燃料や物価の高騰がアジア経済に及ぼす影響
各国の社説が求める対策は何か
- 2022/6/28
世界各国で歴史的な物価高が発生している。要因の一つは、ロシアによるウクライナ侵攻がもたらした燃料高騰、そして食料輸出をめぐる混乱だ。
エネルギーの節約を呼びかけるタイ
6月13日付のタイの英字紙「バンコクポスト」は、燃料高騰への対策として、「エネルギー節約を」を呼びかけた。
「ロシアとウクライナの軍事衝突は、世界中で燃料費の高騰を招き、原油価格はこの14年で最高値となっている。タイのインフレ予測は当初は4.9%とみられていたが、最近6.2%に引き上げられた」
そんななか、社説によると、タイのプラユット首相は6月上旬、「タイの燃料費は、ASEAN諸国の中では必ずしも最も高いわけではない」との見方を示しているという。
これに対し、社説は「確かにタイの燃料費が隣国と比べて高くはないのは事実だ。しかし、それだからといってタイの人々の暮らしが苦しくないとは言えない。それに、他国と比べて高くないという事実は、現存するエネルギー危機を放置していい理由にはならない」と、指摘する。
社説は、「結局、燃料高騰対策としてのエネルギー節約は、一人一人の肩にかかってくる。政府は何をしてくれるのか、と問いたい」として、国際エネルギー機関(IEA)が示したエネルギー節約のための行動を紹介している。その例として挙げるのが、「高速道路での速度制限を下げる」「週に3日は在宅勤務とする」「都市部で車に乗らないカーフリーデーを設ける」「カーシェアリングを促進する」などだ。
社説は、「これらすべてが我々にとって適切だとは限らないが、大事なのは、政府がこうした行動をとることだ。燃料の確保は、政府の重要政策とするべきであり、啓発活動も必要だ」と、主張した。
食料の安全保障を訴えるフィリピン
「食料の安全保障」について論じたのは、フィリピンの英字紙「デイリーインクワイアラー」だ。6月9日付の社説で「ロシアによるウクライナ侵攻は、新型コロナや気候変動、さらには燃料高騰などで弱っていた世界の食料システムをさらに弱体化した」と、指摘した。
ウクライナもロシアも、食料輸出国である。社説は、食料の調達が不安定になったことで、自国からの食料輸出を禁止した国々がある、と指摘した。例えば、インドネシアはパームオイルの輸出を、インドは小麦の輸出を禁止した。
「フィリピン人にとってこれは何とも残念な知らせだ。コメやトウモロコシ、サトウ、豚肉、それから魚まで輸入の割合が増えてきたからだ。フィリピン国内では今年末には食料不足が起きるという懸念さえ示されている」
社説はそこで、食料の安全保障の重要性について主張する。マルコス次期大統領は、6月30日の就任を前にした20日、次期政権において自らが農業相を兼務することを宣言した。社説は新政権が農業と食を重視する姿勢を歓迎しながらも、政府が食料の安全保障の確立に注力することが必要だ、と強調している。
インドは対ロシア経済制裁の効果を疑問視
一方、インドの英字メディア「タイムズオブインディア」は、6月15日付で「制裁はおおざっぱで効いていない」と題した社説を掲載した。
燃料高騰の背景には、ウクライナ侵攻をめぐる西側諸国によるロシアへの経済制裁がある。しかし、経済制裁は侵攻を止める要因にはなっていないし、ロシア経済に深刻な打撃も与えていないのではないか、と指摘した。
「例えば欧州連合は、2022年末までにロシアからの原油輸入を中止するということで合意した。しかし、ハンガリーを除外しなければならなかったし、ブルガリアもその期限を延長する見込みだ。ロシアのエネルギーセクターに打撃を与えようとした目論見はあてがはずれつつある。ロシアの軍事侵攻を支持するわけではないが、西側諸国の対応はダブルスタンダードで、考え抜かれたものではない」
経済制裁が効かなければ、ロシアはどうしたらウクライナ侵攻をやめるのか。軍事衝突ではなく、世界的な物価高騰が市民の命を奪う可能性が高まっている。
(原文)
タイ:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2324878/all-must-help-save-energy
フィリピン:https://opinion.inquirer.net/153769/ensuring-food-security
インド:https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/hydrocarbon-hypocrisy-sanctions-are-crude-and-often-dont-work-russias-continuing-energy-exports-proves-it/