ラテンアメリカの「今」を届ける 第2回
4年後の「コロンビア和平」と、コロナ禍で拡大する麻薬組織
- 2020/8/13
2016年に世界的なニュースとなった、左派ゲリラ・コロンビア革命軍(以下、FARC)とコロンビア政府の和平合意から4年が経つ。52年に及んだ両者の争いが終わり、コロンビアに平和が訪れるはずだった。だが、今も農村では麻薬を資金源とする武装組織が活動し、地域の指導者らを迫害することで、住民を支配しようとしている。犠牲者は年間200人以上。さらに今、組織はコロナ禍を利用し、支配を強化・拡大している。
農村を支配する麻薬組織の「規則」と「罰」
4月26日、コロンビア南西部カウカ県で、民間人3人が非合法武装組織に殺害された。そこは政府の支配が脆弱なため、武装組織が侵入し、独自の「規則」を「コロナ拡散予防」を名目に、住民に強いていた。殺害は、「規則」を破ったことへの処罰だった。同国最大の非合法武装組織である民族解放軍(ELN)も、「道路の全面封鎖」「夜間外出禁止(20時〜6時)」「イベント・集会の禁止」など、罰則をともなう8項目の禁止事項を住民に強制し、従わない者には「死刑」も課している。
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、コロンビアで初めてコロナ感染者が確認された3月以降、全国32県のうち11県で、住民に「コロナ対策」として独自の規則を強制する複数の組織の存在と、組織による市民への暴力が確認された。
全国紙「El Espectador」は、この背景には麻薬を資金源とする武装組織同士の、資金源を巡る領土争いがあると指摘する。組織はコロナ禍という不安定な状況を利用し、支配地域で司法、徴税など国に代わる権限を強め、地盤を固めようとしている。
武装組織の目的は、何か。その背景と経緯を追う。
終わらない戦争と、暗殺される地域指導者たち
2016年の「和平合意」は、特に、長年、戦争の渦中にあった農村の人々に希望を与えた。しかし、その思いは、間もなく裏切られることになる。
最大で国土の3分の1を実効支配したとされるFARCの主な資金源は、活動地での麻薬密輸に関連していた。「和平」で武装組織としてのFARCが消滅し、広い地域が支配者不在の「空白地」となり、麻薬産業が残った。この利権を巡り、他の組織が「空白地」に侵入した。地域指導者や社会活動家が殺害された場所の多くが、旧FARC活動地域と重なる。
なぜ、地域指導者や社会活動家が狙われるのか?
治安が悪化する太平洋沿岸地域で人権擁護のために活動するドラ・バルガスさんは、「武装組織にとって邪魔な住民を排除し、地域を活動しやすい状態にコントロールするのが目的」だと話す。
「武装組織は、資金源を確保するため、麻薬の密輸ルートや生産地を支配する必要があります。彼らにとって、住民の権利を主張する指導者たちは、邪魔な存在です。住民の声を代弁できる指導者をひとり殺害することで、小さな社会で生きる人々から希望を奪い、恐怖による沈黙を強いるのです」
2017年以降、全国で毎年200人以上の地域指導者、社会活動家が暗殺されている。2019年は279人、今年は7月までに171人以上が殺害されている。