BRICSサミットで浮き彫りになった脱米国一極体制の動き
世界の多極化を推進するリーダーシップを振るうのは中国かインドか

  • 2023/9/7

習近平国家主席が開幕イベントを急きょ欠席

 ここで問題になるのは、BRICSの主導者は誰になるのか、という点だ。ロシアはすでに戦争で国力を消耗しているうえ、プーチン大統領は戦争犯罪人として国際裁判所に指名手配されているため、今回のサミットには出席できずテレビ電話で参加した。そうなると、普通に考えれば、BRICSのリーダーは中国ということになる。実際、今回のBRICSサミットの主役は、習近平国家主席だったはずだ。

プーチン大統領は今回のBRICSサミットにオンラインで参加した (c)Kremlin.ru /wikimediacommons

 だが、はたしてその習近平氏は、今回のサミットで主役として十二分に存在感を発揮できただろうか。彼は、21日夜にヨハネスブルグ入りしたが、22日に開かれた開幕イベントのビジネス会合はドタキャンし、予定されていたスピーチは王文濤商務相が代読した。

  この欠席の理由は明らかにされていない。健康上の問題とも言われる一方、政変のようなのっぴきならない事件が中国国内で発生し、対応のために習氏は欠席せざるを得なかった、という噂も流れた。致し方ない理由があったにせよ、ホスト国である南アフリカのラマポーザ大統領にしてみればメンツをつぶされた格好になった。実際、23日に開かれたサミットでは、習氏の扱いが若干、雑にされた印象があった。たとえば、習氏が会場に入場する際、同行の官僚が会場の保安員に遮られる一幕があり、通訳を伴わずに一人で入場した習氏が不安そうに呆然とする様子がメディアのカメラに映された。

南アフリカのヨハネスブルグで開かれたBRICSサミットのビジネスフォーラムで演説する インドのモディ首相(2023年8月22日撮影)(c) Government of India / wikimediacommons

 ここで注目されるのが、インドのモディ首相だ。彼は当初、中国より低めに扱われていた。南ア地元紙の報道を信じるならば、習氏が南アに到着した時には、ラマポーザ大統領が自ら空港に出向いたのに対し、モディが22日に到着した時、ラマポーザ大統領は習氏の相手に付きっ切りで、出迎えに行かなかったためにモディ首相は激怒したという。それが、習氏がビジネス会合をドタキャンし、ラマポーザ大統領の面子をつぶしたことから、サミットではモディ首相に対するラマポーザ大統領の対応が、見違えるほど丁重になったという。また、BRICSの加盟国を拡大する問題についても、以前より積極的だった中ロと違い、消極的な姿勢を崩さなかったインドが今回のサミットで態度を変えて新メンバーの加盟が実現したことで、BRICS諸国のキーマンはインドであると内外に印象付けることとなった。

人口、経済、そして外交面でカギを握るインド

 BRICSのリーダーは、どの国か。加盟国内で一番の金持ち、ということであれば、目下、中国であることは間違いない。しかも、金払いはいい。習近平国家主席は24日のBRICS+フォーラムの場で、2021年に開始した経済・社会開発促進プログラムの「世界開発イニシアチブ(GDI)」に向けて、中国の金融機関が間もなく100億ドルの特別基金を立ち上げることを明らかにした。しかし、この大盤振る舞いには中国内で強い不満の声が上がっている。

 例えば、「中国は今、不動産市場の救済に失敗し、大企業のデフォルト危機が相次いでいる。消費と輸出が落ち込み、若者の失業率が深刻で、外資が逃げ出し、地方財政が破綻しかかっている。さらに、華北東北部の大水害により、人民はまだ塗炭の苦しみの中にあるにも関わらず、十分な救済措置はとられていないのに、国内経済や人民の暮らしを顧みずに途上国に大盤振る舞いするのか」といった具合だ。ネット上には、「(習氏が)外国に大金を振りまくのは、国家のためなどではなく、自分のコンプレックスや存在感を補おうとしているにすぎない」「60年前に大飢饉が発生した時も、(当時の毛沢東国家主席は)国内で数千万人の餓死者が出ているにも関わらず、アジアやアフリカ、ラテンアメリカに大量の支援をして『乞食の親分』になることを選んだ。今回も同じことが繰り返されようとしている」という書き込みも見られる。国内経済や国民生活を軽視する現在の習氏の路線が続けば、BRICS一番の金持ちで、大盤振る舞いの金主としての地位をいつまで維持できるかは分からない。

 その一方で、インドの経済成長率は主要国の中でも随一であるうえ、人口もすでに中国を超えている。経済成長は初期段階にあり、世界的に経済が減速しつつある今日、成長拡大が最も期待されている国だと言っても過言ではない。世界で四番目に探査機の月面着陸を成功させた技術力もある。さらに、米国とロシア双方に交渉と協力の余地を有しており、80~90年代の中国に近い活力を感じる人も多いだろう。

 BRICSに新たな国際秩序を構築し、世界の多極化を推進するポテンシャルがあるとするなら、それを引き出すリーダーシップをふるうのは習氏が率いる中国とは限らない。むしろ、カギを握るのはインドであるように思われる。

 

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