「テレビ」が起こすコロナ禍の教育革命
シンガポールの社説が教育番組の可能性に注目
- 2021/2/20
新型コロナの感染拡大で、世界中で多くの学校が休校になった。子どもたちは在宅での勉強を強いられているが、その方法は社会状況によりさまざまだ。2月1日付のシンガポールの英字紙ストレーツタイムズは、社説で、コロナ禍におけるテレビネットワークの可能性について採り上げた。
バーチャル教室の限界
新型コロナの感染拡大により、世界中で学校が長期にわたり閉鎖になり、およそ14億人の子どもたちが在宅で勉強しなくてはならなかったという。社説は、「テクノロジーが子どもたちの学習の方法を素早く変え、学校の教室はわずか数週間でバーチャル教室に変わった」と、学校関係者の努力をたたえる。
しかし、そこには限界があったという。
「バーチャル教室の設置は見事な教育のイノベーションであったが、残念ながらインターネットの接続状態により、すべての人に均一な質のイノベーションが起きたわけではなかった。中所得国や低所得国でインターネットにアクセスできる人は半分以下であり、これらの国々では学校教育のイノベーションも遅れがちだ。OECDの調査によると、スイス、ノルウェー、オーストリアでは95%以上の生徒がコンピューターを使っているが、インドネシアでは34%にとどまっているという。さらに、裕福な国でさえ、国内の経済格差によってインターネットへのアクセスには格差が生まれている」
接続格差を解消するために
社説は、この「接続格差」を解消するのが、多くの国で試されているテレビネットワークの利用だと指摘する。テレビを通じて教育番組を流すというアイデアは、1950年にアイオワ州立大学で生まれたが、今回のコロナ禍を受け、改めてテレビの教育番組が見直されているという。
「世界には、教育のために新たにチャンネルを設けた国もある。中国では、国営テレビで授業を放送して、1億8000万人もの生徒たちの学習を支援した。インドでは、2億6000万人の生徒たちのために、51もの新しいチャンネルを設けた。マレーシアは、つい先週、新たな教育チャンネルを開設したことを発表した。同国では9割以上の世帯がテレビを所有しているからだ。新たなチャンネルの開設は、ほかのテレビ局の競争心をあおり、500万人の視聴者である生徒たちに向けてより便利で役立つ内容の番組を放映しようというモチベーションにつながるだろう」
そして、教育のイノベーションは今後も継続して広がっていくだろうと予測する。
「教育テクノロジー分野は、コロナ禍以前に比べて明らかに拡大している。2019年におけるこの分野への投資額は、世界で約190億米ドル程度だった。米国のマイクロソフト、グーグル、韓国のサムソン、インドのビジュー、中国のテンセントなどがこの分野の市場に関心を寄せており、その規模は2025年までに3500億にまで膨らむと見られている」
さらに社説は、「効率的でフレキシブルな教育プログラムが増えることは望ましい。こうした技術は、教育機会を奪われた2億5000万人以上の子どもたちをも救うかもしれない」と、指摘する。
コロナ禍がもたらしたのは、負の影響だけではない。人間は、今回の危機によって、知恵や経験を用いて新たな道を模索する機会を提供された。教育機会を「維持」するだけでなく、これまでその機会を奪われてきた人たちにも「広がる」ことになれば、技術上のイノベーションを超えた、教育革命が起きるかもしれない。
(原文: https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/tv-networks-bringing-schools-to-homes)