G20・APECが主催国にもたらした意外な成果
ロシアを排除せずポイントを稼いだインドネシア、各国首脳を広告塔にしたタイ

  • 2022/12/16

 この11月、東南アジアでは、世界中の首脳が集まる国際会議が相次いで開かれた。カンボジアでの東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議や、インドネシアでの主要20カ国首脳会議(G20サミット)、タイでのアジア太平洋経済協力(APEC)などだ。ロシアによるウクライナ侵攻や、世界的な物価高、同月にエジプトで開かれた気候変動枠組条約締約国会議(COP27)など、国際的な課題が山積する中での国際会議では、米中首脳会談の実現やロシア外相の動向などが注目された。一方、開催国であった東南アジア諸国には、これらの会議によって何がもたらされたのだろうか。

G20に出席するためにインドネシアを訪問したロシアのラブロフ外相(左)と会談したインドネシアのジョコ大統領(2022年11月15日撮影)(c) Russian FM Press Office/UPI/アフロ

外交「デビュー」のジョコ大統領

 インドネシアの英字紙ジャカルタポストは、11月26日付けの解説記事で、ジョコ大統領の外交手腕について論じた。
 「2024年10月に二度目の5年の任期が終わるとき、ジョコ大統領は最後の3年間だけ外交に取り組んだ大統領として記憶されるだろう。彼が積極的に世界の舞台に立ちたがったのではなく、重要な国際会議の主催国であったためにリーダーシップを担わざるを得なかったのだ」
 記事によればジョコ大統領は、前任者たちと違い、外交には熱心ではなかった。その極みは2014年10月に就任以来、国連総会に1回しか参加しなかったことだという。「ユドヨノ前大統領は、国際政治の中でインドネシアへの注目を集めたがっていたが、ジョコ大統領は現実的で内向きだ。企業家出身という彼の経歴が、長期的に得られる効果よりも、国内経済のキャッシュフローや、短期的、中期的な利益に目を向けさせたのだろう」
 とはいえ、記事は、ジョコ大統領のG20議長国としてのホストぶりは、西欧のメディアからも高い評価を受けた、と指摘する。「ジョコ大統領は、自由で活発な外交指針がインドネシアのDNAに刻まれていることを証明した。例えばロシアをG20から排除すべきだ、あるいはプーチン大統領を招待すべきではないという西側諸国指導者たちの強いプレッシャーをはねのけた」。記事は、今年のG20からロシアを排除しなかったことで、ジョコ大統領が、国際政治の舞台で大きなポイントを稼いだ、と主張する。
 こうしたジョコ大統領の行動の背景には、東西いずれの陣営にも加盟してこなかったインドネシアの「非同盟」の歴史がある、と記事は指摘する。「インドネシアは中立を維持することが難しい場合でも、少なくとも表面的には、非同盟の姿勢を貫いてきた。ロシアによるウクライナ侵攻の場合など明らかに中立ではいられない場合もあるが、インドネシアはロシアを非難しつつも、会議からロシアを排除することはなかった」として、ロシアと対話の道を閉ざさなかったことを高く評価した。
またインドネシアは、中国を最も重要な経済パートナーとしながらも、「アジア太平洋地域の安定のためには米国の軍事プレゼンスが必要だ」という姿勢を保っていることを指摘。ここでも、インドネシアの非同盟の歴史が、ジョコ大統領の現実的な選択のバックボーンとなっている、との分析は興味深い。

「副産物」のソフトパワー

 一方、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議の議長国であったタイの英字紙バンコクポスト紙は、11月24日付けの社説で、APECがタイにもたらした「副産物」について論じている。
 その一つは、タイが自らの持つ「ソフトパワー」に気づいたことだ。「APECは、タイが世界各国の首脳やメディアにさまざまなソフトパワーを紹介する場になった。タイの食べ物、ムエタイ、観光地、ホスピタリティなどがAPEC首脳たちによって次々に世界に拡散される。観光キャンペーンに大金を費やさなくとも、彼らが我々のソフトパワーのプロモーションに一役買ってくれたのだ」
 例えばフランスのマクロン大統領は、チャイナタウンに出向いて有名なレストランで食事をし、ムエタイを見学し、ワットポーを訪れた。アメリカのカマラ・ハリス副大統領は、チャトチャック市場を訪れてチリペーストやレモングラスを購入して持ち帰ったという。
 もう一つの副産物は、APECを開催するにあたり、違法薬物の取り締まりも強化され、治安が良くなったことだ。「10月10日から11月8日まで、タイ国家警察は彼らの手柄を記者会見で発表し続けた。1万人以上が違法武器の所持で逮捕され、4万件以上の違法薬物関連の摘発があり、4300万錠以上のメタンフェタミンが押収された。
 社説は、「APECに先立って、あるいはその会期中にタイ国家警察がこうした成果を成し遂げられたということは、通常時であってもより良い治安状況を維持できるということだ。特別なイベントがない時でも、こうあるべきだ」と主張している。

 

(原文)
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2022/11/25/jokowis-foreign-policy-comes-late-but-internationally-impactful.html

タイ:
https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2445020/building-on-apec-pluses

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