「B3W」は「一帯一路」の野望を阻むのか
世界の覇権を巡る米中対立の新局面を読む

  • 2021/6/28

 米中の対立は、第5世代移動通信システム(5G)競争、貿易戦争からワクチン外交戦争と来て、「B3W」(Build Back Better World=よりよい世界の回復)対「一帯一路」という、世界を巻き込む闘いへとエスカレートしている。世界保健機関(WHO)への拠出金を復活し、国際機関への回帰姿勢を打ち出すことで世界のリーダーの地位に返り咲こうとしているバイデン米大統領は6月中旬、英国コーンウォールで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)でB3W計画を大々的に打ち出した。はたしてこの計画は、すでに140カ国のパートナーを確保した中国の一帯一路の野望を阻む一打となるのか。

英国コーンウェルで開かれたG7サミットの最終日にスピーチするバイデン米大統領(2021年6月13日撮影)(c) AFP/アフロ

G7サミットで議論

 そもそも、B3Wとはどのようなプロジェクトなのか。華人の間では、「一帯一路の民主主義国家版」というのがもっぱらの評判だ。途上国へのインフラ建設融資を通じて中華秩序圏や中華的価値観を拡大するのが中国の一帯一路戦略だとしたら、B3Wは、米国と民主主義国家パートナー諸国による途上国へのインフラ建設支援を通じた普遍的価値観の拡大だと言えるからだ。
 B3Wは、G7サミットでも主要な議題の一つだった。外務省による共同コミュニケ「より良い回復(Build Back Better)のためのグローバルな行動に向けた我々の共通のアジェンダ」の仮訳の中では、67に相当する箇所がその合意部分だと言える。
 「我々は、共通の価値とビジョンを反映して開発途上国とのパートナーシップを強化し、開発途上国のインフラのニーズが満たされるよう支援するためのインフラ資金、とりわけ質の高いインフラ及び投資に対するアプローチの変革を目指す」「このパートナーシップは、気候変動の影響に対処するための強靭なインフラ及び技術、保健システム及び健康安全保障、デジタル・ソリューションの開発、ジェンダー平等の推進、そして教育など、途上国が直面しているさまざまな課題に開発資金ツールを振り向けるものとなるだろう」という表現で、途上国のインフラ建設と西側の価値観の浸透をセットで進めることを謳っている。
 また、その原則として掲げられているのが、①価値誘導型ビジョン、②集中的な協同、③民間部門の資本、専門性を動員した官民にまたがる市場主導性、④環境、社会、財政、労働、ガバナンス、透明性、債務持続可能性などの強力な基準、⑤多国間ファイナンスの強化、⑥戦略的パートナーシップとしての位置付け、の6点だ。

狙いは西側の価値観の浸透

 このコミュニケの発表に先立ち、米ホワイトハウスは、B3Wのファクトシートを発表した。それによれば、B3Wとは「民主国家主導のハイレベルの基準をそなえ、価値観誘導的な透明性の高いインフラ建設のパートナー投資計画」であり、「途上国が必要としている40兆ドル超のインフラ建設を支援するもの」だという。米国をはじめ、G7諸国が40兆ドル全額を支援するのではなく、2035年までに中低所得国家に数千億ドルの投資を行うことで、それが媒介となって民間企業の投資が入ることを期待しているのだ。具体的にどのようなプロセスや手順で進められ、G7各国の負担が最終的にどれ位になるかはいまだ不明だが、秋までには具体的な報告が行えるようにタスクフォースが設置されることがG7サミットで決定された。

