大統領、インドのモディ首相、ロシアのラブロフ外相 (c) wikimediaommons

 2009年にBRICSが発足した当初、米国ほか先進国の識者たちの多くはここまで巨大なものになるとは思っていなかっただろう。設立時の加盟国であるブラジル、ロシア、インド、そして中国は、確かにいずれも21世紀に著しい発展を遂げた新興国市場だが、政治体制はそれぞれ異なり、地政学的に利害関係もある同床異夢の国々の集まりであるからだ。

 しかし、今回開かれたサミットでは、石油資源大国である中東の3カ国を含む6カ国が来年1月から加盟することが明らかにされた。さらに22カ国が加盟の要望を正式に表明したという。BRICSがこのまま拡大し続け、国際社会の枠組みや秩序の再編成に影響力を持てるかは未知数だとしても、少なくとも米国が世界の頂点に君臨する国際社会の枠組みが変わっていくことを期待している国がそれなりに存在していると言えよう。

新通貨創設と脱米ドル決済の行方

 特に国際社会が注目しているのは、BRICS諸国がどの程度本気で、BRICS通貨・R5の創設を検討しているのか、そしてそれが実現可能なのか、ということだろう。R5とは、BRICSに加盟する5カ国の通貨、すなわち、レアル、ルーブル、ルピー、RMB、ランドのそれぞれの頭文字「R」から名付けられた共通通貨で、五カ国通貨のバスケット構造だ。国際通貨基金(IMF)が加盟国の準備資産を補完するために創設した特別引き出し権(SDR)の仕組みを踏襲している。たとえば、人民元が40%、ルピーが25%、ルーブル、レアルが15%、ランドが5%と言った具合にバスケットが構成され、1R5=1SDRに換算される。

 元BRICS銀行副総裁のブラジル人エコノミスト、ポール・バティスタ氏が8月19日にヨハネスブルグで開催されたBRICS統治人文交流フォーラムで発言したところによれば、2022年に新共同通貨のアイデアを提言したのはロシアで、現状、まだ萌芽の段階だという。まず、第一段階として、BRICS新開発銀行(NDB)とBRICS緊急時外貨準備金基金(CRA)の内部会計で米ドルに置き換えるほか、一部政府取引と公式会計記録の評価単位として使用されなければならないが、これは5カ国が合意すれば比較的単純に実施されるという。さらに、金や石油などコモディティをR5の裏付けにするという考えもある。

 発行と流通の責任をどこにおくのか、そして紙幣を発行するのかデジタル通貨にするのか、BRICS中央銀行のような機関を設立する必要があるのか…。そういったことを考え始めると、構想はあまりにも漠然としすぎており、ナンセンスにも思えるが、中国が人民元を国際化させる戦略とリンクさせようとした場合には、まんざらあり得ない話でもないような気もしてくる。

BRICS2023サミットの様子 (c) wikimediacommons

 R5の創設はともかく、脱米ドル決済の動きはBRICS内外で広がっている。実際、米ドルを介さない現地通貨同士の貿易額も増えており、中国は人民元でロシアの原材料の大部分を購入しており、ブラジルもそれに追随している。もっとも、人民元自体が、今は事実上、ドルにペッグされているからこそ、信用を保てているという側面もある。

 注目すべきはBRICSがコモディティ大国の集まりだということだ。新メンバーをみると、サウジアラビア、イラン、そしてUAEと、世界の石油埋蔵量大国が顔を並べている。目下、金の産出量が最も多いのは中国であり、二位がロシア(オーストラリアと同位)、そして南アフリカが8位と、金産出国トップ10のうち3カ国がBRICSメンバーだ。

 BRICSに当初から加盟していた5カ国の人口を合計すると30億人に上り、世界の4割を占める。これに、新加盟国の人口を合わせると世界人口の47%近くに上るが、G7諸国の人口は世界の人口の1割に満たない。

 一方、GDPで見ると、G7は世界のGDPの47%を占めているが、BRICSのGDPは、新加盟国を含めても30兆ドル弱と、世界のGDPの3割に満たない。とはいえ、BRICSのポテンシャルについては、やはりあまり軽んじない方が良さそうだ。

 もっとも、BRICS加盟国は、新メンバーも含め、イランとロシア以外は、米国をはじめ西側諸国との二国間関係も重視しており、米国陣営に対抗するグローバルサウスチーム、という対立構造にはならないだろう、という見方もある。米大統領の安全保障顧問を務めるジェイク・サリバン氏も、「BRICSは、米国をはじめ、その他いかなる西側諸国にとっても、地政学的にはライバルになり得ない」と、コメントしている。

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