原子力発電は気候変動対策に必要か?EUのグリーン認定を考える
2050年までのカーボンニュートラル実現と脱ロシアのはざまで
- 2022/1/20
電気料金の高騰とジレンマ
このような事情から、ドイツが原子力と石炭による発電を停止するために推進してきたのが、CO2の排出が比較的少ないとされる天然ガスによる発電だ。しかし、天然ガスの供給元は強権的なロシアであり、大きな政治リスクを伴っている。
ドイツでは、2000年前後のシュレーダー政権(当時)の時代に、ロシアから天然ガスを移送するためにパイプラインの建設工事が進められたが、その後、ロシアはウクライナ侵攻などが原因で、米国やEUから経済制裁を受けることになる。2021年に完成したパイプライン「ノルド・ストリーム2」も、欧州諸国のロシアへの依存度を強めるものだとして米国やウクライナが強く反発しており、いまだ承認されていない。欧州諸国へのガス供給が不足し、電気料金が急騰しているのもこのためだ。ウクライナ情勢がさらに緊迫していることを鑑みると、ロシアからの天然ガスの輸入は不透明な状況にある。
GRAPHIC: Map of Europe with gas pipelines network including the Nord Stream 2, which Russian gas giant Gazprom says is now “fully completed” pic.twitter.com/IC62J1ZlA8
— AFP News Agency (@AFP) September 11, 2021
再生可能エネルギーの導入に補助金を支払っているドイツでは、もともと他の欧州諸国に比べて電気料金が高い。特に2021年は、インフレによって物価が3.1%も上昇(ドイツ統計局発表)した上、天然ガス価格の高騰によって電気料金が上がり続けている。「南ドイツ新聞」は、2021年夏から冬までの間に電気料金が25%上昇し、家計を圧迫していると報じている。
原子力とも石炭とも決別するために、ロシアからの天然ガスに依存しなければならないというジレンマを抱えるドイツ。産業連盟の試算によれば、原子力と石炭以外で電力をまかなうには、2030年までに300メガワット級のガス火力発電所を50基以上、新設する必要があるという。欧州最多の発行部数を誇るドイツのニュース週刊誌「シュピーゲル」は、今回のEUタクソノミー草案で天然ガスによる発電が原子力発電とともにグリーンエネルギーとして認定された背景として、このような事情を抱えるドイツへの配慮があったと指摘する。
2050年までにCO2の排出量と除去量を差し引きゼロにする「カーボンニュートラル」を達成するという気候変動対策を掲げるEUは、その目標ゆえに原発に依存する国と、ロシアが産出する天然ガスに依存する国を、双方、取り持つ必要があり、今回の草案はそのための明確な妥協案であった。この草案を食い止めるには、裁判所から無効判定が出されるか、27加盟国中20カ国がEU委員会で異議を表明する必要があり、可能性は非常に低いと見られている。
原子力発電も石炭火力発電も廃止するという目標に向け突き進むドイツだが、このまま電気料金も物価も上昇し続けるのは、一住民としては苦しいというのが本音だが、それはさておき、理想に向かって走るドイツの電力政策の行方をしばらく見守りたい。