ケニアで深刻化する若者の投票率低下
「多数派」が政治に希望を見いだせない理由とは

  • 2022/8/8

 日本で「若者の政治離れ」が叫ばれて久しいが、実は、ケニアでも同様の問題が国内外のメディアで取り上げられていることをご存知だろうか。2019年の統計によれば、同国では35歳以下人口が全体の75.1%、約3570万人を占め、有権者層の中で18歳~35歳の人口も49%、約1378万人に上るなど、若者が自らの意思で政治家を選んで社会の変革に参加できる可能性が大きい国だ。にも関わらず、8月9日に迫った総選挙の有権者登録状況を見ると、この年齢層の登録者は約880万人と、有権者全体に占める割合は前回に比べて約5%低下しており、ウフル・ケニヤッタ現大統領の後継者を選ぶ重要な選挙への投票権を放棄している様子がうかがえる。若者が投票をボイコットするのはなぜだろうか。本記事では、さまざまな立場の若者を取材し、その答えを探った。 

「この国に民主主義は存在しない」

 看護学校に通うスー・ムンビさん(23歳)は、今回、投票をするつもりがない若者の一人だ。彼女は、若者がいくら声を上げても、ケニアで問題として取り上げられることはないと考えている。

 「若者は政治に関与しておらず、政治家は見世物のために存在するだけです。誰が政治を担うかは政治家の間で決まってしまい、投票では決まりません。この国に民主主義は存在しないし、これからも存在することはないのだから、私は自分のことに集中しようと思います」

投票の無意味さを説くスー・ムンビさん

 ケニアで今日のような複数政党制を軸とした民主主義制度が定着した のは、1992年からと歴史が浅い。しかも、その後も汚職や暴力、時には暗殺が横行したため、「見せかけの民主主義」だと糾弾する声もある。実際、選挙は権力者たちによるパワーゲームの様相を呈しており、そこに市民の声が入り込む余地がどれほど存在するか分からないようにも思われる。

 「民意が汲み取られない投票にわざわざ行っても無駄だ」という意識は、多かれ少なかれケニア人が抱いており、スーさんの意見が特異なわけではない。

不十分な政治教育

 一方、「投票は憲法で定められた権利であり、政治において自分の役割を果たすことができる最良の方法の一つであり、今回の選挙も投票に行くつもりだ」と話すのは、デジタル機器の小売や撮影事業を営むファミナ・アリ・オチエンさん(30歳)だ。

 彼は、「ケニアでは、分権化を進めるようになって、政府関連の仕事に従事する若者が増えました。他のアフリカの国と比べても多いのではないかと思います」とした上で、「問題は、こうした若者たちが、仕事にありつけたと同時に、当初の志を忘れてしまうことです」と嘆く。
 「ケニアの政治家の多くは、いまだにニャヨ・システム、すなわち、政治とは強奪することだという考えに従い行動しています。そのため、いったん議席を獲得した若者たちは、支えてくれたコミュニティに貢献したり、還元したりすることはありません」

教育映像の撮影を通じて啓発を行うファミナ・アリ・オチエンさん

 ファミナさんは、撮影業の傍ら、若者を啓発するために、政治関連の教育映像を撮影し続けている。ケニアでは、ほぼ全ての若者が初等教育を受けているが、政治に関する教育はまだまだ不十分だと考えているためだ。

 「選挙で汚職は付き物ですが、その原因は貧困や非識字率の高さではありません。誰かが賄賂を渡しているかどうか知る上で、学校教育を受けているかどうかは関係ありません。正しい価値観を育んでこそ、汚職のない、力のある若い世代を育てることができます。政治は、選挙戦中の話題にとどまらず、日々の生活に根差した授業として実践されるべきです。そのためには、若者を継続的に感化することが必要です」

果たされない公約、変わらない顔ぶれ

 「選挙には行かないわ。これまで10年も20年も同じ公約を繰り返し、一向に実現してこなかった政治家たちの顔ぶれを見ると、投票する意欲がなくなるの。雇用を生み出して若者を育てる教育と、成長を後押しする制度が必要で、NGOや民間セクターはそのためのプログラムを開発しようとしているけれど、政府はまだまだ遅れています」

 こう語るのは、ナイロビにある有名レストランで若くして総料理長を務めるモーリーン・チェベトさん(27歳)だ。彼女は、停滞する政治の現状にうんざりしていると共に、政府が若者の政治参加を望んでいないと感じている。ケニアでは歴史的に民族を基盤とした、年配の有力政治家によって政治が行われてきたためだ。汚職にまみれた政治家たちは、自分たちが権力を握るために、また同じような指導者を選ぶ。その結果、多数派であるはずの若者が政治の片隅に追いやられ、彼らの声が変化に結び付きにくい現状だ。

「政府は責任を果たしていないため、投票に行く気はない」と答えるモーリーン・チェベットさん

 「私たちは、国民が高い収入を得られ、政府が芸術とイノベーションを後押ししてくれるような国の姿が見たいのです。若者たちは希望を失っており、今回の選挙で有権者の多くが投票には行かないでしょう。もし、若者を政治参加させたいなら、腐敗した指導者を逮捕したり、県レベルでもっと仕事を作ったり、起業家が働きやすい環境を作ったりすることによって政治家が模範を示し、国を率いるべきではないでしょうか」

 モーリーンさんは、「政府が主要な問題に取り組んでいないのに、なぜ国民が投票しなければならないのでしょうか」という疑問を投げかける。若い政治家もいなくはないが、彼らは年老いたリーダーたちのお飾りに過ぎない。「だからこそ、自分たち若者は、どこで何が一番苦しいかを知っている本物の若者の代表を求めているのです」と話す。もっとも、そのような代表は、これまでのところ現れていない。

選挙への不信感と、民主主義への信念

 「不正にまみれたリーダーたちのせいで、この国の政府はめちゃくちゃだ。だからこそ、問題を解決するために、もちろん投票に行くさ。ただ、多くの若者はすでにこの国のシステムを諦めており、国を変えるために一丸となることはないだろうね。僕だって、いつまでも代わり映えしない候補者の顔ぶれを見ると、この国が変わるなんて信じちゃいないけどね」

 キベラスラムでアーティストをしながら市民団体を運営するモーゼス・ムモ氏(25歳)はこう吐き捨てる。ナイロビ大学を首席で卒業した英才だが、今も生計を立てるのに四苦八苦している。

 「若者は選挙のキャンペーンに 、金を支払われて参加し、時には暴力に巻き込まれる。キベラスラムの住民のほとんどは貧しいから、生きていくために仕方ないんだ。忠誠心などではなく、金のために参加するんだと割り切っている。僕はこうしたキャンペーンには参加しない。注目すべき政治家はいないし、民主主義と正義を信じているから」

選挙に対する不信を顕わにしながらも「民主主義を信じている」と話すモーゼス・ムモさん

 ムモさんの地元選挙区では、選出議員が資金を横領したことで区役所が閉鎖されたため、行政サービスを受けようとすると、別の区役所まで行かなければならない状況だ。住民が強欲な政治家によってとばっちりを受けた形だが、こうした理不尽はケニアでは枚挙に暇がないという。

 ムモさんは、有権者に対する教育が正しく行われれば、なぜ投票しなければならないのか、どのような指導者に投票すればよいのか理解できるはずだと信じている。しかし、状況が変わるまでどのくらいの時間を要するか、誰もその答えを持っていない。

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