エチオピアの飢える民衆に届かなかった食糧援助
配給プロセスのコントロールがウクライナ支援継続のカギ

  • 2023/7/14

 1億2000万人という、アフリカ第二の人口規模を誇るエチオピアで干ばつと内戦のために食糧が緊急に必要となっている中、米国や日本が支援した食糧の大半が政府高官や省庁によって組織的に横領され、民衆に届いていないことが発覚した。事態を重く見た米国と、現地で食糧配給を担う国連世界食糧計画(WFP)は、3月から食糧援助を一時停止。エチオピア政府を配布の委託先から外すという異例の措置に出た。しかし、政府の腐敗を狙い撃ちにしたはずが食糧不足の悪化を招き、これまでに子どもを含む700人以上が亡くなり、死者は今後、さらに増えると見られている。

 同様の不正が2000年代にソマリアやリベリアで起きた際、国際社会は国連機関や現地政府に配布を丸投げすべきではないという教訓を得たはずだった。にも関わらず、米国の不手際により悲劇が再発したことに対して批判が高まっている。さらなる悲劇を防ぐために何が必要なのか。米国の論調をもとに読み解く。

内戦が続いたエチオピア北部ティグレ州では飢饉が続き、国際社会の食糧援助が不可欠となっている。写真は国連世界食糧計画(WFP)の援助物資を受け取ったアスゲデの家族 (c) WFP/ Claire Nevill / United Nations News / Twitter

子どもの死者が続出、成人は一日一食

 エチオピアの現状は、悲惨だ。同国では、2022年11月に停戦が発効するまで、およそ2年にわたり、北部を拠点とする少数民族ティグライの勢力と政府軍との間で戦闘が続いていた。国連の報告によれば、これまでに60万人が亡くなり、260万人以上が家を追われ、2000万人が国外からの食糧援助に依存するなど、深刻な人道危機に陥っているという。

長引く内戦によってエチオピアの食糧安全保障は脅かされている (c) Michael Tewelde / WFP

 停戦を機に米国をはじめ援助国からの支援が行き渡り、食糧危機が解決に向かうと期待されていたのだが、現実は逆になっている。

 北部ティグレ(ティグライ)州に住むエチオピア正教会の聖職者テスファ・キロス・メレスファ氏は、6月に現地入りした米AP通信の記者に「家々を巡って食糧を恵んでほしいと頼んでいる」と、打ち明けた。生活に必要な穀物や食料油がどこに行っても入手できないのだという。

 内戦で家を失い、現在は数百人の避難民とともに学校の敷地内で暮らすメレスファ氏は、日に何回、食事をとれているかと問われ、「その質問は冗談だろう。一日中、何も食べられないまま床に入ることも珍しくない」と答え、「この苦難は言葉では言い表せない」と語った。

 また、同じように戦闘で住居を追われたベルハネ・ハイレ氏も、「一食でも食べられた日は幸運だ」と、述べている。

 ティグレ州災害リスク管理委員会のゲブレヒウォット・ゲブレグジアヘール委員長によれば、3月に食糧の配布が停止されて以降、州内の7つ区のうち3つの区で合計728人が亡くなったという。このうち、北西部の死者は350人に上る。

 また、ティグレ州都にあるメケレ大学が行った調査によれば、州内に7カ所ある難民キャンプで165人の餓死者が確認された。大半は、子どもやお年寄り、持病を抱えた人々だという。エチオピアは現在、収穫期が終わって農閑期に入っているため、事態の悪化が懸念される。

市場で発見された「あるはずのない」小麦

 しかし、今回の飢餓は、単純な食糧不足というよりも、人為的な要因に起因する側面が大きい。エチオピアにとって最大の援助国である米国は、同国政府との同盟関係を重視しており、2022年度には1年間で15億ドル(約2171億円)相当の援助を実施した。このうち10億ドル以上が食糧支援だった。この時期、他の援助国も同じように莫大な量の食糧をエチオピアに送った。

