キリバスと中国の警察協力受け入れを発表
南太平洋で進行する「ミニ中国」化に警戒を募らせる西側諸国

  • 2024/3/4

 中国の警察が、世界に進出している。なかでも、南太平洋に浮かぶ島嶼国への進出の勢いが加速している。このほど中国から警務協力を受け入れることを明らかにしたのは、キリバスだ。ロイターなどが2024年2月23日付で報じたところによると、キリバス警察のエリ・アリティエラ長官代理が、「中国の警察とキリバス警察の間では、すでに警務協力が開始されている」と発言したという。アリティエラ長官代理によれば、キリバスが2022年に中国に警務協力を要請し、それに応じる形で中国は2023年に12人の警察官をキリバスに派遣。以来、6カ月ごとに警察官をローテーションしつつ、派遣が続いているという。この背景を探った。

キリバスの首都タラワで、中国の王毅国務委員兼外相と会談するタネティ・マアマウ大統領兼外相(右)(2022年5月27日撮影)(c)新華社/アフロ

「治外法権に関わる問題」

 中国外交部の毛寧・報道官は2024年2月23日、記者からキリバスとの警察協力について問われ、「具体的な状況は承知していないものの、中国はどの国とも平等に相対し、相互に尊重し合い、開放的で寛容な、win-winの協力に基づいて国家協力を展開している」とのみ答えた。

 一方、キリバス警察のアリティエラ長官代理は、「中国警察からは、キリバス警察が要請した協力とサービスのみ提供を受けている」と説明した。具体的には、コミュニティーの警護や犯罪データベースの構築、太極拳をはじめとする武術やカンフーを通じた警官同士の交流などを挙げている。そのうえで同氏は、「中国はキリバスで海外警察署を設立しようとしているわけではないし、キリバスに住む中国人に対して治安維持工作も行っていない」と述べたが、この発言がかえって西側メディアや専門家の懸念を搔き立てている。

 ロイターなどの報道によれば、オーストラリア国立大学太平洋研究所のグレアム・スミス研究員は、中国がキリバスの華人・華僑社会に影響力を行使しようとしていると指摘したうえで、「警察機能の海外展開を通じて当該国における情報収集力を高めようとしているのは、その典型的な例だ」と、警告しているという。さらにスミス研究員は、「中国警察当局は、キリバスの国内政治や外交パートナー国の動向に関する情報も収集するつもりだろう」との見方を示し、「これは、治外法権に関わる問題だ」と警戒を隠さない。

 この報道に敏感に反応したのが、オーストラリアだ。オーストラリア外務省は、報道が出た直後に、キリバスに対して巡視艇を二隻、寄贈することを発表。「警察署庁の建設や無線インターネット網の構築支援を通じて、キリバス警察を真に支援しようとしているのはオーストラリアだ」との声明を出し、キリバスと中国の間で警察協力がこれ以上深まることに歯止めをかけようとしている。また、米国のグアム駐屯の沿岸警備隊も2月中旬、キリバス警官と協力して、キリバスEEZ内の違法漁業パトロールを行った。キリバス警官を米国の沿岸警備隊巡視船に同乗させて合同パトロールを行うのは、10年ぶりだった。米国としてもキリバスと中国警察の接近に警戒心を高めているということだろう。

ソロモン諸島にも中国人警察が駐留

 米国ハワイ島から西南3000キロに位置するキリバスは、人口わずか11.5万人の小国だ。経済的には貧しいうえ、軍隊も有しておらず、警官もわずか300人しかいないため、同国の国防はオーストラリアやニュージーランドが担ってきた。しかし、キリバスが2019年9月に台湾と断交して中国と国交を樹立してからは、中国が農業専門家や医療支援隊などを積極的に派遣し、インフラ建設への投資を進めつつある。

 キリバスにおける中国支援は、2024年の元旦に首都タラワ島で開かれた新年パーティーで熱中症により心臓麻痺を起こした地元ダンサーを中国人医療従事者が救出したことで、その存在感が内外に顕著に示された。また、中国が手掛けるカントン島の空港拡張工事をめぐっても、中国の戦闘機や偵察機の離着陸を可能にするためではないかとの憶測や疑念が欧米諸国の間で広がっている。そうした状況のさなかに、今回の中国とキリバスとの警務協力が明らかになったというわけである。

