独立記念日のマレーシア、団結と融和の誓い新たに
50年目の節目迎えた国是の精神を、今、再び

  • 2020/9/7

 8月31日は、マレーシアが英国から独立した記念日だった。マレーシアの人々にとって、一年の中で最も特別な日だという。8月30日付のマレーシアの英字紙ザ・スターは、社説で、マレーシアの国是=ルクンネガラ(Rukun Negara)を採り上げている。

マレーシアの国旗をモチーフにした衣装を着てムルデカ・スクエア(独立広場)でポーズを取る少女たち(クアラルンプールで2020年8月31日撮影) (c) ロイター/アフロ

民族闘争の果てに

 「マレーシアが独立記念日を迎えるにあたり、われわれの国是である、ルクンネガラを今一度、思い出そう」

 社説は、こう書き出す。マレーシアが掲げている国是とは、「神への信仰」「国王と国家への忠誠」「憲法の尊重」「法による統治」、そして「良識ある行動と道徳心」の5つを指す。これは、マレーシア史上最悪とされる民族間の対立、すなわちマレー人と中国人が衝突した「5月13日事件」が起きた翌年の1970年に発表された。社説によれば、これは国民の団結や、民族融和を目指すもので、今年はこの国是が掲げられてちょうど50年目にあたるという。

 マレーシアは、人口の約7割を占めるマレー系や先住民族、約2割を占める中国系、1割弱のインド系などで構成される多民族国家で、それぞれの民族が、言語や宗教、文化、伝統を守りながら暮らしている。それぞれの民族のアイデンティティーを尊重しながら、一つの国家として調和や発展を続ける――。その難しい課題に取り組み続けるため、マレーシアは冒頭の国是を掲げた。

 「しかし、この国是の精神が薄れてきているようにみえる」と、社説は嘆く。「国是は、人々が常に思いを新たにし、心に刻むように、わが国のほとんどの教科書に掲載されているほか、公共施設の壁にも掲げられている。にもかからず、残念ながら、その精神は年々、忘れられつつある」

 社説はここで、国是の50周年を祝うために先月開かれた式典でマレーシアのムヒディン・ヤシン首相が発言した内容を引用する。「首相は先の式典で、国是の原則が尊重されてさえいれば、マレーシアは調和に包まれているということを国民に思い起こさせた。首相は、われわれが国是を尊重する限り、この国の調和は保たれるだろう、とスピーチした」

若い世代への継承が課題

 さらに社説は、「マレーシアが多様な民族や宗教、文化を持つ人々とともに、平和で力強く発展していくためには、今一度、国是に意識を向け、この国がどこへ向かうのか、その基本的な原点に立ち返らなければならない」と主張した上で、「国是が制定された1970年代にはまだ生まれていなかった若い世代にも、その意義と背景を伝えていく必要がある」として、次のように訴える。

 「多民族国家としての国是を掲げた政府の決意を若い世代に継承することは、特に重要だ。もし、国民がみな、日々の交流の中でーーそれがソーシャルメディア(SMS)上であれ、バーチャルのやり取りであれ、面と向かったやり取りであれーー、道徳心と倫理観を保ち、文明的な態度を失わなければ、私たちの社会は世界中で最も調和がとれ、団結したコミュニティーになるだろう」

 国是とは、罰則規定のある法律ではなく、人々の心の在り様を示すものだ。それだけに、きちんとその意味を理解し、世代を超えて共有していくことはたやすくない。それでも社説は、時代を超えた価値観として国是を国造りに生かしていこう、と呼びかける。

 「独立記念日を迎えるにあたり、5項目の国是を再び暮らしの中に取り戻そう。忠誠心、公平心、分け合う心、思いやり――。これらは、かつてのマレーシア人が大切にしていた精神だ。多くの課題に直面する今日世界の中で、この心を持ち続けることが、明日の成功と発展へとつながるだろう」

 その国が、どのような哲学で成り立っているのか。独立記念日という特別な日だからこそ、考える機会を持つことができる。そのきっかけを作ることも、デイリー・メディアの役割の一つだと言えよう。

 

(原文: https://www.thestar.com.my/opinion/columnists/the-star-says/2020/08/30/time-to-embrace-the-spirit-of-rukun-negara-again)

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