 ところが、米国際開発庁(USAID)の5月3日付文書によれば、ティグレ州シレの町の市場で、そこにあるはずのないUSAIDのロゴや米国旗がついた2000トン相当の小麦が販売されていることが確認されたという。これは、13万4000人が1カ月に消費する小麦に相当する量だ。州内の他の地域でも、同様の例が多く明らかになったという。

エチオピア北部に到着したWFPの支援食糧 (c) WFP / Claire Nevill

 また、フランスや日本、ウクライナからの支援食糧も、WFPを通じて現地の人々に配給されているはずが、同様に現地の市場や製粉工場などで発見されている。

 これは、本来、食糧の配布を担当すべきエチオピア政府の内部者が、利益を得るために市場に横流ししており、家を追われた人々や子ども、お年寄り、持病を持つ人など、食糧を最も必要としている人々に届けていないことを物語っている。

 また、米国をはじめ、援助国が現地での配給を委託するWFPは、町の中心まで食糧を運んで放置するため、北から侵入してくるエリトリア軍に略奪されることも多いという。

織り込み済みだった「損失」

 AP通信が入手した人道支援団体の内部文書によれば、今回、エチオピアで起きた食糧の横流しには、中央政府と地方政府が組織的に関与しており、特にエチオピア国軍が恩恵を受けているという。ある米政府高官は、ニューヨーク・タイムズ紙の取材に答え、「食糧の窃盗が一大産業規模で行われている」と明らかにした。

 エチオピアは「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ北東部に位置しており、同国が不安定化することは、東アフリカ全体の安全保障の悪化につながる。これこそが、米国が同盟国エチオピアとの関係を良好に保ちたい動機である (c) Map.Ethiopia / Twitter

 具体的には、人々に配給された食糧を役人が取り上げて製粉工場に送っているケースもあれば、WFPに提出された住民の名簿に架空の人物が含まれ、水増しされているケースも明らかになった。人数の水増しは、エチオピア全土で見られる手口だという。いずれのケースも、飢える人々のために送られた食糧が真の弱者に届いていないのは、明らかだ。

 人道支援団体は、政府高官によるこのような腐敗を歴史的に見逃してきた。ある程度の「損失」は織り込み済みというわけだ。WFPの東アフリカ地域担当責任者、マイケル・ダンフォード氏は、「食糧の配布で至らない面があった」と認める。その上でダンフォード氏は、「配給を実質的に担当してきたのはエチオピア政府である(ため、確認が困難だった)」と語る。

 また、米国USAIDも、配布作業のほとんどをWFPに委託していたため、直接の確認を行っていなかった。内戦中はティグレ州に足を踏み入れることができなかったという事情もある。

 さらに、大国が絡む地政学的な要因も大きい。エチオピアは、「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ北東部に位置しており、同国が不安定化すれば東アフリカ全体の安全保障が悪化するため、米国には同盟国エチオピアとの関係を良好に保ちたいという思惑がある。アビー・アハメド・アリ首相率いる中央政府による組織的な横流しの不正が明らかになってもなお、直接的に強く批判しないのは、そのためだ。結果として、腐敗の根源的な責任を問わない形になっている。最大援助国の米国やWFPによる何重もの「見逃し」が積み重なった結果、組織的で制御不能の食糧窃盗や不正が助長されることになった。

 他方、ウクライナへの巨額の軍事支援について国民からの批判が高まっているバイデン政権にとって、エチオピアで横行する不正を感知してやめさせることができると証明することは、ウクライナ支援を続行するうえで不可欠であるとAP通信は分析している。これこそが、米国にとって、エチオピアにおける食糧横流しを止めさせなければならない最大の理由だと言えよう。

 食糧問題が、エチオピアの安全保障、ひいては東アフリカにおける米国の利益に直結している以上、支援スキームの見直しは待ったなしだ。餓死者が出ることを覚悟の上で米国が食糧援助をストップしたのは、地政学上の大局観に基づいているように思われる。

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