タイ国際航空が経営破綻
組織内の悪循環を絶て

  • 2020/5/23

 タイの政府系企業であるタイ国際航空が5月、破産法に基づく会社更生手続きを申請し、事実上破綻した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、運休が相次いでいたが、破綻の理由はそれだけではないようだ。同社の株式の51%を保有するタイ政府は、資金援助による救済策を打ち出した。5月11日付のタイの英字紙バンコク・ポストは、この問題を採り上げた。

タイ政府は5月19日、経営危機に陥ったタイ国際航空の法的整理を閣議決定した。フラッグキャリアの経営体質の甘さが露呈している。写真は3月25日、タイ・スワンナプーム国際空港で撮影 (c) AFP/アフロ

不透明な再建策

 社説は、今回の政府による救済計画の問題点として、「再建計画が明らかにされないまま決定されたこと」を挙げ、次のように批判する。「加えて政府は、タイ航空を政府系企業として維持することに、原則、同意したが、この救済策は、事業の再建計画が明らかにされないままに発表されたものだ。プラユット首相はこれが最後のチャンスだと言うが、これまでとなんら変わらない “終わりのない救済措置” だ」

 また、社説は、タイ国際航空の労働組合についても厳しい指摘をする。社説によると、タイ国際航空労働組合は5月初め、同社の民営化を探る再建計画に反対するとの立場を明らかにし、同社が政府系企業のステータスを維持することと、分割されないことが必要だと主張したという。つまり、労組は、従業員の解雇は行わず、福利厚生に影響しないことを条件に、国の救済策に賛成し、再建計画を支持したのである。

 タイ国際航空関係者のこうした姿勢に対し、社説は「税金を使って良いのだろうか」と、疑問を投げかける。「残念なことに、この救済策のために必要な費用は、プラユット首相や閣僚や労組の懐からではなく、国民の税金から出される。再建計画が明らかにされず、説明責任も果たされないまま多額の税金が使われることは適切か」。さらに、労組についても、「もし政府の資金援助がなければ、タイ国際航空は破産することを忘れてはならない。もし貸付を受けたとしても、それは時間稼ぎの延命策にすぎない」と、厳しい目を向ける。

組織のすべてが犠牲を

 タイ国際航空の内部には、さまざまな不正の疑いがあったと言われている。疑惑は調査によってきちんと解明されるべきであり、こうした不正体質こそが問題の本質だというのが、社説の主張だ。

 「政治的な介入がある同社の経営幹部は、多くが天下りだ。会長職に就くのは、ほぼ全員が空軍からの天下りであり、こうした人々を受け入れるのは、政治に大きな影響力のある軍部への“ごますり”だ。経営幹部の中には、政治的な要求に応えるために存在している者がいると言っても過言ではなく、会社全体にはびこっている身内びいきのシステムとその弊害は、構造を変えない限り、断ち切ることはできない」

 社説はまた、「タイ国際航空のブランド価値は高く、再建計画次第では、業績の回復も不可能ではない」とした上で、「そのためには、すべての関係者が痛みを受け入れ、犠牲を払う必要がある」と指摘する。「多くの国民が苦しんでいるなか、一部の天下り幹部の利益を守るためだけに政府系航空会社としてのステータスを維持し、これ以上、国民の税金を注ぐことは決して受け入れられることではない」

 そして、この決定を下したプラユット首相に対し、「これが国民の血税の意味ある使い道を示す最後のチャンスになる」として、会社再建に向けた説明責任を果たすよう強く求めている。

 タイ国際航空は、日本人にもなじみが深い。歴史ある企業であると同時に、古い体質を温存してしまった組織でもある。新型コロナウイルスの感染拡大により利用者が激減したことが、とどめを刺す形になったが、古い体質は、この問題とは関係なく変革されなければならない。これもまた、コロナ禍があぶりだした社会のひずみと言えるだろう。

(原文:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/1915856/thais-woes-a-vicious-cycle)

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