エチオピアの飢える民衆に届かなかった食糧援助
配給プロセスのコントロールがウクライナ支援継続のカギ

  • 2023/7/14

優先された地政学上の利益と「新冷戦」

 食糧援助の再開に向け、改革は急ピッチで進められている。WFPのダンフォード氏は、「援助物資をわれわれが受け取り、食糧を必要とする人々の手に渡ることを見届けるまで、配給のサプライチェーンに関するすべてのコントロールを取り戻す」と、明言した。

 そのためには、配給プロセスを第三者がリアルタイムで監視し、配布を受ける人の生体認証を導入するなど、テクノロジーによる検証が不可欠だ。すでに米国は、「エチオピア政府が受益者名簿の作成や食糧の運搬、倉庫の管理、配給などすべてのプロセスから外れ、最強のチェック体制が確立されるまでは援助を再開しない」と公言しており、外国からの食糧が再びエチオピアの人々に届くのは、7月以降になりそうだ。

USAIDから支援された高カロリーのビスケットをほおばる生後7カ月のナタン・ハイレイちゃん。 ティグレの州都メケレの高校に収容されている (c) Leul Kinfu / UNICEF

 援助食糧の流用や窃盗はソマリアやリベリアでも2000年代に多発しており、本来は入札で決定されるべきWFPの食糧輸送業者の間で事実上のカルテルが存在していることや、特定の一族が配給プロセスを管理していることなど、腐敗の温床となる事実も認知されて久しい。また、子どもや高齢者、病人など、弱者の中でも最も弱い者が食い物にされ得る構造も認識され、多くの報告書とともに勧告が行われてきた。

 にも関わらず、同様の過ちがエチオピアで繰り返された背景には、経験豊富なスタッフを軽視したり、実地調査を怠慢によって実施しなかったり、現地のパートナーシップが欠如していたりと、ソマリアやリベリアの教訓が生かされていなかったことが疑われる。

 ある意味、不正や濫用は起こるべくして起こる。今回、エチオピアで繰り返された援助の失敗は、米国が地政学上の利益を重視したあまり、現地の人々との関係性を二の次にしたために起こったと言えよう。この背景には、中国やロシアとの「新冷戦」を受けてエチオピアを地域同盟国に引き入れたい米国による不正の見逃しが大きいと見られる。

 あるUSAID高官は、匿名を条件に、AP通信に対して「今回の流用は近年において類を見ない、最大規模の窃盗だ」と語ったが、そうした空前の不正が白昼堂々まかり通ったのは、APが指摘するように「米政府高官たちが、ただでさえ緊張していたエチオピアとの関係の雪解けが進む中、エチオピア政府を公に非難できない」弱みを見透かされているからだ。

 中国やロシアに対する同盟へ地政学的に重要な国を引き込みたい米国の焦りは、守るべきルールや監視基準の妥協を招き、対象国において改善しようとする状況を悪化させている。しかし、民主主義国家が中国とロシアに効率的に対抗できるのは、腐敗に対するチェック水準の高さがもたらす回復・繁栄であるはずだ。

バイデン大統領は、空前規模の援助物資不正が起こることを許し、あまつさえその失敗を取り返すための対応で数百人規模の死者を出したサマンサ・パワーUSAID長官を即座に更迭して、より大局的な倫理観を持つ人物に事態の収拾を任せるべきだろう。

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