バイデン次期米大統領の対外援助政策を読む
「米国による平和」の復活なるか

  • 2020/12/14

 米国で2021年1月の新政権発足をにらんだ政権移行が本格始動し、米国の対外援助政策の行方に注目が集まっている。米国第一主義を掲げ対外援助を軽視してきたドナルド・トランプ大統領とは対照的に、経済支援を通じた「米国による平和」の復活と維持を掲げる民主党のジョー・バイデン次期大統領は、国際協調と多国間の枠組みに基づきコロナ禍で緊急性が増す医療分野や気候変動の支援を拡大すると同時に、途上国における女性の地位向上も打ち出している。特に、中南米諸国に対する支援拡大は、経済社会の改善を通じてこれらの国々から米国に不法移民が流入する原因を元から断ち、トランプ政権との差別化を図りたいバイデン氏の意志の表れと言えよう。

「米国による平和」の復活と維持を掲げるジョー・バイデン次期大統領 ©バイデン氏Facebookより

外交の中心に据えられる対外協力

 バイデン氏の側近中の側近で、次期国務長官に指名されたアンソニー・ブリンケン元国務副長官(米議会の承認待ち)は今年5月、オンラインイベントに登壇し、「(バイデン大統領候補が当選した暁には)再び対外援助を米国の外交政策の中心に据え、外交や民主主義、開発協力を推進していくだろう」と述べた。「途上国の発展と安定こそが米国の国際的な利益を増大する」というバイデン氏の考え方を端的に示す発言だ。

 バイデン次期大統領の公式ホームページでも、「米国の内政と外交政策は深く結びついている」「米国が最重要課題について再び国際社会をリードできるよう、米国内の民主主義を立て直すとともに、同盟関係を新たにすることによって米国社会の安全と繁栄と価値観を保障する」と謳われており、対外援助はその文脈上、非常に重視されている。

 米上院外交委員会の委員長を務めたり、オバマ前政権時代に副大統領として対外援助に携わったりしたバイデン次期大統領は、開発協力への理解が深いと言われている。米国際開発庁(USAID)で四半世紀近く勤務し、現在は国際協力非政府組織(NGO)のインターナショナル・ユース財団で最高経営責任者(CEO)を務めるスーザン・ライシュル氏は、「バイデン氏は開発に関して最も深い知識がある一人だ」と絶賛する。

バイデン次期大統領は対外援助を外交の重要な施策に位置付けている © バイデン氏Facebookより

 トランプ大統領も、対外援助を全否定していたわけではない。しかし、短期的に成果が上がる案件を優先し、たとえば難民支援のように中長期的に地道に取り組むべき人的支援は軽視する傾向にあった。会計年度ごとに予算を前年比20%ずつ削減しようしては、対外援助を安全保障の一部だと考える共和党主流派や民主党から押し戻されることを繰り返し、つい最近も、2021会計年度の予算を前年の557億ドルから441億ドルに削減しようとして、党派を超えて団結した米議会によって否決された。

 こうした経緯を踏まえれば、バイデン次期大統領が開発や人道援助を外交の前面に押し出すことで超党派からの支持を得て、氏のレガシー(功績)の一つにすることは容易に想像できる。有力シンクタンクである米ブルッキングズ研究所のジョージ・イングラム上席研究員も、「バイデン次期大統領の下で国際機関やNGOとの連携が進むだろう」と予想する。今後は、トランプ政権下で縮小されていた国務省や国際開発庁の権限が復活され、米国家安全保障会議(NSC)における国際開発庁の発言力が増大していくのではないか。同時に、世界銀行をはじめ、アジア、米州、アフリカなど、各地域の国際開発金融機関への存在感を高め、対外援助法の改正にも取り組んでいくと期待される。

米国が対外協力の第一線に戻ってきたと喜ぶ声は大きい© Darren Patterson / Pexels

 一般国民の関心はまだ低いものの、米メディアや外交関係者らは「米国は対外協力の第一線に戻って来た」と、一様に歓迎ムードに包まれている。

気候変動に重点で対中牽制

 国際協調と多国間の枠組みにのっとり対外援助に理解を示す共和党主流派と超党派の立場から政策を推進したいバイデン次期政権が特に重視しているのが、気候変動対策だ。

 バイデン氏は、大統領に就任したらすぐに、トランプ大統領が離脱した気候変動に関する国際的枠組みであるパリ協定に復帰することを表明している。対外援助についても、化石燃料を大量に消費する事業への支援は制限し、クリーンなエネルギーの使用を促進する事業予算を増額するとみられる。

バイデン氏はトランプ大統領が離脱したパリ協定への復帰を表明している © Markus Spiske / Pexels

特に、米国際開発金融公社の融 資事業には、商品やサービスの原材料を調達する段階から廃棄・リサイクルに至るまで、ライフサイクル全体で排出される温室効果ガスの総量をCO2に換算し、数値の削減を求めるという。

石炭火力発電事業への融資の打ち切りが報じられている© Pixabay

 一方、気候変動問題の専門ニュースサイト「クライメート・ホーム・ニュース」は、このようなバイデン氏の環境政策が、化石燃料を大量に消費する事業にも積極的にファイナンスする中国の一帯一路政策を牽制する意味を持つことになるとの見方を示す。実際、中国の習近平国家主席は11月、オンラインで開催されたアジア太平洋経済協力(APEC)対話に参加し、「質の高い一帯一路政策を推進しながら環境に配慮したグリーンな経済協力を強化していく」と明言した。米国に対抗する上で、中国は言行を一致させることが避けられないだろう。

バイデン氏の環境政策が中国の一帯一路の牽制につながるとの見方もある ©Pixabay

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