ベトナムで2カ月ぶりにロックダウンが段階的解除へ
都市圏のワクチン接種はフル稼働 経済回復がカギ 

  • 2021/10/13

約2カ月にわたって続いたホーチミン市の「強力な社会的隔離措置」は、10月1日から段階的に解除が始まった。第4波のデルタ株が猛威をふるい、大都市を中心に感染が広がったベトナム。区や市・省をまたぐ移動のほか、近所であっても厳しく外出を制限する事実上のロックダウンが実施された。市民活動がストップする一方で、都市部で優先的にワクチン接種を加速。状況をにらみながらの経済活動の再開、行動制限の緩和へと、歩を進めつつある。 

バリ封解除を待つ人たち (c) vnexpress (https://e.vnexpress.net/news/life/milk-of-human-kindness-saves-hcmc-migrants-from-hunger-thirst-4366129.html)

厳しい制限で親しい人との別れもできず
 最大都市ホーチミン市では、7月9日から市内全域で、外出制限を伴う最も厳しい「社会的隔離措置」(首相指示第16号)に踏み切った。感染拡大はその後もおさまらず、一時は1日あたりの感染者が1万人を超える時もあった。なかでも人口の1割を占める人たちが暮らすホーチミンでは、国内で感染率が最も高く、社会的隔離措置が再々延長された。
 全国レベルで見ると、10月6日現在、新規感染者数は4363人、累計感染者数は約82万3000人で、約2万人が亡くなっている。
 ロックダウン中の8月中旬、家族同然に付き合いのあった男性が新型コロナウイルスで亡くなった。筆者が暮らす借家の大家さんの親戚、ハイさんだ。アメリカに移住した大家さんファミリーに代わり、家の修繕やトラブル解決を率先してサポートしてくれていた。親戚一同が集まる食事会(という名の飲み会)や結婚式では、その人懐っこい笑顔で場を和ませてくれた。
 ハイさんは、コロナ患者の隔離施設へ食事や生活必需品を届ける仕事を担っていたそうだ。葬儀には、奥さんと2人の息子さんだけが参列を許され、ほかの親類や筆者のもとにはFacebookを通じて動画と画像が送られてきた。直接見送ることができなかったためか、ハイさんが亡くなったことを今も実感できずにいるが、同時に、連日公表される感染者数や死亡者数が、初めて実感と重みをもって迫ってきた出来事でもあった。

ハイさんの長男から送られてきた葬儀の画像。朗らかな笑顔に2度と会えないのは悲しい(筆者提供)

 冠婚葬祭はおろか、日々の通勤や買い物にも出られないという厳しい外出制限の中、市内の警備や緊急車両の誘導などに軍隊が投入された。見慣れた街並みのあちこちに有刺鉄線が張られ、軍用車両が待機し、装備に身を包んだ兵士が見慣れた街並みを行き交うさまは、まさに戦時下を思わせ、ものものしい雰囲気に満ちていた。
 その一方で、兵士らによる「買い物代行サービス」が話題になった。町内会のような、地域の小グループ単位で買い出しリストを取りまとめ、市場やスーパーマーケットで購入して配達するというものだ。注文を受け付ける電話ホットラインが設けられ、1日に300から500件の依頼が寄せられる区もあったが、食料品と医薬品の注文を優先し、迅速な対応にあたっていたという。民間の宅配業者も営業はしていたものの、ロックダウン下でドライバーの数が制限されていた上、医療関係の配達が優先され、一般市民が食料をオーダーしようとしても常にキャンセル待ちの状態だった。そうした中、軍隊による迅速な市民サービスは、社会主義国ベトナムならではの支援のあり方だと感心させられた。

スーパーの売り場で粉ミルクやシャンプーなどを見定める兵士たち (c) vnexpress (https://e.vnexpress.net/news/news/soldiers-go-grocery-shopping-for-residents-of-epicenter-hcmc-4346735.html)

封鎖解除に混乱も ”ニューノーマル”の課題

 9月末、ホーチミン市のロックダウンが段階的に緩和されることが通達され、10月1日未明には、市内に”足止め”されていた人たちが、郊外へ向かう国道のチェックポイントに続々と集まっていた。夫が待つメコンデルタへ向かうため、10時間もミニバスの車中で過ごしていたというフォンさんも、3人の子どもたちと出発を待ちわびていた。
 フォンさんは、「末っ子が未熟児だったため、ホーチミン市内で1年近く治療を受けていました。おかげで健康に育っていますが、生まれてからまだ祖父母にも会えていません」と話す。コロナ禍によって職を失い、故郷に戻るしか選択肢がないという。
 フォンさんのように、コロナ禍や、長期にわたるロックダウンの影響で職を失い、ホーチミンから故郷へ帰る出稼ぎ労働者が相次いでいる。大規模な工業団地を多数抱える郊外のビンズオン省やドンナイ省からの人材流出も顕著だという。チェックポイントをまたいだ移動にあたっては、PCR検査やワクチンの接種証明を提示するよう、政府が地元当局に呼びかけているが、移動希望者が膨れ上がる現場では徹底されていないのが現状のようだ。実際、10月1日以降に都市部から移動した人たちからすでに陽性者が確認されており、地方への感染拡大も懸念されている。
 今後、経済活動が本格的に再開した場合は、即戦力の確保も課題となるだろう。

メコンデルタの故郷・ティエンザン省へ向かうミニバスの発車を待つフォンさん(30歳)と子どもたち (c) vnexpress (https://e.vnexpress.net/news/life/milk-of-human-kindness-saves-hcmc-migrants-from-hunger-thirst-4366129.html)

 ベトナムでは、10月の封鎖解除を機に、”ニューノーマル ”(ベトナム語でbinh thuong moi)の徹底を図る方針だ。一例として、ホーチミン市でロックダウン期間中の外出に不可欠だった「通行許可証」が廃止され、アプリを使った感染対策が強化されようとしている。10月1日以降に市内を移動する際は、ワクチンの接種歴などの証明が必要となった。健康申告に関するアプリは、保健省や公安省、さらに各自治体単位で発行したものなどが複数存在しているため、現在、一元化を進めている。9月末には、ワクチン接種歴や地域別の感染状況を把握できる新しいアプリ「PC-Covid」が導入され、今後は同アプリで統一される見込みだ。
 ところが、これまでのロックダウンの反動か、市内移動の要件を満たしていない人たちの摘発が相次いだ。ホーチミン公安(警察)は、封鎖解除直後の4日間に、バイクや車など54万7000台、23万人強に対して検問を実施し、588件の違反を摘発。ワクチンの未接種や接種後14日間経っていないケースが120件に上り、罰金の総額は12億ドン(日本円で610万円)を超えたという。ニューノーマルが市民生活に普及し、徹底するには、まだまだ時間を要しそうだ。

感染対策を徹底した事業者を認証、安全を示すxanh(グリーン)のサインを掲げて営業再開する青果店 (c)tuoitre (https://tuoitre.vn/tung-buoc-binh-thuong-moi-20211001082210161.htm)

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