過激化するドイツの環境活動家たち
気候変動の悪化と緑の党の現実路線に募る苛立ち

  • 2023/2/28

 気候変動による被害が世界で深刻化している。しかもドイツでは、ウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機によって二酸化炭素排出量が増加してしまった。こうした状況に環境活動家の不満が高まり、デモ活動も過激化。政権入りしている環境政党に対する不信感が高まっている。

リュッツェラート村の褐炭採掘を阻止ししようとする活動家と警察の対立の様子 ©︎Lützi Lebt / CC BY-SA 4.0 (via Wikimedia Commons)

激化する抗議行動

 2022年10月、英ロンドンのナショナル・ギャラリーで、環境活動家がゴッホの代表作「ひまわり」にトマトスープをかけて逮捕される事件が起きた。ヨーロッパでは、環境活動家が「地球や人々の命を守ることと絵画のどちらが大切なのか」と主張しながら、著名な絵画を次々と破壊・損壊する事件が後を絶たず、世界中を唖然とさせている。

 特にドイツでは、環境活動家「ラスト・ジェネレーション」のメンバーが2022年10月から11月にかけて、ミュンヘン周辺で強力な接着剤を用いて自らの身体を都市部の道路や滑走路に固定し、交通を妨害することを繰り返した。同団体は「深刻化する気候変動に対し、自分たちが破局を止めることができる最後の世代だ」という立場から、2021年以降、行動を過激化させている。政府に何らかの行動を起こすよう求めて起こした事件は、2022年だけで250件を上回り、「市民にデモをする権利があるのはもちろんだが、気候変動への抗議活動をどの程度行えるのかという議論が起きていた。

 ウクライナ侵攻以降のエネルギー危機によって天然ガスの輸入量が激減したドイツでは、石炭、特に二酸化炭素の排出が多い褐炭による発電が増えた。閉鎖されていた複数の石炭火力発電所も2022年に再稼働され、同年、石炭による発電量は、全体の3割以上を記録した。

 皮肉なことに、ドイツの温室効果ガスの排出量が増加したのは、2021年12月に環境政党「緑の党」が連立政権入りを果たした後であるため、そんな状況を許してしまった緑の党に対し、環境活動家は幻滅しているのだ。ドイツでは今、緑の党と、草の根の活動家との間に亀裂が生じている。

対立を決定付けた褐炭採掘

 この対立構図は、ドイツ西部のリュッツェラート村で2023年1月中旬、環境活動家と警察が衝突したことにより決定的になった。

 褐炭の産出国であるドイツでは、採掘のためにこれまで300ほどの村が立ち退きと消滅を強いられてきた。同村も欧州最大規模の露天掘り褐炭炭鉱に隣接しており、地下には褐炭が埋まっている。その採掘計画が2020年に発表されると、環境活動家らは「ドイツが2030年までに温室効果ガスを65%削減し、2045年までに温室効果ガスの排出量をゼロにするという目標を達成するためには褐炭を掘るべきではない」と、強く反発してきた。褐炭は硬質の石炭以上にCO2の排出量が多く、環境への影響が大きいためだ。なかには無人になった村に小屋を建てて住み込み、見張り続けてきたグループもいた。

 しかし、訴えは届かず、2022年12月に村の取り壊しが決定されたため、翌1月14日、「未来のための金曜日」や「グリーンピース」など、採掘に反対する数十の環境グループが集まって大々的な抗議活動に踏み切ったのだ。参加者は、環境団体側の発表によれば3万5000人、警察の発表でも1万人を超えた。スウェーデンの著名な活動家のグレタ・トゥーンベリ氏や、ドイツで最も有名な環境活動家のルイサ・ノイバウアー氏の姿もあった。

     (リュッツェラート村でのデモには、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏の姿もあった)

 この抗議活動では、エネルギー政策を管轄し、リュッツェラート村の採掘計画を許容した緑の党も標的の一つに入っていた。

 強い反対の声を退けて計画が推進されたのは、緑の党が妥協した結果だと言われている。同党は脱石炭政策を掲げ、独エネルギー会社RWEが新たに褐炭を採掘できるエリアを大幅に削減することで、消滅予定だった5つの村の採掘計画を中止するとともに、炭鉱を擁するノルトライン=ヴェストファーレン州における石炭の採掘の中止も、予定されていた2038年から2030年に前倒しすることを約束し、環境派の支持を集めた。しかし、より人口が多い村を守るのと引き換えに、リュッツェラートに炭鉱を拡張することを許可してしまったのだ。

緑の党の連邦経済・気候保護大臣のロバート・ハーベック副首相(右)、ノルトライン=ヴェストファーレン州の経済産業、気候保護・エネルギー大臣モナ・ノイバウアー © Raimond Spekking / CC BY-SA 4.0 (via Wikimedia Commons)

 緑の党は連立内の第2党に過ぎず、すべてを自ら決められるわけではない。実際、第3党は産業界を支持層とする保守系のドイツ自由民主党(FDP)であり、政権として事業者の声を無視することは不可能であるための折衷案だったが、褐炭採掘とその利用は気候変動を推進しかねないため、非難を浴びているのだ。

 もともと反原発運動という草の根の環境運動から生まれ、今日の若い活動家らと同じ立場からスタートした緑の党だが、結成から30〜40年が経った今、現実の中で少しでも環境保護政策の進展を目指す中道政党になった。当初掲げていた理想主義からの方針転換と、政権入り後に妥協が続き、思うように成果を出せていないことから、活動家の信頼が崩れ、相容れなくなっているように思われる。

200人が負傷した大規模デモ

 1月半ば、リュッツェラートからの立ち退きを拒否した活動家グループは、バリケードを作って村を死守しようとした。数日にわたり睨み合いが続いた後、警察は催涙スプレーと警棒を用いて強制排除に踏み切り、泥まみれになって激しい乱闘を繰り広げた。抗議運動が続いた間、毎日約3700人の警察官が完全装備で出動し、両者合わせて約200人が負傷したという。

  (1月半ばにリュッツェラートで起きた抗議活動と、それを押さえつけようとする警察の様子)

 ここまで激しい対立は、以前、トゥーンベリ氏の主導により世界に広まった学校ストライキ「フライデー・フォー・フューチャー」のアプローチとは一線を画している。同運動を率いた若者らは、政策立案者に対してあくまで平和的に気候変動対策を求めていた。今回のリュッツェラート村の採掘を巡っても、当初はドイツ経済研究所DIWや国内の大学で行われた研究結果や著名な専門家の発言を引用し、「自然エネルギーの不足分を補うためには既存の石炭と炭鉱で十分だ」と、根拠を示して主張してきた。抗議運動も、ほとんどの参加者たちは近隣の村からリュッツェラートに平和的に行進しながら計画の中止を訴えていたが、聞き入れられることはなかった。
 1月17日、ついに一部のメンバーが、安全上の理由から足を踏み入れることを禁じられていた鉱山に侵入し、採掘場の泥質の斜面に上ったために警察により拘束された。その中にトゥーンベリ氏の姿もあったため衝撃は大きく、未来のために真摯に活動してきた著名なアクティビストらを警察が拘束する様子は、強権的な印象を与えた。

      (デモに参加したトゥーンベリ氏が警察に拘束される様子は世界中で報道された)

 近年、ドイツでは、活動家の要望に沿った気候政策を掲げる「気候リスト」という独立政党が発足した。同党は各地の市町村レベルの選挙に候補者を擁立し、わずかながら議席を確保しつつある。

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