コロナ禍で男女格差が拡大したフィリピン
求められる女性の権利擁護策へのテコ入れ
- 2022/1/30
海外就労者が国の経済を支える「英雄」と呼ばれるフィリピン。国民の10人に1人が国外で働くといわれ、その中でも女性たちの活躍が目立つ。2022年1月20日のフィリピンの英字紙フィリピンデイリーインクワイアラーは、フィリピンにおける女性と仕事について社説で取り上げた。
消えない男女格差
フィリピンは、男女格差が世界の中でも小さい国だといわれる。世界経済フォーラムが発表した2021年のグローバル・ジェンダーギャップ報告書によると、フィリピンにおける男女格差の小ささは、世界156カ国のうち17位、アジア太平洋地域の中では、1位のニュージーランドに続き、2位に位置付けられた。しかし社説は、「そんなフィリピンでも、女性が多くの分野で不利な状況にあり、十分に才能を発揮できないでいる」と指摘する。
社説は、同報告書を引用しながら、フィリピンの女性のうち、労働市場に参加しているのは半数以下にとどまり、同じ仕事をしていても男女間で22%もの賃金格差があり、収入格差においては31%も差がある、としている。社説によれば、世界開発指標のデータでも、15歳から64歳の生産年齢人口の女性のうち、労働市場にいるのは49%であり、男性の75%に比べてかなり低いことが分かる。
さらに社説は、他のさまざまな調査から明らかになった同国の女性たちの「実態」について、次のように指摘する。
「フィリピン開発学研究所が発表した2017年の調査では、フィリピンの女性たちの多くが自営業や家族経営の仕事に就き、無報酬や低賃金を強いられていることが明らかになった。また、アジア開発銀行の調査でも、女性の方が男性よりコロナ禍の失業でより深刻な打撃を受けている。実際、コロナ禍以前の2019年には全失業者に占める女性の割合は38~39%だったのが、2020年第2四半期には44%に上昇している」
情報へのアクセスや法規制にも男女格差
また、2022年1月10日には、世界銀行が貿易業の経営者や仲介業者における男女格差について興味深い調査結果を発表した。世界銀行がこれらの分野で働く労働者に対して2021年6月から9月にかけて実施した調査によれば、新型コロナウイルスの感染拡大の影響は男女どちらも受けていたが、情報へのアクセスや法規制に関する認識、商工会への加盟などについては、男女間に格差があることが明らかになったという。
こうした状況を改善するために、世界銀行は商工会などビジネスコミュニティにおいて、ワークショップなどを通じて女性の役割を強化することを提言した。これにより、「差別をなくし、フィリピン女性の権利を擁護する“女性のためのマグナカルタ法”の理念を実現することができる」という。
社説によれば、フィリピンでは、2009年に成立した女性のためのマグナカルタ法とともに、男女格差を縮小するための施策がすでに存在しているという。国内外に女性たちの活躍の場を広げるために、政府はこれを「テコ入れ」しなければならない、と指摘する。
かつてこの国を取材したとき、フィリピンの女性たちの明るさと強さ、たくましさは、甚大な被害を受けた被災地の避難所にあっても健在だった。しかし、だからといって、そんな彼女たちの芯の強さや健気さに、社会や制度が甘えていてはいけない。
(原文https://opinion.inquirer.net/148879/empowering-women-entrepreneurs)