キリバスの首都タラワで、中国の王毅国務委員兼外相と会談するタネティ・マアマウ大統領兼外相(右)。(2022年5月27日撮影)(c)AP/アフロ

 南太平洋の他の島嶼国を見てみると、ソロモン諸島も2019年9月、キリバスと同様、台湾と断交した後に、中国との国交を樹立して警務協力を進め、2023年7月に正式に警察協力協定を締結した。サイバー対策や交通管制、解剖医学などの能力向上に関する技術協力や、ドローンと車両の供与を受けるとともに、2025年まで中国人警官が駐留することなどが盛り込まれている。

 一方、同じ島嶼国のパプアニューギニアも2024年1月、中国から警察官の訓練と機材供与を提案され、交渉を進めていることを明らかにした。「わが国にとって伝統的に安全保障上のパートナーである米国やオーストラリアとの重複や妥協を避けるため、中国との協定締結は慎重に検討している」といった弁解はしているのだが。

 パプアニューギニアでは2024年1月10日、首都ポートモレスビーを中心に大規模な暴動事件が発生し、16人以上が死亡し、多数が負傷している。発端となったのは、警官をはじめ、公務員や軍人らによる給与削減への抗議デモだったが、その後、民衆による焼き討ちや略奪も始まった。しかも、本来はこうした犯罪を取り締まる警官たちが職務を放棄し、暴動を起こす側に立ったことから、現地は無法地帯と化した。なお、焼き討ちにあったのはほとんどが華人経営の商店で、中国人の負傷者も出た。こうした事件が起きると、パプアニューギニア政府は一層、中国警察の協力の受け入れを検討するかもしれない。

背景にある旧宗主国への微妙な感情

 中国は2023年12月、キリバスをはじめ、サモア、ソロモン諸島、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、クック諸島を北京に招き、警務協力に関する閣僚級対話を開催した。これらの国々に加え、2024年1月に台湾と断交して中国と国交を樹立したばかりのナウルも軍隊を持っておらず、警官も100人ほどしかいないため、中国が投資や進出のための環境整備として秩序維持が必要だと言えば、警務協力を受け入れざるを得ないと思われる。

 このように中国は、太平洋島嶼国に対して経済支援や投資を行う代わりに、警務協力の推進を働きかけている。とはいえ、南太平洋島嶼国が次々と中国から警務協力を受け入れているのは、必ずしもチャイナマネーになびいたからだけではない。

 もう一つの要素として挙げられるのは、これまで南太平洋島嶼国の社会秩序や治安の維持に協力してきたオーストラリアをはじめ、アングロサクソンの旧宗主国への微妙な感情だ。南太平洋を「自国の裏庭」だと公言してきたオーストラリアの傲慢さを不愉快に思う意見は、島嶼国の政治家や官僚からしばしば聞く。なかには、旧宗主国に搾取され、利用され、国土や伝統を破壊されたという恨みをくすぶらせている場合もある。

ナウルの経済はリン鉱石の採掘に大きく依存している。一次鉱床はほとんど掘り尽くされ、島の5分の4は高い石灰岩の尖塔で覆われ、土地は使い物にならない(2001年9月12日撮影)(c) ZUMA Press/アフロ

 例えば、英国やオーストラリアがナウルで産出されるリン鉱石を国際価格よりもずっと安価な価格で収奪し続けたことで、90年代にナウルの資源が枯渇した時には、土地は荒廃し、伝統的な漁業や農業で暮らす技術も環境も失われていた。その後、21世紀に入って、いわゆる難民の時代になると、オーストラリアが自国で受け入れられない難民の受け皿として、ナウルに地域処理センターを建設する代わりに、運営費として年間3億ドル以上を支払った。とはいえ、同センターでは難民への虐待が繰り返され、国際人権組織からたびたび問題視されたことから、施設は閉鎖。収入を失い、財政がひっ迫するナウルの状況に付け込んだ中国は、ナウルに台湾との断交を迫り、国交を樹立した。

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