ドイツで再燃する反ユダヤ主義とパレスチナ問題
ホロコーストという負の歴史ゆえの挑戦

  • 2021/6/15

ムスリム系にとどまらないヘイト行為

 その一方で、反ユダヤ主義の問題を引き起こしているのは、イスラム系住人ではなく、白人至上主義の極右過激派であることを示すデータもある。2020年にドイツ警察が把握している反ユダヤ主義的な事件は、2020年の1年間に2351件に上るが、うち95%が右翼過激派によるものだというのだ。
 これによると、イスラエルとガザの間で大きな戦闘があった2009年と2014年には、外国人が起こした反ユダヤ主義的な犯罪の件数が増えたものの、それ以外の年は、例年、ほぼ100件以下で推移している。ドイツが中東から約100万人の難民を受け入れた2015年以降も、外国人による反ユダヤ主義的なヘイト行為は特に増加していなかった。
 もっとも、こうした研究や統計は不十分で、実態が分からないという。すべての犯罪が報告されているわけではなく、加害者や動機が不明な犯罪は極右によるものとして振り分けられるためだ。

 とはいえ、ドイツの反ユダヤ主義対策委員会の委員を務めるフェリックス・クライン氏は、主にアラブ地域から流入した移民が反ユダヤ主義的な犯罪を起こしているという主張について、連邦議会できっぱりと否定した。クライン氏によれば、反ユダヤ主義的な態度は全人口の20~25%を占める人々に見られるという。同氏は「反ユダヤ主義と戦うことは、ドイツの民主主義を守るための戦いです」と述べ、国家による断固とした行動を呼びかけた。

 現在、ドイツの全ての政党が、反ユダヤ主義に立ち向かうことについて同意している。問題は根深いだけに解決も容易ではない。しかし、多様な信仰を持つ人々が、今後、いかに共存していけるのか、世界に冠たる前例を見せてほしいところだ。

 

ページ:
1

2

関連記事

 

ランキング

  1.  中国解放軍の退役空軍上将で元中央軍事委員会副主席(軍内制服組トップ)まで務めた許其亮氏が6月2日昼…
  2.  ドットワールドと「8bitNews」のコラボレーションによって2024年9月にスタートした新クロス…
  3.  世界で最も権威のある報道写真コンテストの一つ、「世界報道写真(World Press Photo)…
  4.  「世界で最も美しい島」「最後の秘境」と称されるフィリピンのパラワン島。その美しい自然やコバルトブル…
  5.  かつて恵比寿の東京写真美術館で毎年開催されていた「世界報道写真展」。これは世界報道写真財団(Wor…

ピックアップ記事

  1.  2021年2月に起きた軍事クーデターをはじめ、大雨による洪水や未曾有の大地震など、苦難が続くミャン…
  2.  民族をどうとらえるか―。各地で民族問題や紛争が絶えない世界のいまを理解するために、この問いが持つ重…
  3.  第2話では、ヨルダンの首都・アンマンに住むパレスチナ人二世シナーンさんの話を通じて、パレスチナ問題…
  4.  トランプ米大統領が打ち出す相互関税、いわゆる「トランプ関税」が世界を震撼させている。4月9日に発動…
  5.  2月23日に行われたドイツの連邦議会選挙によって、極右政党である「ドイツのための選択肢(AfD)」…
ページ上部へ戻る