米中の対立は5G競争でも激化している (c) James Yarema / Unsplash

 B3Wは、単に中国の一帯一路戦略とビジネス上で競うのみならず、西側の価値観をいかに拡大していくかに重点が置かれている。G7の共同コミュニケのタイトルにある「Build Back Better」とは、新型コロナからのよりよい回復であると同時に、チャイナマネー汚染からのよりよい回復であり、すっかり中国に骨抜きにされてしまったWHOはじめ国連の国際機関のよりよい機能回復、ということでもあろう。そして、共同コミュニケ前文にある「自由で開かれた社会としての我々のゆるぎない理想」「民主主義、自由、平等、法の支配及び人権の尊重」という価値観の下でG7が団結し、インフラ建設投資の条件としてこの価値観を途上国に受け入れさせていく、ということでもある。

資金動員力と内政不干渉で優勢の中国

 客観的に見ると、B3Wの見通しはなかなか厳しい。一つは、米国も含め、新型コロナのパンデミックで疲弊した先進国が、途上国のために採算に合わないインフラ建設投資に本気で取り組めるのか、その資金はどこから調達するのか、という問題がある。そして、もう一つの問題は、民主、自由、平等、法治、人権や気候変動、ジェンダーといった西側の価値観が、途上国政府や支配層がそもそも本当に共感できるものかどうか、という点だ。

 一部の専門家は、この「B3W」対「一帯一路」の競争が、より多くの資金投入合戦に陥った場合、民意を無視して国家資金を投じて国有企業を動員できる中国の方が有利だと見ている。

資金投入合戦になった場合は中国の方が有利だという見方もある (c) Andreas Felske /Unsplash

 米国シンクタンクの外交関係協会で研究員を務め、リポート『一帯一路が米国に及ぼす影響』の執筆陣の一人であるデビッド・サックスは、米政府系メディアのボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に応え、次のように解説している。

 「前トランプ政権は、チャイナマネーを受け取るな、チャイナマネーはひどい、と言い続けてきたが、それに代わる代替案は出してこなかった」「中国は、途上国の巨大なインフラ建設融資に応えようとした唯一の国家だった」「全世界に重大なインフラ建設の空白があり、今回、G7はこの空白を埋める協力すると約束した」「だが、このプロジェクトの欠陥は、資金源が明確にされていないことだ」「米国政府は、このプロジェクトのためにすでに追加資金を提供すると議会に示しているが、もっと多くの財源がない限り、一帯一路に対抗できるものにはなり得ない」

 金融情報データ企業のリフィニティブのデータによれば、昨年、一帯一路関連の2600プロジェクトに投じられた資金は3.7兆ドルに上るという。中国外交部は昨年6月、2割のプロジェクトが新型コロナウイルスの影響を受けたと発表したが、それでもこの規模を維持しているのが実態だ。これについて、バイデン米大統領が「G7のパートナーが協力し合えばなんとかなる」とでも思っているのであれば、見通しは甘いと言わざるを得ない。

 さらにVOAは、香港のオンラインニュースであるアジアタイムスの6月14日付記事を引用する形で、「B3Wが資金を提供する時に、人権や気候変動、腐敗、法治などの条件が付くのは、一つの問題だ」「はたして途上国はこのような内政干渉的な条件とセットになった融資計画を選択するだろうか。むしろ、手続きが簡単で条件のない中国の一帯一路を通じた融資を継続して求めるのではないか」という意見を紹介している。

ミャンマーでは2月1日にクーデターが起き、軍が全権を握った (c) Andrew PaKip / Pexels

 民主主義を確立していない途上国は、少なくない。国民が民主主義を求めても、ミャンマーのように、政権を握った支配層が独裁体制である場合も多い。また、中東やアフリカのように、部族社会の延長線上にあるような独裁政権国家にとっては、人権問題や腐敗、汚職に口を挟まず、内政不干渉の原則に徹する中国の審査のゆるい融資ほどありがたいものはない。たとえ債務不履行となってプロジェクトがとん挫しても、一部の支配層は十分に懐を膨らませることができるからだ。

 このような途上国世界における融資合戦や投資合戦の勝負になった場合、税金の使い道により厳しい目が向けられる民主主義国家の方が不利だと言わざるを得ない。

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