インドに絵本を売り込んだ二人の男
カウンターパートとの奮闘「500 日」
- 2019/9/12
”戦友”と迎えた記念すべき日
「デール・ヘイ、マガル、アンデール・ナヒン・ヘイ」
これはヒンディー語の諺(ことわざ)だ。日本語では「時間はかかる。でも、暗闇ではない」という意味である。
インドで仕事をするうえで、何度、この言葉を口ずさんだだろうか。日本の絵本をインドで出版するのがいかに大変か、実体験をもとにその舞台裏を明かしたい。
2018年1月13日。インドの首都デリーで開催された「ワールド・ブック・フェア」の最終日。大勢の観客が詰めかけるなか、会場内のイベント広場では、今まさに“歴史的”なイベントが開催されようとしていた。日本の環境教育絵本「もったいないばあさん」(ヒンディー語と英語のバイリンガル版)の出版を記念する式典だ。なぜ“歴史的”なのかと言えば、それはインドで日本の本が出版されることは非常に稀だからだ。
主催者は、インドの版元である政府系出版社のNBT(ナショナル・ブック・トラスト)。壇上には、NBTのバルデオ・バイ・シャルマ会長(当時)、リタ・チャウドリー編集長(当時)、ヒンディー語の翻訳を務めたプレム・プラカッシュ氏。そして、著者の真珠まりこ氏も東京から駆けつけた。司会はNBTの担当編集者であるクマール・ヴィクラム氏。さらに最大の功労者であるサンジェイ・パンダ氏の姿もあった。彼はIJ懸け橋サービシズ(IJK)という日本企業のインド進出をサポートするインド企業の代表で、日本語も流暢だ。彼こそが、この絵本をインドで出版するために私と一緒に汗を流してくれた人物だ。
式典はシャルマ会長のスピーチで始まり、最後に著者が日本語で、翻訳者がヒンディー語で絵本の読み聞かせを披露。すると、会場にいた約300人の観客から割れんばかりの拍手が起き、現地のテレビ局や新聞各社、そしてNHKもその様子を報じた。この日を迎えるのがいかに大変だったのか、内情を知っていたのは、ステージ上の“戦友”、パンダ氏だけだ。