肌の色によって差別されるベラルーシ難民
マレーシアの社説が欧州における人種差別を分析

  • 2022/1/12

 「難民の地位に関する1951年の条約」(1951年難民条約)が採択されてから、2021年7月で70年を迎えた。しかし、今も新たな難民は増え続け、子どもを含む多くの人たちが生命の危険にさらされている。2021年12月27日のマレーシアの英字紙ニューストレーツタイムズは、社説で欧州のベラルーシ難民問題を取り上げた。

ポーランドとの国境で食料の支給を受け取るために並ぶベラルーシ難民の家族(2021年11月27日撮影)(c) ロイター/アフロ

ポーランドの対応にも課題

  社説によれば2021年12月21日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報道官の言葉を引用し、「聞き取り調査の結果、ベラルーシから逃れた難民の多くが、ベラルーシ国内で治安部隊により暴力を受けたり脅されたりしていたことが明らかになった。さらに治安部隊は、彼らにポーランドとの国境を渡るように強要し、どこから、いつ、越境するかということまで指示し、首都ミンスクには戻れないようにした」と、報告した。
 ベラルーシからポーランドへの難民の「送り込み」は、ベラルーシのルカシェンコ政権が、欧州が科した経済制裁への意趣返しとして意図的に行っている、との見方がある。ベラルーシ政権は関与を否定しているが、2021年7月ごろから、ポーランドだけでなく、ラトビアやリトアニアの国境地帯でも移民や難民の越境が始まっていたという。
 この状況について、社説は「今回の難民問題がベラルーシのルカシェンコ大統領に責任があるのは疑いようもないが、ポーランド政府も、より良い対応ができた」との見方を示した。
 社説によれば、ポーランドには、違法入国した人を母国に帰還させなければならないという法律がある。国連はポーランドにこの法律の見直しを求めるとともに、国際法に基づき、保護が必要な場合について個々の事情を考慮するよう要求しているが、ポーランド側の協力が得られていないという
 「厳冬下、子どもを含む21人の難民がすでに命を落としているにもかかわらず、法律の見直しは進んでいない。中には同情的なポーランド人もいるだろうが、その数は十分ではない。“統一されて強くなった欧州”には、思いやりが欠けていると言わざるを得ない」

肌の色への偏見

 さらに社説は、その背景について次のように指摘する。
 「彼らに思いやりが欠けている理由は、おそらく難民たちの肌の色だろう。難民条約によって、戦後、欧州では数百万人のヨーロッパ難民が救われた。しかし、今日、欧州における難民の多くは、中東やアフリカやアジアや南米の出身者であり、肌の色の違いによる偏見にさらされている」
 同じことは、米国や豪州の移民政策についても言えるという。
 「そもそも彼らがなぜ難民になったかを考えれば、西側諸国の外交政策によって祖国が荒廃したためであるのに、彼らはそんな事情を顧みることはない」
 米国のブルッキングス研究所によれば、世界の難民の数は今日、2070万人に上り、直近10年の間に2倍以上に増えたという。しかも、この数には、パレスチナ人570万人や、ベネズエラ人390万人は含まれていない。
 「締結から70年が経過した難民条約が、まさにその条約をつくりあげた国々によって、今、踏みにじられている、という事実に胸が痛む。外国人を嫌悪し排斥するゼノフォビアや、極右政治によって、欧州は今や危険な要塞と化している。物理的な要塞という意味だけでなく、人種差別の要塞だ」
 社説は、欧州がこのような偏見を持ったままでは、国際人としてのモラルを高めることはできない、と批判し、「欧州よ、壁を崩せ」と訴える。
 欧州における難民問題に、アジアに位置するマレーシアの新聞が強い関心を示したのは、難民が「肌の色によって差別される」という事態に着目したためだろう。遠い国の出来事であっても、視点さえ持てば、「わがこと」になる。グローバル化の中で、自分はどんな視点で社会問題を見ているのか。常に問いかけながらニュースを追いかけたい。

 

(原文https://www.nst.com.my/opinion/leaders/2021/12/758274/nst-leader-rights-refugees)

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